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田向宏行
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陳満咲杜の「マーケットをズバリ裏読み」

「真珠湾攻撃」以来、70年ぶりの米格付け
見通し引き下げを、なぜ市場は無視する?

2011年04月22日(金)17:53公開 (2011年04月22日(金)17:53更新)
陳満咲杜

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■米ドルの全面安が加速している

 為替市場では、米ドルの全面安が進んでいる。ドルインデックスは2009年11月につけた安値の74.17を下回り、2008年8月以来の安値をつけている。

 主要通貨は対米ドルで軒並み高値を更新しており、そのうち、豪ドルとスイスフランは事実上の史上最高値を再び更新している

豪ドル/米ドル 週足

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:豪ドル/米ドル 週足

米ドル/スイスフラン 週足

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 米ドルの全面安が加速していることについて、テクニカル的な視点で見ると、年初来の下落トレンドの延長ととらえることができる。

 一方、ファンダメンタルズ的な視点で見ると、次の2つの大きな材料が、今週の米ドルの急落をもたらしていると思っている。

 まずは、有力格付け会社であるS&P(スタンダード&プアーズ)が米国のソブリン(国家に対する信用)見通しを修正したことだ。債務の見通しを従来の「安定的」から「ネガティブ」に引き下げ、今後2年間で、ソブリン格付けを引き下げる確率を3分の1と表明した。

 2つ目は、中国がインフレ退治のために、「禁じ手」の人民元大幅切り上げを行うのではないかという市場のウワサだ。

米ドル安のスピードは、リスク選好度しだい

 もっとも、S&Pが米ソブリン見通しを修正したことがもたらす効果については、巷で言われるほど単純なものではない。

 本来、この修正は米国債のマーケットにインパクトを与えるはずだ。ところが、国債価格が安定しているにもかかわらず、米国株は一時急落した

 それに伴って米ドルも一時は反発したが、その後、米国企業の決算が好調であることに支えられ、米国株は上昇を再開し、米ドルは再び売られている。

米ドル/円 4時間足

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 ここで見逃せないのは、マーケットの反応が、株式のパフォーマンスと米ドルでは逆相関の形になっており、その傾向が一層強まっていることだ。

 また、史上最高値を更新し続けている金(ゴールド)との連動性も考慮すると、短期スパンで、リスク選好度が高まると米ドル安が進んでいるということも重要だ。

 つまり、米ドル安が進むスピードを、リスク選好度が決定づけていることを、改めて印象づけている。

ユーロ/米ドル 日足

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 ゆえに、ユーロのソブリンリスク(国家に対する信用リスク)が拡大している中でも、ユーロが高値を更新できたのだ。

■S&Pの発表は、マーケットに「相手にされていない」

 言い変えれば、S&Pの格付け見通しの変更自体がマーケットに「相手にされていない」からこそ、米ドル安が一段と進んでいると言うこともできる。

 S&Pの修正が米ドル安をもたらしたと解釈して、結果的には当たっている。だが、短期スパンにおいては、その中身はむしろ正反対であることを強調しておきたい。

 マーケットが本気でS&Pの発表を問題視するならば、株式市場の暴落が続き、リスク回避で米ドルが買い戻され、国債の投げ売りで金利が急上昇し、短期スパンで、米ドルを押し上げる要素となってもおかしくはない。

米ドル/円 日足

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足

 少なくとも、金利差に敏感な米ドル/円は、そのような効果で大きく上昇するだろう。

 だが、足元の米ドル/円は反落が続いており、S&Pの発表が「相手にされていない」ことの何よりもの証左となる。

■マーケットがS&Pの発表を無視するワケは?

 それでは、なぜ、マーケットはS&Pの発表を無視しているのだろうか?

 その原因については、今回の発表に政治的な意図が強いと思われること、ならびに、S&P自体の問題の2つがあると思っている。

 前者に関しては、オバマ政権下での民主、共和両党の亀裂を懸念し、債務削減の緊急性を提起するため、S&Pがこのタイミングで修正を発表したという見方が多いようだ。

 言い変えれば、警鐘を鳴らしていること自体は米国の債務削減に向けてプラスに働くとして、マーケットが楽観視しているということである。

 後者は、S&Pという会社自体が著しく“格下げ”されているということだ。

 まだ記憶に新しいが、あのサブプライム危機を引き起したサブプライム債券(総額数千億ドルにのぼる)に投資適格の判断を与えたのは、S&Pである。リーマン・ショックを引き起したリーマン・ブラザーズに、倒産直前まで最高格付けを与えていたのもS&Pだ。

