■米ドル/円は「キーウーマン」の発言にたびたび翻弄
先週2月15日(金)のコラムでは、「いいわけ」として「材料が多いから…」と記していたが、市況はまさにそのとおりの展開となった。
【参考記事】
●購買力平価が示すドル/円上昇の限界点。なぜ、96円で頭を押さえられるのか?(2月15日、陳満咲杜)
(出所:米国FXCM)
先週のコラムを書いているうちに、米ドル/円はすでに安値を切り下げる展開となっていたが、さらにその日(2月15日)のロンドン市場序盤では、一時92.22円まで安値を更新した。
同安値をもって2月11日(月)の大陽線を否定したわけで、米ドル/円がさらなる安値を切り込み、反落していっても全然おかしくなかった。
しかしその後、ラガルドIMF(国際通貨基金)専務理事の円安発言が出てきて、米ドル/円は一気に切り返しを果たし、その日(2月15日)のうちに93.84円まで上昇した。
このような値動き、実は2月11日(月)にも展開されていたことが記憶に新しい。
先週のコラムでも取り上げたように、2月11日(月)は、ブレイナード米財務次官のアベノミクス支持発言で米ドルが急上昇していた。
キーマンならぬ、キーウーマンたちの発言はまさに「罫線屋」、すなわち「テクニカル派」泣かせであった。
というのは、下の日足を見ればわかるように、彼女たちの発言がチャート上のサインを消すこととなり、単純にチャートのみのシグナルで相場を張っていたトレーダーにとっては不意討ちになったはずだったからだ。
(出所:米国FXCM)
2月11日(月)の大陽線をもってその前の「宵の明星」を打ち消し、2月15日(金)の陽線は「ハラミ」の組み合わせをいったん下放れしたわけだから、本来下値を打診するサインだった。
しかし、一転して高く引けたことで、狼狽した「罫線屋」も多かったのではないかと思う。
しかしよく考えてみれば、マーケットというのは歴史と同じく、往々にして個々の偶然性をもってその必然性を証明するものである。
偶然とも言えるキーウーマンたちの発言とそのタイミングは、本当のところ、円安トレンドの強さを証左し、トレンド自体のトップアウトがなお先であることを示唆しているのではないかと思う。
言い換えれば、先週(2月11日~)末、ちょっと安値を割り込んだだけで性急な米ドル売りを仕掛けていたなら、このあたりの整合性をよく考えていなかったとも言える。
実際、円売りトレンドの強さから考えると、トレンドに沿った方向の材料(つまりアベノミクス支持や円安容認といった話)が出やすく、またそれがマーケットに利用されやすいことを認識しておけば、先週末はむしろ逆張りのチャンスをうかがうべきところであった。
筆者自身が先週末に逆張りを仕掛けたのも、当然のようにテクニカルの根拠を押さえた上での判断だったが、前述の考え方にも基づいている(詳細は筆者のブログに公開しているから、ここでは省略)。
案の定、その後、ラガルド女史の発言が伝わり、短期スパンでのトレードを成功させてくれた。
この意味では、ファンダメンタルズが総じてトレンドの後についてくるものだといった「相場の真実」を信じるなら、予測自体もそう難しくないかもしれない。
■同じチャートから正反対の意味を読み取ってしまう理由
ところで、「罫線屋」がおかしやすいミスの1つとは、個々のサインにこだわりすぎたゆえに、色メガネをかけてしまうことだ。
足元の米ドル/円を、違った色メガネをかけて見てしまうと、まったく違った結論を出してしまうだろう。
下のチャートで、「ヘッド&ショルダーズ(※)」しか読み取れない方は米ドル/円のトップアウトと判断し、ショートポジションを取ってしまうだろう。
(※編集部注:「ヘッド&ショルダーズ」はチャートのパターンの1つで、天井を示す典型的な形とされている。人の頭と両肩に見えるために「ヘッド&ショルダーズ」と呼ばれていて、仏像が3体並んでいるように見立てて「三尊型」と呼ぶこともある)
(出所:米国FXCM)
なぜなら、同フォーメーションはよくトレンドの天井に出るし、いったん成立すれば、少なくとも90円台まで反落する見通しだからだ。
それに対して強気派は、下のチャートに示したように、同じチャートから強気のフォーメーションを見い出す。すなわち、上昇トライアングル、あるいは上昇途中のシンメトリカル・トライアングルと見なせば、上値更新はこれからだ。
(出所:米国FXCM)
したがって、こういったテクニカルのワナを避けるために、以下の2点に注意すべきであろう。
1.チャート上のサインやフォーメーションは、本当に点灯、あるいは成立するまで確信を持たないこと。またダマシの可能性にも常に注意しておくこと。
2.整合性をもって相場を全面的に判断し、できるだけ色メガネの度数を減らすこと(人間である以上、まったく色メガネを掛けずに相場を見るのは不可能だし、取引システムさえできない。なぜなら、システムのロジックは色メガネを掛ける人間が書いているからだ)。
■早く成立した方のフォーメーションに従うと予測するが…
「こんな説教はどうでもいい、米ドル/円がこれから上がるか、それとも反落するかを言ってみよ」といったお叱りがそろそろ来るかと思い、本題に戻るが、実はその答えは前述のとおりである。
つまり、足元では微妙なので、筆者は特にスタンスを持っていないが、前述のチャート上の両フォーメーションのうち、どちらかが先に成立すれば、短期スパンのトレンドはそこに進むと思う。
「そんな風見鶏みたいな…」といったお叱りも承知しているから、あえて言ってみれば、キーウーマン発言から考えて、米ドル/円の上値志向はなお維持され、上にブレイクしていく公算がやや大きいのではないかと思う。
95円の大台をいったん打診してもおかしくなかろう。
当然のようにこのような話を持ち出すと、先週のコラムでも言っていたように「皆、同じ話をし始まったら相場が終わり」、あるいは「曲がり屋の陳でも95円の大台を言い始めたら終わり」といったリスクもあるので、ご参考まで。
【参考記事】
●購買力平価が示すドル/円上昇の限界点。なぜ、96円で頭を押さえられるのか?(2月15日、陳満咲杜)
一方、先週のコラムでも指摘していたもうひとつの可能性、つまり、「円売りポジションの買い戻しがすでに始まっている公算が大きい」ことは、クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)、特に英ポンド/円の相場から認証されているのではないかと思う。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:英ポンド/円 日足)
英ポンド/米ドルの「底なし」急落があっただけに、英ポンド/円の反落も当然の成り行きだが、ここで注目しておきたいのは円安トレンド全体の値動きだ。
要するに、今まで米ドル/円、ユーロ/円、豪ドル/円の上昇に追随して、遅れてはいたものの英ポンド/円も基本的には高値更新し、ブル(上昇)トレンドを維持してきた。
しかし、これから仮に米ドル/円の高値更新があっても、英ポンド/円が遅れても追随してこない、あるいはユーロ/円さえ高値更新が難しい状況になれば、円安トレンドの一服が本格的になってくる公算が大きい。
市況はいかに。
(2月22日 PM1:30執筆)
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