■米国の利上げはあっても12月の1回限りか…
そして、米国の大統領選挙と並んで気になるのがFRB(米連邦準備制度理事会)による利上げについて。米5月雇用統計のネガティブサプライズと英国のEU離脱ショックにより、市場の期待はすっかり萎んでしまっている。
【参考記事】
●米雇用統計ショックで6月利上げ消滅! 英国のEU離脱支持が増えたワケとは?(6月7日、西原宏一&松崎美子)
「米国の利上げについては、2016年年内に1回か2回を見込んでいましたが、英国のEU離脱ショックにより、7月、9月の可能性は低く、あっても12月の1回だけになりそうです」

(詳しくはこちら → 経済指標/金利: 各国政策金利の推移)
「2016年年初は年内に4回利上げと言っていたFRBですが、それどころではない状況になっています。
ただ、FRBのイエレン議長を始め、FOMC(米連邦公開市場委員会)メンバーは、英国国民投票前から、EU離脱による米国経済への影響は限定的との見方を示していました。
したがって、米国の利上げ軌道は変わらず、ペースに関しても経済状況次第との方針を貫くとみています」
■英国は不透明感ありすぎ…正式申請遅れればEU残留も
米国の利上げはあっても12月の1回との見通しを示した平松さん。では、その原因となった英国の今後について、どのように見ているのだろうか。
「現状では不透明感がありすぎます。英国のキャメロン首相は、正式なEU離脱申請を新首相に委ねるとしていて、9月に与党・保守党が新首相を選出するまで、EU離脱の行方さえわかりません。
一部では、ロンドンなど残留派が多かった地区で国民投票やり直しの署名まで行われていますし、これは法的にも可能です。
さらに、英国がEU離脱を正式に実施しない確率は30%残ると指摘するアナリストもいます。
また、正式申請が遅れれば遅れるほど、英国がEU離脱をしない確率は高まるとみられています。目標は遅くとも今年(2016年)の年末まで。それまでに正式申請をしなければ、英国がEUを離脱しない可能性が高まるでしょう」
ここで話を米利上げ時期に戻そう。
平松さんは現時点で年内の米利上げがあるとしても12月の1回のみと予想している。そして、12月頃になると、さまざまな不透明感が払拭されていそうだという。
「まず、11月に米国の大統領選挙が終了して新大統領が決定します。そして、英国でも新首相が就任し、EU基本条約(リスボン条約)50条を発動させ、EU離脱の正式な申請を行っている可能性があります。年末までには米英が先行きの見通せる状態になっている可能性があるのです」
■今後は米国の「雇用の質」にも注目
ネガティブサプライズとなった米5月雇用統計も米国の利上げ観測を大きく後退させた要因だが、実際、米国の雇用環境はどのような状況なのだろうか?
「米5月雇用統計については、NFP(非農業部門雇用者数)が16万人増の予想に対し、3万8000人増というのは、さすがに、これから先どうなるかという懸念を生じさせてしまいました。
ただ、米国の1-3月期GDPが前期比年率プラス0.8%と1%を切っていて、企業が雇用を増加させる基調ではなかったので、今までどおりにはいかないだろうという、当初の予想どおりの形ではありました」
(詳しくはこちら → 経済指標/金利: 米国主要経済指標の推移)
「米国の雇用については、これまで一環して増えてきましたが、イエレンFRB議長も述べているとおり、『雇用の質』が良くありません。低賃金の仕事は増えていますが、高賃金の仕事は増えていない状況にあります。
そして、仕事が増えているのが50代以上で、20代~30代といった働き盛りの職が減少しているといったように、中身が伴っていないのも問題です。
今後は米6月、7月雇用統計の結果を見て、5月分が一過性のものなのか否かを判断していくことになりそうですが、その際は『雇用の質』も見ていく必要があると思っています」
■米ドル/円は引き続き下値模索も年後半は上昇へ
では、英国EU離脱ショックにより一時、99円台まで急落した米ドル/円について、平松さんはどのような見通しを持っているのだろうか。
「英国の新首相が決まり、11月の米国大統領選挙を通過するまでは、経済への不透明感がより強まり、市場には恐怖感が強く漂って、リスクオフの動きが優勢となる可能性があります。米ドル/円は、11月までの間に下値を試す動きがありそうです。
それ以降については、先ほどもお話したとおり、不透明感が払拭され、米ドル/円は上昇すると考えています。
問題は下値ですが、これは英国国民投票の際につけた99円近辺で十分な気もしますが、さらなる思いがけないイベントが起こった場合でも日銀が2013年4月に最初にQQE(量的質的緩和)を導入した水準、92~96円以下まで下落する可能性は少ないとみています」
【参考記事】
●ザイFX!で2013年を振り返ろう!(1) 【相場編:前編】アベノミクスで円安進む!

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 月足)
英国の新首相決定・EU離脱正式申請や米国大統領選挙が終わるまではリスクオフが優勢としながらも、それらのイベントを通過すれば不透明感が払拭し、米ドル/円は上昇するイメージというのが平松さんの見解だ。
ニューヨークから現地の生の声を交えてニュース配信をしているフィスコNY。元為替ディーラーの平松さんによる記事も読み応え十分なので、ぜひトレードに活用してみてはどうだろう。
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(取材・文/ザイFX!編集部・庄司正高)
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