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プーチン大統領は独占インタビューで何を語ったのか?
元FOXニュースのキャスターであったタッカー・カールソン氏によるプーチン大統領インタビューが話題になっています。
Xにおける再生回数は2億回を超え、様々な国の言葉に翻訳されているので、全体ではものすごい再生回数になっているでしょう。
Ep. 73 The Vladimir Putin Interview pic.twitter.com/67YuZRkfLL
— Tucker Carlson (@TuckerCarlson) February 8, 2024
なぜプーチン大統領がカールソン氏をインタビューの相手として選んだのか、なぜこのタイミングなのか等々、さまざまな論点はあります。
トランプ氏に近いカールソン氏であれば、決定的に反プーチン的な質問はされないだろうし、トランプ氏、プーチン大統領、双方にとって都合の良い言説が世界にばら撒かれると想定されたのだとは思います。
FT紙コラムニスト、ギデオン・ラックマン氏はタッカー氏を"Useful Idiot"(役に立つ大馬鹿者)とこき下ろしました。エスタブリッシュメントから見れば、プーチン大統領に寄り添ったプロパガンダは容認し難いのでしょう。
ただ、そうした部分はともかく、編集を加えてない生のプーチン大統領がそこにはあり、内容はとてもおもしろいものです。
ウクライナにおける戦争ももうすぐ3年目を迎えます。当初の楽観論は消え、現状は物量で上回るロシアが戦況を優位に進めていますが、この戦争がどのような終わり方をするのか、プーチン大統領の目的がどこにあるのかを知る意味でも、このインタビューは見る価値はあります。
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プーチン大統領が語る「脱ドル化」は米国の覇権の終わりを意識したものか
ただ、このコラムでは、プーチン大統領が語った「ドル」に関する部分に付いて取り上げたいと思います。
しばしば為替市場では「脱ドル化(Non-Dollarization)」という言葉がでてきます。
BRICs(※)等の新興国が台頭するにつれ、米国の世界経済に占める地位は必然的に低下して行き、次第に米ドルは使われなくなる(=米ドルは下落する)運命にあるという考えです。
(※編集部注:「BRICs」とは、ブラジル(B)、ロシア(R)、インド(I)、中国(C)の4カ国の頭文字をつなげた造語。最後の文字「s」を南アフリカとして、計5カ国を指す場合もある)
確かにそうなるのが自然にも聞こえますが、それは米国の覇権の終わりも暗示します。米国の過剰債務がその動きを促すとも考えられ、その部分では米国のトランプ主義者の考え方にも通じます。プーチン大統領は(あきらかに)その辺りも意識して語っています。
西側のエリートはロシアの脅威を喧伝する。次はポーランドやラトビアだ、明日にも核戦争を起こすかもしれないと。しかし、それは「米国の納税者や欧州の納税者から追加の金をせしめるためだ」とプーチン大統領は言います。その目的はロシアを可能な限り弱体化させることだと。
でも、プーチン大統領は米国民に語りかけます。
「自国の領土から何千マイルも離れている。他にすることはないのか?米国には国境問題、移民問題、国家債務の問題、33兆ドル以上だ。他にすることはないのか?だからウクライナで戦うべきなのか。ロシアと交渉し、合意を結ぶ方が良いのではないか?」
国境問題、移民問題はトランプ支持者の最大の関心事です。
国家債務の問題もそうです。見た目の経済指標等は好調ですが、一人ひとりの米国民の生活はさまざまで、決して楽ではありません。
むしろ危機に瀕していると言えます。それなのに、ウクライナへ大量の資金援助をすることはおかしいのではないか。米国が援助をやめれば、ウクライナにおける戦争は数週間で終わると言いました。
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Bricsの勃興と避けがたい米ドルの凋落
また、「米ドルの武器化(Weaponization)」 にも言及しています。
カールソン氏「米ドルは多くの点で世界を結び付けてきました。あなたの利益にはならないかもしれませんが、確かに私たちの利益にはなりました。
米ドルは基軸通貨として、そして普遍的に受け入れられた通貨としての地位を失っていくのでしょうか?制裁によって世界における米ドルの地位はどう変わったと思いますか?」
プーチン大統領「ご存知のように米ドルを外交闘争の道具として使うことは、米国の政治指導部が犯した最大の戦略的過ちのひとつだ。
米ドルは米国の力の源泉だ。米ドルをいくら刷っても、すぐに世界中にばらまかれてしまうことは誰もがよく理解していると思う」
「米国のインフレはごくわずかだ。インフレ率は3%か3.4%程度で米国にとっては完全に許容範囲だと思う。しかし、米国は印刷を止めようとしない。
33兆ドルの国家債務は何を物語っているのでしょうか?
