このような「ネガティブ」の評価が下されたのは、直近でも70年ほど前のことであり、「トラ、トラ、トラ」との暗号で日本が米真珠湾を攻撃した後の出来事だった。
「真珠湾攻撃」は米国にとってサプライズであり、大きな痛手を負う事件であったが、この事件後の状況と比べるほど、S&Pが問題を深刻に見ていると言うこともできる。
もし、このような見通しが正しければ、S&Pは汚名返上するチャンスとなるだろう(蛇足であるが、筆者はかつてゲーム会社で「トラ、トラ、トラ」というゲームの制作に携わったことがあり、真珠湾攻撃前後の歴史に多少詳しいのである…)。
■米国のソブリンリスクは、いったん低下する可能性
結論から申し上げると、筆者は、S&Pの判断に全面的に同意する。それどころか、長期的に見て、悪化がより進んで(より過激?)いるとさえ思っている。
このコラムでも、米国が早晩最高格付けを失う可能性が高いと、何度も繰り返し指摘してきた(「ガイトナー財務長官の発言は信用できず!米国は『AAA』の格付けを失う可能性も…」など参照)。
しかし、中期的には、筆者の見方はむしろ正反対である。S&Pの見通しの変更があったからこそ、米国のソブリンリスクは当面、いったん低下してくると思っている。
このことを説明するのはやや難しいが、他国の事例で見れば、よくわかるだろう。
遠い例は、S&Pが日本のソブリンを2002年に格下げしたことだ。日本国債の下落と金利上昇に賭けた投機筋は皆、身を滅ぼす運命に遭った。
近い例は、英国が昨年、同じような警告を受けたことだ。足元で英ポンドが堅調に推移していることを見れば、英国の財政削減に取り組む姿勢が評価されたことは、よく理解できる。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:英ポンド/米ドル 日足)
要するに、格下げのリスクに直面すると、根本的な問題を解決できないとしても、政党や国民の間に政治的なプロセスとして、「妥協」の力が働きやすくなるため、ソブリンリスクはいったん低下する方向に作用すると見ているのだ。
この意味では、前述したように、マーケットがこの問題を楽観視していることも理にかなう。
したがって、短期的には米ドルを押し下げる方向に作用するが、中期的には、米ドルを押し上げる要素として再認識されるだろう。
■「中国が出たら終わり」の法則を信じるならば…
続いて、中国の人民元に関するウワサである。
その真贋はわからず、何とも言えないが、一般論として、次の2点に注意しておきたい。
1つ目は、中国政府の重大政策変更は、おおむねマーケットの意表を突く形で行われることが多いため、マーケットのうわさどおりになるか考えるよりも、そのタイミングに関する予測はすべて憶測と割り切ったほうがよい。
次に、「中国が出たら終わり」の法則を信じるなら、今回も、一種の「ポジショントーク」である蓋然性が高い。
ちなみに、「中国が出たら終わり」の意味については、昨年5月28日のコラムをお読みいただけば、おわかりいただけると思う(「中国当局がユーロ資産売却を検討?中国五千年の知恵をバカにするな!」を参照)。
最後に、ザイFX!編集部の方々のご指導とご協力で、拙作『勤勉で勉強家の日本人がFXで勝てない理由』(ダイヤモンド社刊)が、4月21日に発売された。
これを記念して、だいぶ世の中に遅れたが、筆者もツイッターを始めたのでご紹介させていただく(@chinmasato)。
相場のことを中心にいろいろとつぶやいていくので、よろしくお願い申し上げたい(ちなみに、新作のタイトルをやや生意気と感じる読者の方もいらっしゃると思うが、これは筆者ではなく、ザイFX!編集部の書籍担当者がつけたものである)。
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