■仲値トレードはオイシイって聞くけど本当?
数あるFXのトレード手法の中でも、認知度が高いと思われるものの1つに挙げられるのが、日本時間10時ごろ(※)の「仲値」に向けた、米ドル/円上昇を狙った「仲値トレード」です。
(※厳密には金融機関の米ドル/円の仲値は日本時間9時55分に決まり、その後、10時ちょうど頃にレートが公表されるしくみとなっている)
ザックリいうと、「仲値」にかけては貿易業務を行う事業法人が、事業決済用の資金を調達する目的で米ドル買い注文を持ち込むことが多いので、そこを狙って米ドル/円の買い(米ドル買い・円売り)ポジションを持てばいいじゃん、というもの。
もし本当に、仲値に向けた時間帯に通常の時間帯よりハッキリと米ドル高・円安になりやすい傾向があるなら、それに乗っかって「仲値前に米ドル/円を買って、仲値付近で売り決済する」だけで、簡単に儲けることができるかもしれない……。
でも、そんなにうまくいくものなの??
インターネット上で検索すると、個人トレーダーを中心に自分なりの仲値トレードを解説したブログなんかがゴマンとヒットするけれど、その中身は仲値トレードといっても、結局は直近の米ドル/円相場のトレンドが重要だとか、仲値に向けた時間帯の中でのスキャルピングのやり方などを披露しているものがほとんどです。
そうじゃなくて、超シンプルかつ機械的に、仲値に向けて単純に米ドル/円を買っておけば、どのくらいの確率で上昇してくれて、トータルで利益を上げることができるのかが知りたい!
そんな疑問を解決してみたく、過去のデータをもとに、仲値トレードの有効性を検証してみました。
■なぜ、米ドル/円は仲値に向けて上がりやすいといわれるの?
過去のデータを紹介する前に、そもそも「仲値」とはどういうものなのかということを、もう少し補足説明しておきましょう。
「仲値」とは、銀行などの金融機関で、顧客が外貨を売買するときに適用されるその日の基準レートのことを指し、外国為替市場の実勢レートを参考に、銀行などがそれぞれ独自に決定します。
為替レートによほどの大きな変動がない限り、通常の顧客はその日の外貨の売買を、仲値を用いて行うことになります。
なぜ、仲値にかけて米ドル買い注文の方が円買い注文より多くなりがち、といわれているのでしょうか?
1つには輸出企業の方が輸入企業より規模が大きい企業が多いという事情が関係あるようです。円安と株高は同時進行することが多いですが(直近はちょっと違っていますが)、これは規模の大きな上場企業には円安がプラスに働く輸出企業が多いからです。
輸出企業はモノを海外に輸出して売って得た米ドル(※)を日本に戻す際に、米ドル売り・円買いを行うことになりますが、これらの企業は大口の注文を行う大企業が多いわけです。そして、注文が大口なので、銀行に対し、仲値に限らず、好きなタイミングで米ドル売り・円買いの注文ができるのです。
(※輸出で得る外貨には米ドル以外のものもあるが、ここでは簡略化して米ドルで説明)
これに対し、輸入企業は円を米ドルに換えて、その米ドルを使って海外でモノを買いつけますが、輸入企業には比較的小さな会社が多いため、注文量も少なく、自社の好きなタイミングで銀行に注文しても受け付けてもらえないようなのです。銀行としては、比較的小口の注文は仲値のレートでまとめて引き受けますよ、ということになります。
つまり、輸出企業は好きなタイミングで米ドル売り・円買いを行う傾向があるのに対して、輸入企業の米ドル買い・円売り注文は仲値にまとめられてしまう傾向があるということなのです。
また、企業規模に関係なく、長年の慣例といったものもあるらしいです。輸出企業はそうでもないけれど、もともと輸入企業は仲値のレートで注文を出すところが多いらしいのです。
■輸入企業と輸出企業の為替予約、その違いとは?
