■4度繰り返されたトルコリラの「早朝の急落」
新興国通貨への投資は多くが高金利目当ての中長期ポジションだと思われる。そのため、ポジションの建玉は蓄積されていっても、取引高はそうそう増えるわけではない。
しかし、トルコリラの場合は、取引高も急速に高まっていった。つまり、日本人が急速にトルコリラ買いのポジションを積みましていったことがわかる。
その裏では、明らかに日本人を狙ったのでは…と思われる動きも起きていた。早朝の急落だ。昨年(2017年)10月、今年(2018年)3月、5月と日本のFX会社がロールオーバーを行なう時間の前後にトルコリラ/円が急落していたのだ。8月のトルコショックでも最安値をつけたのは週明け、8月13日(月)早朝だった。
【参考記事】
●トルコリラ/円は一時15円台まで大幅続落! 原因はトランプとエルドアンの両大統領!
4度繰り返された日本時間早朝の急落にはファンダメンタルズ的な要因もあるだろうが、積み上がる一方のトルコリラ買いポジションを刈り取ろうとする投機的な動きがあったとも想像できる。

(出所:ゲインキャピタル・ジャパンのForex.com)
■相次ぐトルコリラ急落に買い向かった日本人
いわば市場からの警告ともいえる急落に対して日本人はどう反応したか。くりっく365のポジション状況を見てみよう。
3月の急落直前、トルコリラ買いのポジションは40万枚までふくらんでいた。それが3月と5月の2度の急落で整理されたものの、再び32万枚まで積み上がっていた。そこへ襲ったのがトルコショックだった。

(出所:東京金融取引所)
■トルコショックでの未収金は4500万円程度と少なかった
トルコリラの買いポジションが積み上がったところで10分足らずで7%も下げると、心配になるのが「ロスカット未収金」の発生だ。
相場変動により損失が拡大したとき、本来は預け入れた証拠金額以上の損失になる前にロスカットが行われるべきなのだが、相場が急変し過ぎてそれが間に合わず、証拠金以上の損失が発生してしまったものが「ロスカット未収金」だ。

(出所:金融先物取引業協会)
過去には2015年1月のスイスショックで33億円もの「ロスカット未収金」が発生した。2011年の東日本大震災後の円高でも16億円、2016年6月の英国民投票では2億円の「ロスカット未収金」が発生している。
今回のトルコショックでも、大規模な「ロスカット未収金」の発生が予想されたが、9月14日(金)に金先協会から発表された2018年8月の「ロスカット未収金」は1287件、4445万円(※)。過去のビッグイベント時に比べると影響はひと桁以上も小さい金額にとどまった。
(※2018年8月の「ロスカット未収金」について、その発生要因は金先協会から発表されていないが、おもな要因はトルコショックにあったと推定される)
8月10日(金)の暴落時には流動性が枯渇し、13日(月)には窓をあけて急落したにもかかわらず、過去と比べて小規模な「ロスカット未収金」に収まったのは、「FX会社の自動ロスカットが的確に働いてくれた」と評価することもできそうだ。

(出所:金融先物取引業協会)
■トルコショックは本当に終わったのか?
ザイFX!ではトルコショックの直後から、トルコ出身のストラテジスト、エミン・ユルマズさんによる連載が始まっている。日本でいちばん詳しいトルコリラ情報となっているので、トルコリラへの投資判断はエミンさんの連載が参考になるはず。
【参考コンテンツ】
●トルコリラ相場の明日は天国か? 地獄か?
ただ、気をつけたいのは、トルコリラの買いポジションは整理されたものの決して少なくない水準にある、ということ。瀕死の買いポジションを奈落に突き落とすようなショック第2弾があっても不思議じゃない。
ちなみにトルコでは自国通貨安への対抗手段として、ビットコインへ資産を逃避させようという動きがあったのか、仮想通貨取引所の出来高が急増するという余波もあった。
トルコでは、もともと仮想通貨保有率が高い。トルコ人が自国通貨を信用していないことの裏返しでもありそうだ。

(出所:ING)
スワップ金利目当てなら焦って買わなくてもいいんだし、トルコリラを取引するなら、エミンさんの情報を参考にしながら、慎重にやっていこう。
(取材・文/高城泰 編集担当/ザイFX!編集部・庄司正高&ザイFX!編集長・井口稔)
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