止まらないトルコリラ安!
2018年8月10日(金)の東京市場に、トルコリラ/円が目にも留まらぬ速さで急落したことは、以下の【参考記事】でもお伝えしたとおりです。
【参考記事】
●トルコリラ/円が一時、16円台まで暴落! トルコリラ急落の震源地はユーロか!?
上の【参考記事】を公開したのは、10日(金)の18時35分です。時間帯としては、すでに欧州時間に入っていましたが、その時は欧州勢の参入でトルコリラ売りが再開という感じでもなく、トルコリラ/円は18円台半ばあたりを中心とした推移で、ひとまず落ち着いたように見えました。
しかし、10日(金)の米国時間になると再びトルコリラ売りが加速。15時台につけた17円台半ばを下抜け、22時台に16円近辺まで急落しました。
さらにトルコリラ/円は週明けの本日13日(月)、大きく下に窓を開けて取引を開始。一時、15円台半ばまで一段安となりました。
(出所:Bloomberg)
そこで、前回の記事公開以降の、トルコリラ/円の動きを振り返ってみます。
関税を倍にする! トランプ大統領のつぶやきがトドメに!
前回の記事でもご紹介したとおり、8月10日(金)東京市場でのトルコリラ/円の急落には、
・ECB(欧州中央銀行)がユーロ圏の一部金融機関が保有しているトルコ関連資産のリスクを懸念していると報道される
↓
・ユーロにとってもネガティブなニュースだったため、ユーロも急落
↓
・ユーロの対極にある米ドルが全面高となり、米ドル高がトルコリラ相場にも波及してトルコリラ安が進む
↓
・トルコリラ安でトルコリラ/円も下落
といったような流れがあったのではないかと考えられました。
ここからが、前回の記事を公開してから、これまでに起こった出来事や背景です。
まず、10日(金)の欧州時間に、トルコ向けの債権が多いと噂される欧州の銀行株が軒並み下落します。
しかし、この時点ではトルコリラやユーロの動きは比較的、落ち着いていていました。おそらくですが、為替市場は銀行株の下落をすでに織り込んでいたのかもしれません。
しかしその後、状況は変化します。
トランプ米大統領が得意のツイッターで、「トルコに対する鉄鋼とアルミニウムへの関税を倍にすることを指示」とつぶやいたのです。
トルコからの資金流出懸念がこれまで以上に高まっていた矢先、泣きっ面に蜂とばかりのトランプ大統領のつぶやきが、トルコリラ売りを再開させます。
リスク回避的な円買いも合わさり、トルコリラ/円は18円台から16円付近まで急落。米ドル/トルコリラは6.87リラ付近まで上昇して(米ドル高・トルコリラ安)、対米ドル・対円でともに、ここまでの史上最安値を更新しました。
(出所:Bloomberg)
(出所:Bloomberg)
米国人牧師の開放に応じなかったため、関税倍増!
なぜ、トランプ大統領はこのタイミングでトルコから輸入する鉄鋼とアルミニウムの関税を倍増させようとしたのか? これには、2016年にトルコで起こった、反政府勢力によるクーデターが関係しています。
ざっくり言うと、米国は反政府勢力を支持したとしてトルコに拘束されている米国人牧師を8日(水)までに解放しろと迫っていたのですが、期限になってもトルコが解放に応じなかったため、トランプ大統領が事前の警告に沿って制裁発動を指示したということのようです。
トランプ米大統領のつぶやきで急落したトルコリラですが、先ほどのチャートを見てもわかるとおり、10日(金)の米国市場では安値から切り返したあとは落ち着いた動きとなり、大騒動はいったん収まって、リスク回避的な流れも終息するかのように思えたのですが…。
ここまで来てもエルドアン大統領は利上げに否定的!?
