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田向宏行
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陳満咲杜の「マーケットをズバリ裏読み」

同じチャートも人により違って見える。
円安トレンド終了と考えるのは早計だ!

2009年04月24日(金)17:23公開 (2009年04月24日(金)17:23更新)
陳満咲杜

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 金融マーケットほど初心者を悩ませる場所はないだろう。というのは、いわゆる「生活の肌感覚」がことごとく裏切られがちで、通常の「お勉強」の努力が実らないことが多いからだ。

 十数年前、筆者もその一人であったが、多くの学費を払った上、やっと以下の真実に気づいた。

■バイアスを持っていないアナリストはいない

 まず、金融相場における正常な姿とは、情報が錯綜し、情報に関する解釈と相場に対する見方で常に正反対なものが数多く存在する状況である。

 逆に言えば、共通した認識と見方が示される時こそ、「おかしい」と思った方がよい。また、専門家と一般の方の見方が妙に合致している時期ほど、逆の大相場になりやすいので、要注意だ。

 次に、ファンダメンタルズ派にしても、テクニカル派にしても、主観的な判断とバイアスを持たないアナリストはいない。主観のまったくない人がいたとしても、逆に何も結論を出せず、見解を述べられないだろう。

前回も指摘したように、金融市場における因果関係は複雑すぎて、すべてを究明し、理路整然に解釈できる人はいないはずだ。また、価格形成に影響を与える各要素が常に流動的なため、因果関係を特定できるとは限らず、一定のスタンスをもって相場に臨まないと仕事にならない「ドル上昇トレンドが終えんしたと判断するのは性急だ!」参照)

 突っ込んで言えば、ある程度の「結論ありき」なしではアナリストは務まらない

■多くのファンダメンタルズ論者は「隠れテクニカル派」だ

 そのためか、表面上ファンダメンタルズ派とテクニカル派に分けられるが、多くのファンダメンタルズ論者は「隠れテクニカル派」と言えよう。

 少し振り返ってみればおわかりのように、相場がブル(上昇)基調の時はファンダメンタルズをプラス方向に解釈し、相場がベア(下落)基調の時はファンダメンタルズからマイナスの材料を探し出して根拠にしている評論家やアナリストは実に多い。だから結局、皆は一緒なのだ。

 だから、一個人として相場に参加するなら、基本的な心構えとスタンスを自ら確立しないと、結局流されるだけで、「お勉強」すればするほど混乱し、困惑し、決断を出せなくなる恐れがある。このような状況から脱出するには、相場の不確実性を悟り、それとうまくつき合うことが先決と言えよう。

■ファンダメンタルズに関する解釈はすべて「我田引水」

 今週の例で言えば、まずファンメンタルズでは、4月22日(水曜日)に英国が史上最大規模の国債発行を決定したことを受け、「英国の格付けランキングが引き下げられる恐れがあるから、英ポンドの下落が避けられない」という見通しが多く聞こえてきた。
英ポンド/円 4時間足
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:英ポンド/円 4時間足

 もっとも語られた材料の一つは、2014年までに英政府の負債のGDPに対する比率が79%にまで達するということ。これは英ポンド安のバイアスを持つアナリストにとって、有力な予測の根拠になっただろう。

 だが、日本の例から見れば、このような根拠は取るに足らないだろう。日本政府の債務はすでにGDPに対して160%のレベルまで膨らんでおり、円高の傾向は依然続いている。

 しかも、円はいずれ95年の高値を更新すると言われており、ポンド安論者のロジックと明らかに矛盾する。

 この例から得られた結論は極めて明白だ。すなわち、あらゆるファンダメンタルズに関する解釈はすべて「我田引水」であり、それに基づく結論はほとんど確実性を持たないものと心得るべきだ。

 では、テクニカル分析であれば、確実な判断につながるか。
■同じチャートでも見る人のバイアスにより違って見える

 残念ながら、相場は不確実性によって成り立っている以上、テクニカル・アプローチも完全なツールにはなり得ない。簡単に言えば、同じチャートでも、バイアスが異なる者は異なる結論を出すからだ。

 その好例として、目下のユーロ/米ドルのチャートが挙げられる。ユーロ高のバイアスを持つ方なら、以下のようにチャートから「上昇フラッグ」(※1)というフォーメーションを描き出すだろう。
ユーロ/米ドル 日足
(出所:米国FXCM

 逆に、ユーロ安のバイアスを持つ方であれば、以下のように「下落トライアングル」(※2)を規定するだろう。

(※1、※2 編集部注:「上昇フラッグ」も「下落トライアングル」も保ち合いのパターンの一つ。「フラッグ」は2本の斜めの平行線の間を行ったり来たりするもの。「トライアングル」はチャートが三角形に見えるパターンの一つで、「下落トライアングル」は安値が一定で、高値が切り下がっている形)
ユーロ/米ドル 日足
(出所:米国FXCM

 このように、ファンダメンタルズはもちろんだが、テクニカルでも、完全に主観的な要素を排除した判断と見通しはあり得ない。これこそ相場の不確実性なのである。そう、相場の不確実性は結局読み手の不確実性にある

 では、どうすればよいだろうか。答えは簡単だ、上の例を見る限り、ユーロ高派は「上昇フラッグ」の「フラッグ」の突破を待ってから行動し、ユーロ安派は再度安値が更新され、なおかつ「フラッグ」の下放れとなるのを待ってから行動すべきであろう。

 このような対応こそ、相場の不確実性と自らの限界を知った上での正しい判断である。それ以外の道を筆者は知らないし、あり得ないと思う。

■円安トレンドが終わったと判断するのはまだ早い

 では、ドル/円はどうなるか。

 残念ながら、筆者が前回にて述べた3つの根拠はすべて消滅している。それでも、筆者はドル/円とクロス円(※3)相場における円安トレンドの終えんを判断するのは性急だと思う。自らの考え方を証明するため、新たなチャートを提示することに「ドル上昇トレンドが終えんしたと判断するのは性急だ!」参照)

 明らかに、下に示したチャートは前回とやや異なるチャネルを描き出している。このチャネルの真贋は恐らく次回に判明すると思うが、余計な説明は不要かもしれない。もちろん、これは読者各位が十分理解しているとおり、筆者のバイアスゆえの解釈である。

 バイアスに関しては、昨日フジマキ・ジャパンの藤巻社長による「半年で130円までのドル高」といった予想がロイターに流れていたので、テーマとして一段と面白くなっている。これについては、次回また検証したい。

(※3 編集部注:「クロス円」とは、ドル以外の通貨と円との通貨ペアのこと。ユーロ/円、英ポンド/円、豪ドル/円、NZドル/円などがクロス円)
米ドル/円 日足
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