なぜなら、誰もが売りポジションを建てたなら、もうそれ以上、売る者はおらず、残った道は買い戻ししかなくなるからだ。
この理屈は10月4日(火)あたりからの相場反転の背景を説明するのにも通じる。
前回コラムで「ユーロにしても、英ポンドにしても、一直線の下げはなさそうだ」と書いた筆者の真意が今、おわかりいただけるだろう(「UBSの不正取引事件は危機到来の兆し。マーケットを震撼させる大事件が起こる!」参照)。
■米ドルは金以上に「究極のリスク回避先」となり得る
ところで、長期スパンの見通しについて、筆者は前回コラムで述べた見方を堅持している。一時的な状況改善があるとしても、この先の行方はあまり楽観視しないほうがいいと思う。
その問題の本質について、今回はやや違った視点で見てみたい。
前回も提起したように、最近は金(ゴールド)、銀(シルバー)をはじめ、商品市場が大きく値崩れした。
(出所:米国FXCM)
(出所:米国FXCM)
特に「究極のリスク回避先」とされる金の急落は、多くの市場関係者にとってサプライズだった。
何しろ、欧米のソブリン危機の深刻化につれて、量的緩和の拡大が予想され、そうなれば、紙幣の氾濫で金の価値はより高まり、仮にさらに買われることがないとしても、大きく値が崩れることはないと思われていたのだ。
しかし、それでも金は大幅に反落してきたので、前記ロジックにはやはりどこかに間違いがあった。筆者からみれば、その間違いは、米ドル高の本質と来るべき危機の本質を見誤っていたことにあるのではないかと思う。
くどいようだが、今回の米ドル高は「悪い米ドル高」、つまり景気後退に伴う米ドル高であるから、景気後退の局面では、基軸通貨の価値とその基軸通貨で支えている債券市場の重要性が浮き彫りになる。
言い換えれば、米ドルは紙幣であるものの、基軸通貨であるがゆえに、他の紙幣との違いが危機の時だからこそ鮮明になってくる。
そして、国力が随分と落ちているものの、依然スーパー大国として君臨している米国だからこそ、圧倒的な流動性を持つ国債マーケットを有しており、これは金以上に「究極のリスク回避先」となり得る。
■来るべき危機の正体は先進国に伝染していく「日本病」
次に、「量的緩和だから紙幣の価値が下がる」といった発想は日本の例でみればおわかりいただけるように、必ずしも正しいとは限らない。
というのは、日本は少なくとも伝統的な方策では、日銀総裁が「日銀は他の中銀がやれないところまでやっている」と話すほど、十分な量的緩和策をやってきた。
それにも関らず、紙幣としての円の価値が下がらずにいることは大きな示唆に富んでいる。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 月足)
キーワードは他ならぬ、デフレである。
デフレ構造だからこそ、日本においては実は紙幣の価値が一番高く、量的緩和をさらに推進してもなかなか状況は改善できない。もちろん、日本の問題はこれだけではなく、より複雑であるが、デフレ構造がもっとも大きな根本的要因として考えられる。
やや飛躍的だが、このようなロジックから推測していくと、これから米国は日本が歩む道、つまりデフレ体質に陥るリスクが大きいかもしれない。要するに、来るべき危機の正体は先進国に伝染していく「日本病」である。
そして、より直接なその引き金として、FRB(米連邦準備制度理事会)の政策転換が挙げられる。米FRBの政策転換は今回のユーロ安をもたらした直接の原因だけでなく、中長期スパンでの米ドル高が続く基盤ともなり得る。
そのあたりの話はページに限りがあるため、また次回に譲ろうと思う。
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