高いスワップ金利という魅力の一方で、史上最安値を更新する長い下落相場に沈んできたトルコリラとメキシコペソ。
これら高金利の新興国通貨のチャートを見ると、2017年からはいずれも底打ちの兆しが見て取れる。これまでは手を出しにくかったこれらの通貨にも、そろそろ「スワップ狙い」の投資妙味を感じ始めた投資家も多いのではないだろうか。
そこで、今回はトルコリラとメキシコペソの見通しと投資戦略について、主要通貨だけでなく、新興国通貨の動向にも詳しいシティグループ証券、外国為替・新興国市場本部 チーフFXストラテジストの高島修さんにお話をうかがった。

■新興国通貨を分析してもムダ!?
米ドル/円であれば、金融政策や経済指標、地政学リスクなど、相場に影響しそうな要因や方向性はある程度予測できる。しかし、新興国通貨となると、途端に見当がつかなくなってしまうものだ。メキシコペソやトルコリラ相場の現状と先行きは、どのように考えればよいのだろうか。
こう質問すると、高島さんからは意外な答えが返ってきた。
「新興国通貨そのものを分析してもムダです。政治の影響などがもっともらしく語られたりしますが、ほとんど後講釈でしかない。
私の印象論では、新興国自体のファンダメンタルズなどの個別要因が相場に与える影響はせいぜい3割程度で、残る7割はグローバル要因で動いています。
新興国通貨は、米ドル/円以上に、米国を中心とした世界全体の相場環境の中で考える必要があるのです」

さらにグローバル要因と個別国要因を結びつける存在として、商品(コモディティ)相場の動向があるという。商品価格の動向と、その国が資源の輸出国か輸入国かという点も、通貨の方向性に影響するのだ。
■今の高金利通貨に影響を与えるグローバル要因とは?
新興国通貨の相場に影響するグローバル要因として最も大きいのは、やはり、米国の経済や金融政策だ。高島氏は現状をこう分析する。
「最近ではトランポノミクス(※)への失望による米ドル売りといったことも言われていますが、経済政策を取り巻く環境は実はむしろ良い方向に向かっていると思います。
大幅減税や保護貿易といった過激な政策を本当に実行すれば、アメリカの財政赤字や経常赤字は拡大し、世界経済も相当混乱していたと考えられます」
(※編集部注:「トランポノミクス」とは、米大統領のドナルド・トランプ氏とエコノミクス(経済学)を合わせた造語で、トランプ政権が進める経済政策を指す。1980年代に同じく米国の大統領だったロナルド・レーガン氏の経済政策、「レーガノミクス」が由来となっている)
むしろ、トランプ大統領の経済政策が当初の発言よりマイルドになっていることが、世界の金融市場にポジティブに働いているという。
トランプ米大統領は豪語してきた政策をさっぱり実現できていない、という印象を受けるが、高島さんによると、そのことがかえって、米国経済、さらには世界経済にとってよかったとのこと
(C)Mark Wilson/Getty Images
「今の米国経済は、強すぎず、弱すぎない心地よい状態といえます。
ほぼ完全雇用が実現している一方で、差し迫った利上げが必要なほどのインフレ圧力もない。好調な輸入にもつながるので、新興国にとってもプラスです」

現状の米国経済は、強すぎず弱すぎない心地よい状態「ゴルディロックス」にあると話す高島さん。これは新興国にとってもプラスにつながるそうだ
教科書的には、米国が利上げをすると新興国から投資が引き上げられ、新興国の経済低迷や通貨下落につながるとされている。
ここへ来て、米国が利上げから保有債券を段階的に減らすバランスシート正常化へと方針を変えてきたことは、新興国経済にはプラスだという。
2015年末から利上げを実施しているFRB…
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