■ツイッター上で発生した“戦争”
ツイッター上で熾烈な戦争が起きている。
一方の主役はツイッターで活発に活動する個人投資家たち。
もう一方は通称「オプザイル」。バイナリーオプションのUSBツールを高額で販売する集団だ。
この争い、失言や暴言をきっかけとした単なる「炎上」騒ぎとはワケが違う。
オプザイルが販売するのは、30万円から50万円ほどもする高額な商材。その効果はさておき、バイナリーオプションのツールといえば、「高額な商材を買ったが、効果が出ないため返品したい」との相談が国民生活センターに寄せられたりしているものだ。
そして、ツイッターはFXトレーダーの定番ツール。しかるべきアカウントをフォローしていると経済指標や中央銀行の会合の結果などがいち早く入手できるし、トレード上手な人のつぶやきを参考にして取引したりもできる。FXトレーダーにとって欠かせないツールと言えるだろう。
そんな便利なツイッターの世界が荒らされることに対して、一部の個人投資家勢が立ち上がった、というのが今回の戦争の構図だ。
■リア充ぶりをSNSで見せつけるオプザイル
そもそも、オプザイルとは何者なのか。普段、ツイッターと縁遠い人には耳なじみのない存在だろう。その正体は判然としないのだが、大まかに定義すると次のようになるだろうか。
「ツイッターやフェイスブックで高級ホテルや高価な飲食店での豪遊ぶりを見せつけ、興味を持った人へバイナリーオプションのシグナルツールを30~50万円ほどで売りつける集団」
彼らは20代がほとんど。染めた髪やきらびやかな服装などの特徴もあり、「バイナリーオプション版のEXILE」といった意味で「オプザイル」と名づけられたようだ。彼ら自身が「オプザイル」と自称しているわけではない。
■オプザイルへの加入はオーディションではなくSNS!?
オプザイルのセールス活動は、SNSを入り口とすることに大きな特徴がある。
たとえば、あなたがある日、突然、見知らぬ人からフォローされる。「どんな人だろう?」と相手のタイムラインを覗くと、華やかな写真とともにこんなふうなツイートが…。
今日は仙台→ハワイ。気分を変えてワイキキのトランプ・インターナショナルホテルでトレード。こんな気ままな暮らしができるのもバイナリーのおかげ♪ 夜は仲間と投資案件で密談。次はいくら儲かるんだろう…ワクワクするなー!
お金持ちなんだ。フォローを返しておこうか――すると、すぐにダイレクトメッセージ(DM)が送られてくる。
フォローありがとうございます! 投資家のHiroです! 仲間と一緒にバイナリーオプションで稼いでいます! 一歩踏み出してよかったー!
「あ、スゴそうな人からDMがきた……」なんて思ったら、もう危ない。
「ちょっとお茶でも」とリアルの場へ誘い出され、その場で30万円以上のUSBツールを売りつけられることになる。これがオプザイルの典型的な勧誘の流れだ。
■そして始まった「投資クラスタvsオプザイル」の戦い
しかし、オプザイルのような商材販売者は数多い。なぜ、オプザイルは個人投資家の戦意に火をつけてしまったのだろうか。
「オプザイルのように『俺は投資で成功して、金持ってるぞ』とアピールするアカウントは他にも多く存在します。しかし、彼らのツイートをウォッチしていると、デモ口座の画面を使用しているフシがあった。不正の臭いを強く感じたことから、強く興味を持つようになりました」
そう振り返るのは、オプザイルについて初期から問題を提起してきた株式投資家のおけらさん(ツイッターID:@okera1127)だ。
先述したようにオプザイルは自称ではないし、明確に組織化されているわけでもないようだ。そのため、おけらさんが指摘しているのも、「オプザイル的特徴を色濃く持ったアカウント」ということになる。以下の文中では引き続き「オプザイル」という簡略な表現をとっているが、意味はそのようにとってほしい。
オプザイルが「1時間で2万円儲けた」として掲載したスクリーンショットに堂々と「デモ口座」の文字が踊っていたり、「10分で11万円勝ち」と主張するスクリーンショットの取引は本来、勝ち得ない為替の動きだったり――おけらさんはこのようなオプザイルの不審点を次々と指摘していった。
