■今回のトルコリラ暴落でもスプレッドは拡がらず
といっても、8月10日(金)はいわば非常時。原則固定スプレッドの「原則」に当てはまらない事態ということで、スプレッドが拡大したら、仕方がないけれど残念なのだが、SBI FXトレードの取引画面にログインしてみると……筆者の見た限り、スプレッドは1.79銭のまま、ピクリとも拡がらなかったのだった(※)。
(※これは取引数量欄に1万通貨以下の数量を入力した場合。1万1通貨以上を入力した場合はスプレッドは4.8銭で拡がらないように見えた)
さすが非常時でもスプレッドが拡大しないことに定評があるSBI FXトレードだ。
提示スプレッドが拡大しなくても、約定がすべるようでは元も子もないが、少額の取引しかしていないものの、筆者が経験した限り、極端にすべるようなこともなかったと思う。
■全11口座のトルコリラ/円スプレッド推移を調べてみた
それでは他社と比較すると、この非常時におけるSBI FXトレードのトルコリラ/円スプレッドはどうなのか? これを改めて調査してみることにした。
8月10日(金)のトルコリラ/円は15時台と22時台にとくに激しく急落したが、より短時間のうちに急落したのは今回の暴落の初動といえる15時台の方だった。そこで、トルコリラ/円を取り扱っている主要FX会社について、8月10日(金)15時~15時20分の間の1分足の始値を調べてみたのである。
1分足の始値について、Bid(FX会社側の買い値=投資家側の売り値)とAsk(FX会社側の売り値=投資家側の買い値)の値を調査し、その差を計算すれば、1分足の始値の瞬間のスプレッドを出すことができる。
この方法だと1分間の開始時点のスプレッドはわかるが、1分間の途中のスプレッドがどうなっていたかまではわからない。データを見る際、この点は注意が必要だ。けれど、これ以上、詳しく調べることは極めて困難なため、今回はこの方法によって調べたデータを公開することにした(これだけ調べるのも結構大変な作業なのだ)。
2018年8月10日(金)15時~15時20分に、トルコリラ/円を取り扱っている主要11社11口座のスプレッド推移は以下のとおりとなっていた。
これを見ると、15時から15時7分ぐらいまで平穏無事に推移していたスプレッドが15時8分ごろから拡大し始め、15時15分~17分あたりでピークをつけていることがわかる。
■X軸にピタリ貼りついたSBI FXトレードのスプレッド推移
そして、この中でSBI FXトレードのスプレッド推移はどれか、おわかりだろうか?
上のグラフだと、ラインがいっぱいあってわかりにくいので、SBI FXトレードのスプレッド推移のところだけ取り出してみよう。すると、以下のとおりとなった。
ご覧のとおり、X軸にピタリ貼りつくように、横一直線に伸びているのがSBI FXトレードのスプレッド推移だ。調査した20分間の始値において、SBI FXトレードのトルコリラ/円スプレッドは1.79銭のまま、変わることがなかったのだ(※)。
(※SBI FXトレードのチャートで確認できるBidとAskの値は取引量1万通貨までに適用されるものの模様。1万1通貨以上だとスプレッドは4.8銭になっているはずだ)

