高いスワップ金利が魅力のトルコリラだが、長い下落トレンドを形成していて、なかなか反発の兆しが見えない…。「スワップ狙い」の投資妙味はあるけれど、ここまで下げ続けてしまうと、なかなか手を出せない投資家も多いのでは?
今回は、フリーアナウンサーの大橋ひろこさんを聞き役に、トルコの現状とトルコリラの見通し、そして、投資戦略について、複眼経済塾・塾頭でエコノミスト、為替ストラテジストのエミン・ユルマズさんにお話をうかがった。

■中国より高成長でも浮かない顔のエミンさん
ひろこ 2012年には日本からトルコを訪れる人が20万人を超えていたそうです。ところが昨年(2017年)は4.9万人。ずいぶん減ってしまいましたね。
トルコで今、何が起きているのでしょう?
エミン 外交、経済、内政と課題が山積みです。足もとの景気もよくありません。
ひろこ 昨年(2017年)の実質GDPは7.4%成長。中国よりもいい数字です。それでも景気がよくないというのは不思議な感じがします。
エミン 見た目のGDPは上昇していますが、問題はトルコリラ安がもたらすインフレ。
CPI(消費者物価指数)は10%を超えていますし、トルコ経済は輸入頼みなのでトルコリラの下落は生活を直撃します。肌感覚のインフレ率は20%近いのではないでしょうか。

トルコ経済は輸入頼みなので、トルコリラの下落は生活を直撃しているというエミンさん。2018年4月のCPIは10.85%だけど、肌感覚のインフレ率は20%近くになるとも…
ひろこ 米ドル/トルコリラは史上最高値を更新し、トルコリラ安が進んでいます。対円でも2013年には50円台だったのに今は半値の26円台。輸入品の値上がりは避けられないでしょうね。
(※編集部注:この対談は2018年4月27日(金)に行なっています。その後、トルコリラ/円はさらに下落し、一時、24円台前半まで売り込まれました)

(出所:Bloomberg)

(出所:Bloomberg)
■トルコ緊急利上げ! その効果は?
エミン しかも原油価格がジリジリ上昇しています。トルコでもっとも大きい輸入品目は原油です。原油価格の上昇とトルコリラ安が重なり、経済はさらに苦しい。
経常赤字も拡大しています。以前はトルコ経済に対する信任も高かったからトルコへの投資も増えていました。でも、今は違う。外から今のトルコを見ると、欧米寄りの姿勢から転じてイスラム主義国家になろうとしているように見えます。そうなると、トルコへの投資は進まない。厳しいですよね。

(出所:Bloomberg)
ひろこ トルコリラ安を食い止める手立てはないのでしょうか。

トルコリラ安を食い止める手立てはないか質問する大橋さん。高スワップ金利は魅力だけど、下がり続けていて買うに買えない…。いったいどうすればいいのだろうか?
エミン トルコ中央銀行は4月、4カ月ぶりに利上げして、複数ある政策金利のうちの「後期流動性貸出金利」が13.5%となりました。
でも、遅すぎたかもしれない。本当はもっと早く利上げするべきでしたが、エルドアン大統領は利上げに消極的です。
現在の中銀総裁はエルドアン大統領に近い人物ですが、それでも今回は利上げせざるを得ないほどトルコ経済は追い込まれています。

ひろこ アルゼンチンでも通貨防衛のため利上げを行ないましたね。4月27日(金)から8日間で3回の利上げを行ない、政策金利は40%へ。
アメリカの利上げもあって新興国通貨には厳しい状況が続いています。
【参考記事】
●デフォルト常習犯のアルゼンチンが緊急利上げ連発で政策金利40%に! 一体なぜ?
●アルゼンチンが政策金利を40%に引き上げ! 新興国通貨にバーナンキショック再来も!?(5月7日、西原宏一&大橋ひろこ)
●新興国から資金流出! その行き先は…!?大型M&Aがドル/円押上げるも攻めきれず(5月10日、西原宏一)
■エミンさんの青年期に10万倍のインフレ!
エミン トルコ中銀の最大のミッションはインフレ対策です。私が小学校に入学したとき、ジュースは10リラくらいでした。
ところが高校を出るときには100万リラです。11年間で10万倍の驚異的なインフレでした。当時は2千万リラ紙幣も発行されていたんです。

エミンさんが小学校に入学したときのジュースの値段が10リラ、高校を出るときには100万リラになっていたという。11年間で10万倍のインフレ! これは驚きだ。このインフレを退治したのが…!?
ひろこ そのインフレを退治したのがエルドアン大統領だったそうですね。
エミン そうです。彼はデノミ、つまり通貨の切り下げを行ない、100万リラは1リラになりました。それ以降、インフレ率はひと桁に落ち着きました。
ひろこ その功績があるから、エルドアン大統領は2003年から長きに渡って政権を握っているんですね。
裏を返せば、トルコ政治の大きなファクターは「インフレをいかにコントロールするか」とも言えそうですね。
(次ページでは6月に迫った大統領選挙とトルコリラ相場の話題が…)
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