このあたりが2016年の春から初夏にかけての動き。多くの個人投資家がオプザイルの存在に気がつき、不審に思い、注意を喚起し始めた、いわば第一次戦争だ。
■この時点ではオプザイルはあまり打撃を受けなかった
おけらさんの指摘を見ると、彼らのツイートの信頼性に疑問符がつくのだが、オプザイルのターゲットは投資未経験者。普段、株やFXとは縁遠い人たちだ。
おけらさんなどの個人投資家が「オプザイルって怪しくない?」といくら叫んでも、その声は届きづらい。そのため、大きなダメージはなかったようで、オプザイルの活動に衰える気配はなかった。
むしろラストスパートのごとく、この時期にUSBツールの値段を30万円から40万円、さらに50万円へと値上げする動きすらあったという。
■「オプザイル撃退マニュアル」で個人投資家が反撃へ
オプザイルの存在が再びクローズアップされてきたのは2016年9月。見境なくフォローするオプザイルに対して、FXトレーダーである「りょ」さん(ツイッターID:@ryo_o2)が「オプザイル撃退マニュアル」をツイッターにアップしたのだ。
「オプザイルから複数のアカウントでフォローを繰り返され、そのたびに毎回ブロックするのが煩わしかった。そのため、ツイッター社へ通報するとともに、その方法をまとめた『オプザイル撃退マニュアル』を作成しました」(りょさん)
撃退マニュアルといっても、不穏なものではない。その内容は悪質なユーザーのツイッター社への通報方法を簡潔にまとめたもの。この撃退マニュアルによって、りょさんの動きに同調する人が増加し、オプザイル中心メンバーのアカウントは次々と凍結されていった。
■おけらさんへの謎の「フォロ爆」攻撃
これで一件落着かと思われたのだが、不審な動きが再び起きた。オプザイルから見れば宿敵であろう、おけらさんのフォロワーが不自然に急増したのだ。
「一時は1時間あたり100人ずつフォロワーが増えるような状況でした。寝て起きると800人近くフォロワーが増えているという不快な状況です。当初はアカウントを非公開にすることも考えましたが、それではオプザイルに対する注意喚起ツイートが拡散されない。困った状況でした」(おけらさん)
「フォロワーが増えたらうれしいじゃん?」と思うかもしれない。だが、新たなフォロワーは作成まもなく、ほとんどツイートしていないアカウントばかり。「あの人はフォロワー数を増やしたいから、アカウントを自分でたくさん作って、自分をフォローしているのでは?」と端から見えてしまったとしても不思議でない状況になっていた。
おけらさんのフォロワー増が自作自演でなかったことは状況的に明らかだが、自作自演のフォロワー増加を本当に行えば、ツイッター社からアカウントを凍結されかねない行為。「おけらさんが自作自演でフォロワーを増やしていますよ」とツイッター社に通報すれば、おけらさんのアカウントが凍結される可能性もあり、「おけらさんに恨みを持つ何者かが行なったおけらさんへの攻撃」とも受け取れる行為が行われていたのだった。これが通称「フォロ爆」だ。
■フォロ爆に対する「ワクチン」の開発
「当初はフォローしてきたオプザイルのアカウントを手動でブロックしていました。しかし、ツイッター上の有志が、不自然なフォロワーを自動でブロックするワクチン(プログラム)を作成してくれたため、今は自動で防御できています。このワクチンがなければ、フォロワーは10万人を越えていたかもしれませんね」(おけらさん)
春に始まったオプザイルと個人投資家との戦争。その第二次戦争が9月に始まり、そして、現在まで続いている。
今回、おけらさんへの取材依頼をザイFX!がツイッター上で行なったことで、おけらさんへのフォロ爆が再開されたことからも、オプザイルと個人投資家の戦争が現在進行形なのは明らかだ。
以上のような経過をたどった「オプザイルと個人投資家のツイッター戦争」、それを図にまとめると以下のような感じになる。
■ザイFX!にNHK取材陣がやってきた!
