■「有事のドル」なしでは「有事の円」はあり得ない
それでは、円はどうなるか?
結論から申し上げると、「有事のドル」なしでは「有事の円」はあり得ない。
中東情勢の混乱で円がリスク回避先として買われることがあっても、それは長続きしないだろう。
つまり、米ドルは買われていないのに、円だけが多少買われているという現在の相場は、本当の意味での有事ではないということを、マーケットは暗示しているのかもしれない。
「有事のドル」ではなく「ドルの有事」。つまり、米ドルの大幅変動をもって「世界情勢の有事」を告げることが本来のマーケットの姿である。
ただ、このようなロジックの説明は「ニワトリが先か、タマゴが先か」といった論争に陥りやすい。よって、ここでは避けるが、マーケット自体が先見性を持っており、マーケットより賢い人間が存在しない以上、性急な結論を出さないほうがよいということを強調しておく。
■「有事の円」は長続きせず、いずれ円売りが起きやすくなる
市場関係者の中には「ユーロが米ドルに代わってリスク回避先として選ばれた」と言い始めている者もいる。だが、このような論調は典型的な「我田引水」であり、後解釈に過ぎない。
「ユーロ崩壊論」から「リスク回避先論」まで、一部の市場関係者の恣意的な解釈やスタンスの急転が見られるが、これはマーケット心理の変異、そのものを反映している。このようなことから、距離を置くべきだ。
話はやや脱線したが、要するに「有事の円」は長続きしない。いずれ、市場コンセンサスに沿った値動きとなるだろう。
一部市場関係者の中には、日銀が量的緩和を再開する可能性をひそかに探り始めている者もいると聞いている。国会で予算関連法案を通せないといった政治リスクも相まって、「円キャリートレード」がいずれ再開されるといった観測も浮上してきた。
この点、「円キャリートレード」が再開するかどうかは現時点で判断しづらいが、ユーロや英国が実際に利上げを開始すれば、金利面の差がどうしても意識されるだろう。結果として、円売りが起きやすくなる。
そのようになる場合、米ドル/円よりも、短期スパンではクロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)のほうが上値余地が広がりやすい。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/円 日足)
1月28日のコラムで、米ドル/円は86円、ユーロ/円は116円といったターゲットを提示したが、ユーロ/円のほうがより近づいており、このことが何よりもの証明となる(「『人民元のユーロ買い』にはワケがある。通貨の興亡は人民元抜きでは語れない!」を参照)。
■これからの相場を見通す上で必要な2つのポイントとは?
最後に、2点ほど強調しておきたい。
まず、主要通貨が利上げ周期に入る段階では、金利差を重視する傾向が強いから、利上げ観測が皆無の円には不利となる。しかし、中長期で見れば、デフレの通貨は本来強いということも忘れてはならない。
次に、前述したような「有事のユーロ」といった見方が示されるほど、最近は米ドル安の背景を無理矢理解釈する風潮が強まっている。
だが、これは昨年の「ユーロ崩壊論」と同様に、市場センチメントが一辺倒になりやすい段階にきていることを物語っている。
以上、この2点を踏まえて、これからの相場を見通す必要があるが、「2011~2012年FXアウトルック」というスペシャルレポートをまとめたので、興味のある方はご一読を。
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