 その前のエンロンやベアー・スターンズもしかりである。

 このように、S&Pは数多くの重大な判断ミスを犯してきたが、それにもかかわらず、同社の従業員は誰一人として解雇されず、高い給料をもらい続けている(従業員の立場では「最高」の会社で、筆者は新卒の甥に同社への就職を勧めたほどだ…)

■米格付け見通しの引き下げは「真珠湾攻撃」以来70年ぶり

 そうは言っても、米国のソブリン格付け見通しの修正は極めてマレなことで、問題提起といった程度で、簡単に一蹴されるものではない

このような「ネガティブ」の評価が下されたのは、直近でも70年ほど前のことであり、「トラ、トラ、トラ」との暗号で日本が米真珠湾を攻撃した後の出来事だった。

 「真珠湾攻撃」は米国にとってサプライズであり、大きな痛手を負う事件であったが、この事件後の状況と比べるほど、S&Pが問題を深刻に見ていると言うこともできる。

 もし、このような見通しが正しければ、S&Pは汚名返上するチャンスとなるだろう(蛇足であるが、筆者はかつてゲーム会社で「トラ、トラ、トラ」というゲームの制作に携わったことがあり、真珠湾攻撃前後の歴史に多少詳しいのである…)

米国のソブリンリスクは、いったん低下する可能性

 結論から申し上げると、筆者は、S&Pの判断に全面的に同意する。それどころか、長期的に見て、悪化がより進んで(より過激?)いるとさえ思っている。

 このコラムでも、米国が早晩最高格付けを失う可能性が高いと、何度も繰り返し指摘してきた「ガイトナー財務長官の発言は信用できず!米国は『AAA』の格付けを失う可能性も…」など参照)

 しかし、中期的には、筆者の見方はむしろ正反対である。S&Pの見通しの変更があったからこそ、米国のソブリンリスクは当面、いったん低下してくると思っている。

 このことを説明するのはやや難しいが、他国の事例で見れば、よくわかるだろう。

 遠い例は、S&Pが日本のソブリンを2002年に格下げしたことだ。日本国債の下落と金利上昇に賭けた投機筋は皆、身を滅ぼす運命に遭った。

 近い例は、英国が昨年、同じような警告を受けたことだ。足元で英ポンドが堅調に推移していることを見れば、英国の財政削減に取り組む姿勢が評価されたことは、よく理解できる。

英ポンド/米ドル 日足

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:英ポンド/米ドル 日足

 要するに、格下げのリスクに直面すると、根本的な問題を解決できないとしても、政党や国民の間に政治的なプロセスとして、「妥協」の力が働きやすくなるため、ソブリンリスクはいったん低下する方向に作用すると見ているのだ。

 この意味では、前述したように、マーケットがこの問題を楽観視していることも理にかなう。

 したがって、短期的には米ドルを押し下げる方向に作用するが、中期的には、米ドルを押し上げる要素として再認識されるだろう。

「中国が出たら終わり」の法則を信じるならば…

 続いて、中国の人民元に関するウワサである。

 その真贋はわからず、何とも言えないが、一般論として、次の2点に注意しておきたい。

 1つ目は、中国政府の重大政策変更は、おおむねマーケットの意表を突く形で行われることが多いため、マーケットのうわさどおりになるか考えるよりも、そのタイミングに関する予測はすべて憶測と割り切ったほうがよい

 次に、「中国が出たら終わり」の法則を信じるなら、今回も、一種の「ポジショントーク」である蓋然性が高い

 ちなみに、「中国が出たら終わり」の意味については、昨年5月28日のコラムをお読みいただけば、おわかりいただけると思う「中国当局がユーロ資産売却を検討?中国五千年の知恵をバカにするな!」を参照)


 最後に、ザイFX!編集部の方々のご指導とご協力で、拙作『勤勉で勉強家の日本人がFXで勝てない理由』(ダイヤモンド社刊)が、4月21日に発売された。

 これを記念して、だいぶ世の中に遅れたが、筆者もツイッターを始めたのでご紹介させていただく(@chinmasato)。

 相場のことを中心にいろいろとつぶやいていくので、よろしくお願い申し上げたい(ちなみに、新作のタイトルをやや生意気と感じる読者の方もいらっしゃると思うが、これは筆者ではなく、ザイFX!編集部の書籍担当者がつけたものである)

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