そして、もう1つ考えられるのは、「為替予約」の存在です。
「為替予約」とは、為替相場の大きな変動の影響を回避するために、将来のある時点で、外貨と円の交換をする約束を今のうちにやってしまう取引のことです。
為替予約そのものは輸出企業も輸入企業も行います。ただ、こちらも長年の慣行といったものがあるのか、輸入企業よりも輸出企業の方が為替予約を使う割合が多いというような話も聞きます。
為替予約を使えば、為替相場の思わぬ変動の影響は回避できますが、銀行の事前審査が必要で原則として取り消しができず、予約をしてしまうと期日に支払いの義務が発生するしくみがあります。そのため、規模の小さな輸入企業では為替予約を利用しないところが多いのかもしれません。
また、為替予約をしっかり行う、石油会社など大手輸入企業の為替予約期間が3カ月程度と比較的短期なのに対し、自動車などの大手輸出企業では為替予約期間がそれよりも長めになる傾向があるようで、この期間の差も関係しているようなのです。
そうなると、輸出企業の長期の為替予約は、銀行としても仲値の時間に限らず、時間をかけて分散しながら手当ができそうですし、輸出企業から一気に大量の米ドル売り・円買い注文が出てくる可能性はそれほど高くないといったことが考えられます。
このようなことから、仲値では円買いよりも米ドル買いが多くなりがちだといわれているのです(本当にそうかどうかは、このあとに掲載するデータをご覧ください)。
■銀行は仲値に向けてどう行動する?
そして、その日の仲値において、事業法人の円買い注文よりも米ドル買い注文が多い状況なら、銀行は先回りして米ドル/円を安いときに買っておいて、仲値に向けてレートを釣り上げてから、買ったレートよりも高い値段で仲値を決定して顧客の注文を執行すれば、買った値段と仲値の価格差(サヤ)の分、銀行の儲けが増えるというカラクリがあって、仲値にかけて米ドル/円が上昇するといわれています(本当にそのようになることが多いかどうかは、このあとに掲載するデータをご覧ください)。
さらにいうと、事業法人からの米ドル買い注文が思ったよりも多かったときは、銀行などは追加で米ドルを買う必要があるし、逆に注文が少なくて米ドルが余っちゃいそうなんてときは、手持ちの米ドルを売る必要が生じるので、そういったことに応じて、仲値前の時間帯には米ドル/円が上がったり下がったりするなんてこともあるみたいです。
というわけで、仲値の説明はこれくらいにして、2012年1月から2017年9月19日(月)までの毎営業日、全1470日分の米ドル/円の動きを調べ、仲値に向けて米ドル/円が上昇した日がどれくらいあったかを確認しました。
今回の検証には、GMOクリック証券が口座開設者向けに提供している、1分足のヒストリカルデータを利用しました。
【参考記事】
●為替の過去データをFXトレードに活用! ティックや1分足データはどこで入手できる?
■上がるか下がるか、ほぼ五分五分!?
まずは、仲値の決まる9時55分のおよそ1時間前、9時ちょうどから、仲値が決まったあとのキリのいい10時ちょうどまでの時間帯を調べてみました。米ドル/円が9時の時点と比較して、10時の時点で最終的に「上昇した日」、「下落した日」、「変わらなかった日」の日数と、全日数に占める割合を算出してみると……。
●「上昇した日」の数…740日(50.3%)
●「下落した日」の数…722日(49.1%)
●「変わらなかった日」の数…8日(0.5%)
この数字を見ただけだと、全体の中で上昇した日の割合が50.3%とわずかに多かったものの、上昇した日と下落した日は、おおむね半々という結果になりました。
時間中の高値と安値は考慮せず、単純に値幅として9時から10時までにどれだけ動いたかを調べてみると、上昇時の平均値幅は10.0銭、下落時の平均値幅は9.8銭と、こちらもほとんど同じぐらい…。
さらに、変わらなかった日を除外して、単純に上昇と下落、どちらの方が多かったかを見てみても、上昇した日は50.6%、下落した日は49.4%と、上昇した日の割合がわずかに多かったとはいえ、大きな偏りはありません。
この結果を統計的な検定を用いて調べてみると、上昇した日数と下落した日数の間に偶然とは考えにくい有意差はありませんでした。
今回の検証では、日本が祝日で金融機関が仲値を公表しない日も除外していませんし、仲値が決まる9時55分ではなく、10時の時点のレートをもとに算出しています。なので、仲値トレードの有効性を超厳密に示したデータではないのですが、ある程度の目安にはなるのではないでしょうか。
結局、米ドル/円を単純に9時に買って、仲値を通過したあとの10時に売り決済するトレードを長期的に続けても、収益がトータルでプラスになるかマイナスになるかは、どちらとも言えないという結果になります。
もう1つ、仲値トレードで忘れずに考慮したいのが…
株主:株式会社ダイヤモンド社(100%)
加入協会:一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)