■株安と連動した米ドル高があってもおかしくないのだが…
昨日、欧米株は再び急落してきた。欧州系銀行の資金不足懸念に加え、欧米経済指標の悪い結果がリスクオフの動きをもたらし、米ドル安に歯止めをかけるとともに、金の史上最高値の再更新を促した。
ただ、言うまでもないが、ドルの総合力を表すドルインデックスについては、従来あったような「有事のドル買い」にはほど遠い状態だ。米「格下げショック」以降、世界金融市場が不安定になり、世界的景気後退がすぐに始まるのではないかといった懸念が、悲観的な市場センチメントを醸し出しているのにである。
ちなみに、米有力投資銀行のモルガンスタンレーとゴールドマン・サックスは揃って経済成長見通しを下方修正し、WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)の調査によると、米富裕層は今後の経済展望に総じて悲観的な見方を示している。
だから、このような市場センチメント悪化が本来、株安と連動した形でもっと米ドルを押し上げてもおかしくない。
しかし、ドルインデックスは8月17日(水)に73.45まで安値を再トライしたばかり。8月18日(木)はリスクオフの動きで買われたが、本稿執筆時点では74.25前後までの小幅な切り返しに留まっている。
(出所:米国FXCM)
それに伴い、ユーロ/米ドルは8月17日(水)に再び1.45ドルの大台を一時回復し、英ポンド/米ドルは8月18日(木)まで5日間続伸、5月3日(火)以来の高値を記録している。
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ソブリンリスク(国家に対する信用リスク)を抱えるEUや大騒乱があった英国の事情を考えると、米ドルのパフォーマンスがいかに芳しくないかが浮き彫りとなっている。
そして、リスク回避先としてのスイスフランはスイス当局の警告を受け、高値圏で足踏みしているものの、かつての上昇モメンタムを見せていない。
唯一「敢闘」しているのが円であり、日銀の再介入のリスクがあるにもかかわらず、円は歴史的な高値ギリギリの水準まで迫っている。
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■米ドル高になっていない原因は何か?
リスク回避で米ドルと円が買われるといった論調がマスコミに溢れているが、本当のところはやや異なる部分があると思う。
米ドルに関しては、前記のように、米ドル全体はかろうじて底割れを回避した程度で、「買われている」と言えるほど強くはない。
また、円買いに関しては、日本資金の還流と海外筋の円債物色が大きな背景として浮上しており、必ずしもリスク回避型の円買いが起こっているとは限らない。
先週のコラムで、筆者は「株安、米ドル高、債券高の流れが続く」という見方を述べていたが、足元では株安、債券高が確認されたものの、米ドル高の流れは起きていない(「来年は中国絡みでさらなる危機が! 株安、米ドル高、債券高の流れは続く」参照)。
ここで、その原因を考えてみたいと思う。
もっとも、前記の見方の基本ロジックはいわゆる「悪い米ドル高」にあった。つまり、景気後退懸念で金融相場が混乱することによって相場変動率が拡大、市場流動性が枯渇することで、結局米ドルの需要が増大し、これが米ドル買いにつながるといった発想である。
当然、このようなロジックにはリスク回避型の米ドル買いニーズも含まれるが、米ドルを単純なリスク回避先ととらえるよりも、決済通貨、あるいは基軸通貨としての地位と役割が米ドルにあることがより重要である。
この点においては、「米ドル」と「円などの米ドル以外の通貨」には雲泥の差があることを忘れてはいけない。
となると、足元のドルインデックスの軟調は何を暗示しているのだろうか?
大きく考えて原因は2つしかない。
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