さて、突然だが、舞台はツイッター空間からザイFX!編集部へと変わる。
「オプザイルのツールについて、教えてください」
NHKからザイFX!編集部へそんな電話が入ったのは10月のある日のことだった。
NHKがオプザイルの取材に動いていることはわかっていた。9月後半、「謎の投資グループの実態は」、「謎の投資グループ 浮かび上がる手口」と、相次いでオプザイルについての記事がNHKのサイトにアップされていたからだ。
でも、まさかザイFX!に取材が来るなんて……。
どんな取材内容だったのか、その模様は11月8日(火)にNHKの番組『ニュース シブ5時』(16:50~18:10)で放送される予定なので、ぜひ、ご覧いただきたい。オプザイル関係者にも直撃取材を行なっているようだし、かなり深く食い込んでいるはずだ。
■若年層が手軽に取引している海外バイナリー
ある程度の投資経験があれば、本物の投資家かどうか、判断できるだろうが、オプザイルの主なターゲットは投資未経験者だ。
国民生活センターに寄せられた相談を見ると、バイナリーオプションについての相談は圧倒的に20代、30代が多い。そのすべてがオプザイルによるものではないだろうが、バイナリーオプションについて悪いことを考える人は、若年層をターゲットにする傾向がありそうだ。
そして、NHKの取材陣が漏らしていたのは「大学生など若者の間でバイナリーオプションが一般的になっている」という言葉。普段、FXをメインにしている人からすれば信じがたいかもしれないが、バイナリーオプションは思った以上に身近な存在となっているようだ。
では、バイナリーオプションの取引高は増えているのだろうか? 金融先物取引業協会が発表しているデータを見ると、バイナリーオプションの取引高はむしろ減少していることが明白だ。
■日本のバイナリーオプションの取引高はなぜ減少?
若年層に浸透するバイナリーオプションと、減少するバイナリーオプションの取引高――矛盾するような2つの事象をつなぐのは、海外バイナリーオプション業者の存在だ。
日本では2013年に金融庁の規制が入り、バイナリーオプションの商品性が大きく変わった。とくに大きく変わったのは、「1分や5分で満期を迎えるような短期商品の禁止」ということだ。
そのため、こうした超短期バイナリーオプションを取引したい人は海外業者へと流れた。この流れを見て、海外バイナリーオプション業者は日本への攻勢を強めたようだ。多額のキャッシュバックなどを謳った彼らのバナー広告を見たことのある人は多いだろう。
本来、金融庁に登録していない海外バイナリーオプション業者が日本国内で営業行為を行うことは禁止されているはずだが、いかんせん海外業者。今のところ、金融庁はそういった業者に警告書を発出したり、一般の投資家に注意喚起のお知らせを出すぐらいの対策しか行っていない。こういった海外業者は残念ながら、実質的に野放図の状態となっている。
禁止されている行為を行っているこのような海外業者については、国民生活センターに「出金ができない」などの相談が数多く寄せられており、ザイFX!では海外FX口座、海外バイナリーオプション口座を開設することはまったくおすすめしていない。
なお、ザイFX!にもバイナリーオプションオプション比較コンテンツがあるが、ここに掲載しているのは日本の金融庁に登録され、日本のルールにのっとって営業を行っている日本国内の会社ばかり。もしも、バイナリーオプションを取引したいという場合は、このような国内の会社を利用するのがいいだろう。
【参考コンテンツ】
●人気のバイナリーオプションを徹底比較! 最短1分前まで購入できる商品も登場!
■オプザイルが利用しているのは「ハイローオーストラリア」
オプザイルが利用するのも、日本ではなく、海外のバイナリーオプション業者である「ハイローオーストラリア」(Highlow Markets社)だ。この会社に対しても2015年11月、金融庁から警告書が発出されている。
それにしてもハイローオーストラリアのホームページはある意味、すごい。臆面もなく「日本のバイナリー・オプション業界をリードするハイロー」なんて書いてあるし、そもそもロゴって、あれ? 見覚えが……?
■24時間ソーシャルメディアを監視する「SoLT」
ところで気になるのはNHKの取材力。ツイッターなどSNSを主戦場にしたオプザイルの活動、大手メディアはなかなか気がつきにくいはずだが、どうやって存在を把握したのだろうか?
NHK取材陣に逆取材したところ、教えてくれたのが「SoLT」(ソルト)の存在。これって、「Social Listening Team」の頭文字で、ソーシャルメディアを監視する専門チームだそう。
たしかに最近はどこかで火の手が上がれば、誰かが写真とともに「火事だ!」ってツイートするし、災害時には被災者が必要な救援物資をいち早く伝えてくれたりする。ツイッター利用者の誰もが速報記者になる可能性がある時代だ。
そこで、NHKではツイッターなどのソーシャルメディアから情報を収集するスタッフをのべ100人体制で配置。24時間絶え間なく監視しているそう。
このSoLTの網にひっかかったのがオプザイルだった、というわけだ。
オプザイルについてはザイFX!でもさらに取材を進めている。彼らが販売していたUSBツールも入手したので、後日また別の記事で!
(「オプザイルのUSBツールに50万円の価値はあるのか? その中身はいったいナニ?…」へつづく)
(取材・文/ミドルマン・高城泰)
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