「EU共同債券」などの施策によってEU全体の債務を体系的に消化する以外、EUの再生はない。ただ、それではドイツをはじめとする「優等生」は莫大な犠牲を被ることとなるため、ドイツ国民は猛烈に反発するだろう。
結局、相当な痛みなしでは、政治的な妥協はあり得ない。だから、今こそギリシャのEU離脱に備えるべきで、ユーロ下落の大波に乗る準備をしっかりしておきたい。
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来年には、ユーロ/米ドルはパリティ(1ユーロ=1ドル)以下となり、ユーロ/円は再び安値を更新する可能性が高いだろう。
■大打撃を受けても、ユーロが崩壊し、なくなることはない
ちなみに、5月13日のコラムで書いたように、ギリシャのユーロ離脱は以前からウワサされていた。当時ではあり得ないとの見方がほとんどだったが、「万策を尽くした」現在では、離脱の現実性は高まっている(「今はあり得ないギリシャのユーロ離脱。本格的なユーロ安はこの先にやってくる!」を参照)。
その象徴的な出来事があるとすれば、ギリシャのパパンドレウ首相の辞任だと見ている。
ギリシャ首相の辞任は事の終わりではなく、混乱と衰退の始まりとなる。ギリシャのデフォルト(債務不履行)があれば、かつてのアルゼンチンの悪夢が繰り返されるかもしれない。
当時のアルゼンチンは大統領が国外逃亡したり、前閣僚が逮捕されたり、1週間で首相が何人も入れ替わったりと、混乱を極めていた。ギリシャの悲劇は、開演したばかりなのだろうか?
余談だが、ギリシャはユーロ導入の時点で不正がすでに存在し、条件を満たせないままユーロ圏に入ったことが、今になって公にされている。
当時、その不正に手を貸したのがゴールドマン・サックスであるから、ギリシャ問題は米国がEU内部に送り込んだ「時限爆弾」でもあるとみる識者は多い。
このような「陰謀論」の正誤はともかく、ユーロという通貨が最初から構造的な問題を抱えていたことは明白だ。
しかし、1月21日のコラムで書いたように、ユーロ自体は大打撃を受けるものの、ユーロが崩壊し、なくなることはないと思っている(「ドイツのPIIGS支援が織り込まれ始めた!ユーロ崩壊論は『経済音痴』の寝言だ!」を参照)。
現在のEUと通貨「ユーロ」は、2回の世界大戦も含めて、莫大な犠牲と何世代もの欧州人の努力の結晶である。それだけに、安易に崩落することはないだろう。
この件に関しては、歴史問題を含め、諸問題における意識対立がなお大きく、真の反省の上に成り立つ真の融和といった環境にはほど遠い、アジア圏の人々には理解し難いところでだろう。よって、俗論を安易に信じてはならない。
■これからはドル/円ではなく、クロス円主導で相場が動く
少し前に読んだ記事によると、ユーロ/円に関しての日本企業の想定為替レートはかなり楽観的のようだ。平均値をとると、市場レートと10円以上の開きがあったとされ、驚いた。
ユーロのソブリン危機がこれだけ叫ばれているのに、なぜ、そのような甘いレートを設定しているのだろうか?
そのナゾ解きをすると、日本政府・日銀の市場介入に関連があるだろう。また、筆者が最近インターネットで読んでいる個人投資家の「自慢話(ブログ)」にも、このような市場センチメントが反映されていると思う。
この個人投資家は逆張りで米ドル/円を買い込み、介入で儲けたらしく、「日本の介入があることを読んでいたから」と胸を張っている。
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実に、この言葉にこそ円高トレンドの継続を説明できるヒントがあり、さらに、日本企業の想定為替レートの「遅れ」を説明できるものだと感じている。
ただし、日本の当局による介入の効果は通貨ペアによって異なる公算大である。円高トレンドはなお継続するとはいえ、これからはユーロ/円などのクロス円主導の相場が展開されるだろう。
このあたりの話は、また次回に行いたい。
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