それは他ならぬ、本コラムで言及していた「米国のデフォルトの可能性は高いが、米国が近々格下げされる確率は低い」という見方だ。
結論から申し上げると、今回米与野党がギリギリで合意し、デフォルトを回避できたとしても、米ソブリン格下げの可能性はなお存在し、早ければそれが年内に起こる可能性もある。
というのは、本コラムでも指摘したように、米国にはデフォルトの前例があり、また実際デフォルトが発生したとしてもかつてのアルゼンチンと異なり、それは「テクニカル」的な調整に留まるに過ぎないからだ。
一方、米国が最高格付けを失ったことは先例がないだけに、これが起こると混乱を避けられないと思う。
肝心なのは、米国の借金体質が改善されない限り──これはほぼ不可能とも見られるが──一いったんの債務上限引き上げがあったとしても米国のソブリン格下げは回避できないだろうということだ。今はそう思うようになった。
本コラムでは、世間の騒動よりかなり前に「米国はいずれAAAの最高格付けを失う」と指摘していたが、事の進展は筆者の想定より早かった(2010年4月9日の「ガイトナー財務長官の発言は信用できず! 米国は「AAA」の格付けを失う可能性も…」などを参照)。
■最悪の事態が起きても米ドルが暴落しない理由とは?
しかし、ここで指摘しておきたいのは、仮に米国が最高格付けを失ったとしても、「世界の末日」、あるいは「米ドルの末日」にはならないということだ。
「米国のソブリン格下げ=米ドル資産の暴落」といった発想は短絡過ぎであり、それはリスクさえあるとみる。
前述したように、ドルインデックスが想定より緩やかな下落に留まっていること自体が1つのシグナルであり、「米格下げ後の世界」を予言しているような値動きだ。
(出所:米国FXCM)
同じ値動きが米国債マーケットでもみられ、世間が騒ぐほど米国債の暴落は起こっていない。
その説得力のある証拠は何よりも、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の値動きにあるだろう。
米ソブリンのCDS相場で見る限り、米国債は事実上すでにAAAの最高格付けを失っているが、米国債は相応の下落を見せていない。
要するに、米サイドにおける最悪の事態が出現したとしても、米国債にしても、米ドルにしても、言われるほどの暴落を演じない公算が高いとみる。そればかりか、逆に買われるのではと思われる節さえある。
今回は事実上、「未曾有」の事態だけに、マーケット関係者は困惑し、誰も正確な判断をできずにいることが真実であるが、あえてこのような予測をする重要な背景には2つのキーワードがある。
1つは「リスク回避先」で、もう1つは「流動性」だ。
また結論から申し上げると、米ドルと米国債なしでは、世界中を見渡しても本当の意味のリスク回避先はないというのが現実である。
次に、危機の本家が米国とはいえ、あるいは米国であるがゆえに、相場の流動性を著しく低下させる恐れがある。
その流動性の危機が大きければ大きいほど、米ドルと米国債に資金は流入し、結果的に米国の優位性は変わらないということだ。
クレイジーな発想だと一蹴される前に、あのリーマンショック後の状況を思い出してもらえば、案外納得できる部分があると思う。これについての詳説はまた次回に。
(来週は中国出張のため、お休みとさせていただきます)
(2011年7月29日 日本時間14:20執筆)
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