それは武器だ。これは米国が世界中で権力を維持するための主要な武器である。政治指導者が米ドルを政治闘争の道具として使うことを決めた途端、この米国の力に打撃が与えられた。
強い言葉を使いたくないが、これは愚かな行為であり、重大な過ちだ」
そしてここから、プーチン大統領は、彼自身が考える、Bricsの勃興、避けがたい米ドルの凋落について語り始めます。
「しかし米国が特定の国に対して取引制限や資産凍結などの制限的な措置をとっていることは重大な懸念を引き起こし全世界にシグナルを送ることになる。
何が起こったのか。2022年までロシアの対外貿易取引の80%は米ドルとユーロで行われていた。
米ドルは我々と第三国との取引の約50%を占めていました。しかし現在は13%にまで減少している。米ドルの使用を禁止したのは我々ではない。我々にはそのような意図はなかった。我々の米ドルによる取引を制限したのは米国の決定だった。
私はそれが世界中で米国の力を弱めることから、米国自身とその納税者の利益の観点から見て、それはまったくの愚行だと思います。
ちなみに中国人民元との取引は約3%だった。現在、私たちの取引の34%はルーブルで行われており、それと同程度の34%強が中国人民元で取引されている。
なぜ米国はそのようなことをしたのだろう。推測するに、自惚れだろう。
おそらく彼らはそれがロシア経済の完全な崩壊につながると考えたのだろうが何も崩壊しなかった。さらに産油国を含む他の国々では、中国人民元での原油代金の支払いを考えており、すでに受け入れている。
この状況を理解しているのかいないのか、米国ではこのことに気付いている人はいないのだろうか。
あなたは何をしているのですか?あなたたちは自らを孤立させています。すべての専門家が言っています。
米国の知的で思慮深い人々に米ドルが米国にとって何を意味するのか尋ねてほしい。あなた方は自らの手でそれを殺そうとしている」
プーチン大統領は西側の経済制裁が事実上ほとんど効いていないと言い、むしろ米国は没落していると続けます。
「中国経済は購買力平価で世界一の経済になりました。規模では米国をずっと前に抜いている。米国は2位、その次は人口15億人のインド、そして日本、5位にロシアが来ます。
ロシアは昨年(2023年)あらゆる制裁や規制にもかかわらず欧州で最大の経済となった。あなたの視点からは、制裁、規制、米ドル取引停止、SWIFT(※)サービスからの切断、原油タンカーへの制裁、航空機への制裁、あらゆるものへの制裁は正常なのでしょうか?」
(※編集部注:「SWIFT」とは、国際銀行間の送金や決済に利用される安全なネットワーク等を提供する非営利法人のこと)
「世界でもっとも多くの制裁はロシアに対して適用されています。
そしてその間、私たちは欧州で最大の経済となった。米国が使う手段は機能しない。(米国は)どうすべきか考えなければならない」
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プーチン大統領の言葉は「アメリカファースト」を掲げるトランプ主義者の心を捉えるのか
プーチン大統領のこうした言葉は、「アメリカファースト」を掲げるトランプ主義者の心を捉えるでしょう。
プーチン大統領がウクライナを攻撃したのは、米国の指導者というより、エリート達、つまり彼らの考える「ディープ・ステート」による継続的なロシアに対する圧力のせいなのだと訴えます。
私自身は、遠い将来の問題として、中国14億人、インド15億人、そしてインドネシアの6億人を含め、40億人を優に超える東南アジアに世界経済の中心は移るのではないかとは思います。
ただ、それにはまだまだかなりの時間が必要でしょう。
AI分野において米国の技術力が独走するので、まだ数年は米国の成長が他を凌駕していくのだと思います。
しかし、単純に、貿易決済で使われる米ドルのシェアは低下していくはずです。
その時、どの通貨が決済通貨として使われるのか?米ドル以外の候補、今は見当たりませんが、将来的には「脱ドル化」は進むはずです。
米国CPI・PPIは市場予想を上回ったものの、米ドルの上昇は限定的
直近のマーケットを見ると、米国のCPI、PPIともに市場予想を上回ったことで米金利が上昇し、米ドル堅調のはずですが、ユーロ/米ドル等ではあまり米ドルは上昇していません。
米ドル/円は150円台後半が重く、現状(本稿執筆時点)では149円台に反落しています。
(出所:TradingView)
(出所:TradingView)
151円から上には、ノックアウト・オプションがたくさん存在し、一気に上昇することを阻んでいますが、時間の経過とともに抜けやすくなります。
ただ、その前に、2月21日(水)にはFOMC(米連邦公開市場委員会)議事要旨の発表があります。
少しタカ派的な内容にはなりそうですが、ポジション調整のきっかけになるかもしれず、そこは注意でしょうか。
そして同日に、米半導体企業・エヌビディアの決算が発表されます。これまでのAIブームを牽引してきた銘柄だけに、この決算をきっかけに利食い先行となる可能性には注意したいところです。
日米ともに、株価が高いところにあるので、調整に注意すべきと思われます。
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