足元の為替市場では、米ドル高に一段と弾みがついている。ドルインデックスは80の大台に乗せてきており、ユーロ/米ドルは年初来安値を更新(米ドルは対ユーロで年初来高値を更新)した。
前回のコラムでは、いったんリバウンドした後に年初来安値を更新していくといったシナリオを示したが、それが崩れている(「EU首脳会議の結果がどうなろうと、急激なユーロ崩壊はないと読む理由とは?」を参照)。
■リスクオフ局面でも「有事の金」となっていないワケは?
EU(欧州連合)首脳会議自体は正しい方向、つまり、財政統合の方向に動いており、もっと評価されてもよいと思う。
しかし、実効性を伴わない合意内容であることから、株安が進み、ユーロは節目の1.3000ドル割れまで売り込まれた。
格付け会社がユーロ圏内の各国や大手銀行の格下げを示唆したこと、メルケル独首相がESM(欧州安定メカニズム)の規模拡大に反対していることなど、市場はマイナス材料に対して敏感に反応したのだ。
このマイナス材料には、フランスがトリプルAの格付けを失う可能性が高まったことも含まれている。ただ、最近はフランスの高官自らがこの可能性を繰り返し指摘し、あたかもアナウンス効果を狙っているようでもあり、とても興味深い。
欧州ソブリン危機といっても、ユーロ安は危機の進行を単純に反映したものではない。ユーロ相場は株式市場のパフォーマンスと相まって、リスクオン/オフという市場センチメントの変化との関係性がかなり深い。
しかし、リスクオフの場合の従来の構造は崩れつつある。下にユーロ/米ドルと金(ゴールド)の値動きを比較したチャートを示したが、最近では、ユーロ安が金価格の下落と相関性が高いことがわかる。
(出所:米国FXCM)
本来は、リスクオフであれば「有事の金」となって、金がさらに買われるのが当然である。ところが、足元では金はユーロとともに売られている。
これは、極端なリスク回避となっていて、キャッシュを確保したい投資家が多いということが読み取れる。
文字どおりの「換金売り」となったわけで、市場センチメントが極端に悪化していることを物語っている。
■ユーロに関するマイナス材料は相場にかなり織り込まれた
言うまでもない。もしも近々ユーロの解体があれば、2008年のリーマン・ショックのような「竜巻」の襲来があるはずだから、それに備えようという判断は妥当である。リーマン・ショック後、金でさえ34%も下落したのだから、今のうちにキャシュに変えておこうという行動は理にかなっている。
つまり、市場はすでに最悪の状況を想定して行動しており、マイナス材料はかなり織り込まれている。
そうであればこそ、前回のコラムで示した見方どおり、ユーロ安の進行は一直線ではなく、どこかの時点でリバウンド局面に入るといった結論に達する。筆者はなお、この見方を維持する。
もちろん、EUの解体やユーロの崩壊があれば、話は別である。だが、現状のままであれば、ユーロ安はいったん一服するだろう。
市場センチメントがかなり悪化している結果として、ユーロは1.3000ドル割れまで売られたが、市場センチメントが極端な状況から修正されてくれば、ユーロはそれなりに落ち着きを見せると推測している。
■今回は「危機」であって「ショック」ではない
もっとも、このコラムでも何度か指摘してきたように、2008年のリーマン・ショックと今回の欧州のソブリン危機の大きな違いを挙げれば、今回は「危機」であって「ショック」ではない点である。
今回の「危機」は事前に周知され、襲来が予測された台風みたいものである。「来るぞ!来るぞ!」と言われる間に、台風の被害を最小限にとどめるべく、さまざまな作業や努力がなされてきた。
対照的に、2008年のリーマン・ショックは突如発生した「竜巻」のようなものであり、事前に予想できなかったからショックも大きかった。
したがって、ユーロ崩壊やEU解体がないかぎり、ユーロ安という大きなトレンドは不変だとしても、2008年のような一本調子のユーロ安となる可能性は低いと思う。
2009年前半から騒ぎ出した「ギリシャ・ショック」に比べると、最近のほうが、欧州のソブリン危機の深刻度はかなり増している。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 週足)
だが、2010年6月に1.18ドル台まで下落したことと比べれば、現在のユーロはかなり高いレベルにある。このことが1つの証左となるかもしれない。
■なぜ、ユーロは1.3ドル割れまで売り込まれたのか?
また、ユーロが1.3000ドル割れとなったことは、最近の市場環境と深い関連性がある。
一般的に、12月に入るとマーケットの売買高が細くなる傾向にあると言われるが、今年の場合は特に顕著であったようだ。海外のディーラーによると、例年の約3分の1程度まで売買高が落ち込んでいるとのことだ。
要するに、流動性が極端に低下している状況下で、ユーロの下げ幅が拡大したのである。
これに対して、流動性が極端に低下しているからこそ、ユーロは暴落しやすく、1.2000ドルや1.1000ドルといった下値の大台を一気にトライするリスクが高まるといった見方もあるだろう。筆者はこのようなリスクシナリオも念頭に置きながら、やや違う側面でとらえてみたい。
1つ目は、流動性の低下は諸刃の剣であり、トレンドをさらに加速することにもなるが、逆に大きなリバウンドを招くこともある。
つまり、極端に売買高が少ないからこそ、仕掛け的な買いによってユーロショート(売り持ち)筋のストップ・ロス(損切り)がつきやすいということも想定しておきたい。
もう1つは、今年の相場の特性である。為替専門のヘッジファンドの多くが苦戦していると耳にする機会が多いが、損失を被ったところの多くがユーロ売りを仕掛けて失敗しただけに、同じ轍(てつ)を踏めるかどうかは微妙だ。
今年の為替相場の特徴や来年の展望については、また次回に譲ることにしよう。
■今回の年末年始相場は何があってもおかしくない
ここで、ちょっと気になっているのは、米ドル/円が動意薄であることだ。どちらかというと、クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)における円高は、リスク回避型の円買いよりも、単純に外貨安による受身の円高にすぎないといった感触が強い。
円高傾向がなお続くという見方は堅持する。一方で、米ドル/円での円高のピークはすでに過ぎている可能性があり、このことを考慮すれば、クロス円における円高も来年前半あたりにピークとなる可能性がある。
また、円の受動的な役割は強まっており、ユーロ/米ドルと同じように、ユーロ/円などのクロス円における短期的な見通しも、基本的にはいったんリバウンドとみてよいだろう。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/円 週足)
年末年始相場で、かつ、例年よりも極端に流動性が低下している状況であるため、マーケットに何があってもおかしくないと思うべきである。
前述のように、筆者はユーロのリバウンドがあるとみているが、短期スパンでいえば、ユーロの1.2000ドル割れがあっても驚かないし、逆に1.4000ドルまで上昇してもサプライズではない。
したがって、このような「非常時」においては取引を見送るか、取引する場合はリスクコントロールを一層厳しくしないと痛い目にあう確率が高くなる。忘年会で酔った気分で相場に臨むべからず!
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