再びトルコリラを動かす材料が出たのは週末の12日(日)です。
エルドアン大統領が演説で、「私が生きている限りは金利のわなには落ちない」と述べ、トルコリラの下落に歯止めをかけるために必要と思われる利上げに否定的な姿勢を強調したのです。
しかも、トルコリラの下落を政治的な陰謀や策略だと批判し、トルコは危機には陥っていないし、策略から抜け出すには金利を最小に抑えることだと、これって、利下げを望んでいるの?とも受け取れるような発言までしたのでした。
トルコ中央銀行の次の政策会合は9月13日(木)に開催される予定ですが、足元のトルコリラ暴落で、緊急利上げが実施されるのではないかといった見方も市場には浮上していました。しかし、そうした期待は砕け散ったのです。
「私が生きている限りは金利のわなには落ちない」と中央銀行の利上げに否定的な見方を示したトルコのエルドアン大統領。写真は8月11日に行った演説時のもの (C)Anadolu Agency/Getty Images
エルドアン大統領はこれまでにも、さまざまな場面で利上げを「悪」とまで言い切って、中央銀行に対して圧力をかけてきました。高インフレと外貨流出に悩むトルコで、中央銀行が独立性を保って金融政策を運営できないことが、ここ数年のトルコリラ安の一因になってきたとも言われていましたね。
そして、ここまでの事態に発展しているにもかかわらず、エルドアン大統領がまだ利上げに否定的な発言をしたため、トルコリラ/円は13日(月)の取引開始直後から窓を開けて下落し、15円台半ばまで急落しています。
(出所:Bloomberg)
しかも、トルコリラ/円だけでなく、米ドル/円や他のクロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)も、リスク回避的な円高で窓を開けて取引がスタートしています。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 30分足)
トルコリラショックが金融市場全体に波及
市場では米中の貿易摩擦を筆頭に、トランプ大統領が展開する貿易相手国との通商交渉が最大のリスクオフ要因だと言われ、意識されてきました。しかし、今はそれとはやや異なる「トルコリラショック」が為替市場のみならず、金融市場全体の警戒材料として大きく注目される展開になっています。
トルコ中央銀行は13日(月)の現地時間早朝に、市場の動向を注視して必要な措置を講じるとの声明を出しました。これによって、トルコリラは少し買い戻される場面がありましたが、その後は乱高下しています。
6月の大統領選で再選を果たして独裁色を一段と強めたエルドアン大統領は今後、中央銀行の利上げを容認したり、米国との関係改善に向けて態度を軟化させるといったことはあるのでしょうか?
トルコ中銀がもしも緊急の大幅利上げなどを行えば、トルコリラは急反発しそうですが、何もなければ、またジリ貧の展開になりそうです。
トレードには細心の注意を!
スワップ金利(スワップポイント)の水準が高く、日本の投資家からの人気も高いトルコリラ/円のポジションが狙われたような感じになって、トルコリラ/円がいきなり急落したことは、過去にも何度かありました。
【参考記事】
●衝撃の13分間。崩れ落ちたトルコリラ/円の真相とは? 暴落の震源地は日本にあった!? のかも…(1)
●衝撃の13分間。崩れ落ちたトルコリラ/円の真相とは? 暴落の震源地は日本にあった!? のかも…(2)
●【謎】トルコリラが半年間に2回も朝7時すぎ~7時10分すぎに急落したのはなぜか?
しかし、今回はトルコリラそのものが、今までにないほどの正念場を迎えているといって良いかもしれません。現在、ほとんどのFX会社が、トルコリラ/円のスプレッドが拡大する可能性や、取引数量に制限を設ける可能性があるなど、注意喚起を行っています。
大きな値動きはトレードチャンスでもありますが、メジャーな通貨と比較すると、トルコリラの流動性は乏しく、レートの動きも非常に不安定になりがちです。もしも、トレードする際は、細心の注意を払うように心がけてくださいね!
【参考コンテンツ】
●FX会社おすすめ比較:トルコリラ/円が取引できるFX会社はここだ!
(ザイFX!編集部・堀之内智)
株主:株式会社ダイヤモンド社(100%)
加入協会:一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)