■市場センチメントが改善されたように見えるが…
足元の為替市場では、米ドル高の勢いが一服している。
9月29日(木)のマーケットでは、ドイツ連邦議会の下院で欧州金融安定ファシリティー(EFSF)の機能拡充法案が賛成多数で可決されたことを受け、ドイツ国債の価格は下落(利回りは上昇)し、ユーロ圏の主要株価指数は上昇といった形で歓迎された。
実際のところ、この法案に予想以上の賛成票が集まったことで、メルケル首相の指導力の健在ぶりが世間に明らかとなった。大国であるだけに、ドイツの政治的な安定と団結は市場に安心感を与えたと思われる。
しかし、可決された法案はギリシャ支援を目的としているものの、皮肉にも、マーケットはギリシャのデフォルト(債務不履行)を織り込んでいる。
ドイツ議会の可決を求める本当の狙いは、為政者に対して、ギリシャ以外の国への危機拡大を防ぐという包括的な対応にある。
ギリシャの「次の番」と見られるイタリアで同日に実施された10年国債の入札では、ユーロ導入後の最高レベルとなる5.86%の利回りとなり、イタリアに対するマーケットの疑心暗鬼と根深い不信感が浮き彫りとなった。
EFSF拡充法案だけで、ユーロ圏のソブリン(国家に対する信用)危機を回避できるといった発想は短絡過ぎるし、ユーロ圏の内部でさえ、その成り行きを懸念する声は多いようだ。
従って、当面はEFSF拡充法案のニュースで市場センチメントが改善されたり、株安に対する調整でリバウンドがあったり、また、ユーロ安に対する修正も見られるかもしれないが、世界景気後退というメイントレンドが修正されないかぎり、株安と米ドル高は安易に修正されないだろう。
要するに、「悪い米ドル高」が続く公算が大きい(「バーナンキFRB議長の無策ぶりが露呈。『悪い米ドル高』はまだ始まったばかり」)。
■本当の「ショック」はこれからだ!
さて、このコラムでは「悪い米ドル高」の背景と根拠をずっと指摘してきたが、今回はやや違った視点で「悪い米ドル高」の蓋然性を検証してみたい。
最近は、この8月に始まった世界的株安の現象について、2008年のリーマン・ショックを連想するような形で語られることが多い。
だが、筆者は現時点の状況はリーマン・ショックではなく、「ある事件」が発覚した後の段階に似ているのではないかと思っている。つまり、本当の「ショック」はこれからだ。
リーマン・ブラザーズの経営破綻は2008年9月15日のことだったが、その引き金となったのは、2007年の米国におけるサブプライム問題だ。
そして、サブプライム問題の進行とともに「ある事件」が発覚し、市場心理は一気に冷え込み、物事はしだいに悪い方向へと進んでいった。
その「ある事件」とは、フランスのソシエテ・ジェネラル銀行で当時トレーダーだったジェローム・ケルビエル氏の「不正取引」がもたらした、49億ユーロという銀行業界における史上最大の損失だ。
そして、歴史は繰り返すように、スイスのUBS銀行が9月15日(木)に、ガーナ出身のトレーダーによる「不正取引」で20億ドルの損失(後に23億ドルに修正)を出したと発表した。
■UBSの不正取引発覚を単独事件とかたづけてはならない
ソシエテ・ジェネラル銀行の損失発覚は2008年1月のことであるが、同月のNYダウは急落していたものの、その後は5月までにある程度、値を戻していた。
当時のマーケットのムードも現在と同じようなもので、懸念と不安に満ちていたが、最悪の事態を避けられるのではないかといった期待感も強かった。
当然、この2008年5月時点では、市場関係者の大半はその後の株式市場の暴落を想定できていなかった。
ソシエテ・ジェネラル銀行の損失をUBS銀行の損失に、サブプライム問題を現在のユーロのソブリン危機に置きかえれば、嫌な予感がせざるを得ない。
「単独性の強い不正取引事件を世界的危機の兆しと読み取るのは、いくらなんでもこじつけではないか」という意見が「正統派」から聞こえてくるが、根本的には、こういった不正取引事件の発生と発覚は歴史的な蓋然性を持つものが多い。
歴史そのものも偶然性をもってその必然性を証左するもので、単独事件とかたづけないことが正解であると思っている。
このあたりの論証にはかなりのページを費やすし、ややテーマの中心から離れたことなので、詳細は見送ることにするが、仮に…
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