また、史上最高値を更新し続けている金(ゴールド)との連動性も考慮すると、短期スパンで、リスク選好度が高まると米ドル安が進んでいるということも重要だ。
つまり、米ドル安が進むスピードを、リスク選好度が決定づけていることを、改めて印象づけている。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 日足)
ゆえに、ユーロのソブリンリスク(国家に対する信用リスク)が拡大している中でも、ユーロが高値を更新できたのだ。
■S&Pの発表は、マーケットに「相手にされていない」
言い変えれば、S&Pの格付け見通しの変更自体がマーケットに「相手にされていない」からこそ、米ドル安が一段と進んでいると言うこともできる。
S&Pの修正が米ドル安をもたらしたと解釈して、結果的には当たっている。だが、短期スパンにおいては、その中身はむしろ正反対であることを強調しておきたい。
マーケットが本気でS&Pの発表を問題視するならば、株式市場の暴落が続き、リスク回避で米ドルが買い戻され、国債の投げ売りで金利が急上昇し、短期スパンで、米ドルを押し上げる要素となってもおかしくはない。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)
少なくとも、金利差に敏感な米ドル/円は、そのような効果で大きく上昇するだろう。
だが、足元の米ドル/円は反落が続いており、S&Pの発表が「相手にされていない」ことの何よりもの証左となる。
■マーケットがS&Pの発表を無視するワケは?
それでは、なぜ、マーケットはS&Pの発表を無視しているのだろうか?
その原因については、今回の発表に政治的な意図が強いと思われること、ならびに、S&P自体の問題の2つがあると思っている。
前者に関しては、オバマ政権下での民主、共和両党の亀裂を懸念し、債務削減の緊急性を提起するため、S&Pがこのタイミングで修正を発表したという見方が多いようだ。
言い変えれば、警鐘を鳴らしていること自体は米国の債務削減に向けてプラスに働くとして、マーケットが楽観視しているということである。
後者は、S&Pという会社自体が著しく“格下げ”されているということだ。
まだ記憶に新しいが、あのサブプライム危機を引き起したサブプライム債券(総額数千億ドルにのぼる)に投資適格の判断を与えたのは、S&Pである。リーマン・ショックを引き起したリーマン・ブラザーズに、倒産直前まで最高格付けを与えていたのもS&Pだ。
その前のエンロンやベアー・スターンズもしかりである。
このように、S&Pは数多くの重大な判断ミスを犯してきたが、それにもかかわらず、同社の従業員は誰一人として解雇されず、高い給料をもらい続けている(従業員の立場では「最高」の会社で、筆者は新卒の甥に同社への就職を勧めたほどだ…)。
■米格付け見通しの引き下げは「真珠湾攻撃」以来70年ぶり
そうは言っても、米国のソブリン格付け見通しの修正は極めてマレなことで、問題提起といった程度で、簡単に一蹴されるものではない。
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