■GMOクリック証券もスプレッドはそれほど拡がらずに健闘
SBI FXトレードの次にがんばっていたのはGMOクリック証券[FXネオ]。
通常時のトルコリラ/円スプレッドは1.9銭原則固定(※)のGMOクリック証券[FXネオ]だが、このときは15時~15時9分までずっと1.9銭原則固定。その後は拡大しても最大10銭までで、10銭というときがとても多かった。
(※GMOクリック証券は8月14日(火)に出したお知らせで、このところのトルコリラの相場急変やトルコで祝日が連続して流動性が低下する恐れを考慮し、当面の間、トルコリラ/円については原則固定スプレッドの適用対象外とすることを発表している。このため、トルコリラ/円のスプレッドは通常時は原則固定なのだが、現在は原則固定になっていない)
通常時は原則固定スプレッドであっても、非常時のこのような場合には、完全な変動制になってしまうFX会社も多い中、同口座は10銭という時間帯が長く、10銭のところに第2の原則固定防衛ライン(?)が敷かれているような感じになっていた。
前述したとおり、SBI FXトレードの1.79銭原則固定というのは1万通貨までの話で、それ以上だと4.8銭原則固定になる。そのことも考え合わせると、スプレッドが取引量によって変化することのないGMOクリック証券[FXネオ]もかなりがんばっているといえそうだ。
![GMOクリック証券[FXネオ] トルコリラ/円 1分足(8月10日(金)15時前後)](https://zaifx.ismcdn.jp/mwimgs/7/d/-/img_7d22166fda6c694bdb67b0373515c5bf39700.jpg)
■スプレッド100銭の瞬間もあったくりっく365
続いては8月10日(金)15時~15時20分の期間に残念ながらスプレッドが大きく拡がってしまった2口座を取り上げたい。ヒロセ通商とくりっく365だ。
ヒロセ通商[LION FX]のトルコリラ/円スプレッドは公称1.9銭原則固定。このときも1.9銭もしくは数銭~13銭ぐらいまでのスプレッドを割と長くキープしていたのだが、その後、急拡大し、15時16分には最大値の100銭(1円)を記録した。
そして、同じ15時16分にやはり100銭(1円)という値を記録したのがくりっく365だ。
くりっく365はFXの取引所であり、スプレッドは原則固定制ではない。したがって、事前に提示されている公称スプレッドというものは存在しないのだが、2018年7月実績として、トルコリラ/円の月間平均スプレッドが3.795銭だと発表されており、これが参考値になる。
FX会社は最終的にはインターバンク市場とつながっているものだが、原則固定制の店頭FX会社では、インターバンク市場と投資家の間に店頭FX会社が介在することで、為替市場が本当は常に揺れ動いているなか、人工的に原則固定のスプレッドを何とかキープしているような形となっている。
これと比べて、くりっく365の方がインターバンク市場によりダイレクトにつながっており、為替市場の波を投資家へそのまま伝えやすい構造になっているといえそうだ。
そして、インターバンク市場に任せておけば、このときのようにスプレッドが100銭(1円)になってしまうことがあるということだ。
■27社のトルコリラ/円スプレッドが100銭に拡大したはず
くりっく365の場合、それを取り扱っているFX会社なら、どこでも同じレート、同じスプレッドが配信されることになっている。
そして、くりっく365公式サイトによると、くりっく365の取扱い会社は27社もあるようだ。

ということは、27社という非常に多くの会社のくりっく365口座で、トルコリラ/円スプレッドが今回の調査対象期間中に100銭(1円)まで拡がってしまっていたということになる。
一方、店頭FX会社はすべて調査しきれないものの、今回調査した10社の中ではヒロセ通商だけが同様のスプレッド拡大を見せていた。
なお、先ほど述べたとおり、くりっく365のデータはどの取扱い会社でも同一なはずだが、今回のデータはカブドットコム証券で取得している。また、くりっく365の場合は正確にはBidとAskではなく、MM買気配(※)、MM売気配の数値を調査している。
(※「MM」とはマーケットメーカーのこと)
■スプレッド超拡大が底打ちのサインになる?
結局、今回の調査結果を見る限り、くりっく365やヒロセ通商[LION FX]で非常時にトルコリラ/円を取引することはあまりおすすめできないということになるが、参考のため、そのスプレッド拡大の様子を見ておくと役立つことはあるかもしれない。
というのは100銭(1円)という感極まったスプレッドが提示された15時16分近辺で、今回の相場はいったん底打ちしているからだ。

トルコリラ/円にこれから非常時がまたやってきたとして、くりっく365のトルコリラ/円で100銭(1円)までもスプレッドが急拡大すれば、底打ちのサインかも?と身構えておく、といった使い方ができるかもしれない。
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