米・EUが貿易協定で合意するも、EUで「服従を選択」と批判が拡大し、ユーロ/米ドルが失速
みなさん、こんにちは。
今週(7月29日~)のビッグニュースは、日米に続き、米・EU(欧州連合)も貿易協定で合意したことです。
「大半のEU輸出品に15%の関税」と、日米の関税を参考にした内容となっています。
米国と欧州連合(EU)は27日、自動車を含む大半のEU輸出品に15%の関税を賦課する貿易協定で合意した。世界経済に打撃を与えかねない貿易戦争を回避した。8月1日には高率の関税が発動する予定だった。トランプ米大統領は5月の時点で、ほとんど全てのEU輸出品目に50%の関税を課すと示唆し、交渉への圧力を強めたが、その後税率を30%に引き下げていた。この日の合意はトランプ氏と欧州委員会のフォンデアライエン委員長の会談後に発表された。
* 医薬品と金属は含まれない。鉄鋼とアルミニウムに関しては「これまで通りだ」-トランプ氏
* EUは7500億ドル相当のエネルギーを購入-トランプ氏
* 既存の対米投資に6000億ドルを上乗せ-トランプ氏
* 米国との貿易において加盟国市場をゼロ関税で開放することにEUは同意-トランプ氏
* 「安定」と「予測可能性」がもたらされる-フォンデアライエン委員長
* 「貿易の不均衡を是正することが望ましかった」-フォンデアライエン氏
(出典:Bloomberg)
トランプ大統領は記者団に「史上最大のディールだ」とコメント。フォンデアライエン氏も「世界最大の2つの経済圏の非常に重要な合意だ」と意義を強調しています。
日米が合意した局面で、米EU間での合意も予想されていたとはいえ、やはり米EU間で関税交渉の合意ができたことはマーケットにポジティブに働き、株とユーロは急騰しました。
ユーロ円は一時173.97円と175円まであと1円というところまで上昇。しかし、その後、ユーロは反落しています。

(出所:TradingView)
なぜ失速したのか?
まず前述のように、日米が相互関税に合意した時点で、米EU間での合意も予想されていたわけですので、ユーロ/米ドル、ユーロクロス(ユーロと米ドル以外の通貨との通貨ペア)には、利益確定売りが入るのは理解できます。
そして気になるのが、ユーロ当局者が今回の合意に不満を持っていることです。
EUが「服従を選択」と批判も-対米関税合意にくすぶる欧州の不満
ドイツのメルツ首相は、貿易での衝突を回避し、EUの利益を守ることに成功したと当初は合意を歓迎したが、その後は不満を隠さない。「これらの関税でドイツ経済は甚大な打撃を受けるだろう。ドイツと欧州に限らないとほぼ間違いなく言える。この貿易政策の影響は米国にも波及するはずだ」と28日に記者団に語った。
フランスのバイル首相も「自由を掲げる人々がその価値を肯定し、利益を守るために統合を進めてきた連合が、服従を選択した暗い日になった」とソーシャルメディアで批判した。
(出所:Bloomberg)
米国との関税ですが、日本でも一部で不満の声が上がっていますが、欧州でも同様。
こうした不満の声が拡大するにつれ、ユーロ/米ドル、ユーロ/円には断続的に売りが入り、ユーロ/米ドルは一時1.1401ドルまで反落しました。

(出所:TradingView)
このユーロの調整は関税合意がきっかけとなっていますが、7月10日(木)のコラムでご紹介させていただいた、以下のECB(欧州中央銀行)当局者のコメントが、ユーロ/米ドルの上値を抑えているのが主因だと考えています。
【※関連記事はこちら!】
⇒米ドル/円は150円台を今月回復か! 関税が25%で頭打ちの可能性、ユーロ/米ドルの1.2000ドルの壁、夏季休暇前の投機筋の円ロング解消が、米ドル/円を押し上げそう!(7月10日、西原宏一)
1.20ドルまでのユーロ高見過ごせる、それ以上は複雑=ECB副総裁(7月1日)
欧州中央銀行(ECB)のデギンドス副総裁は1日、対ドルで1.20ドルまでのユーロ高は無視できるが、それ以上の水準は複雑になるとの見方を示した。ブルームバーグTVのインタビューで「1.17ドル、1.20ドルでさえ、見過ごすことができない水準ではない」と指摘。「それ以上になると、かなり複雑になる」と述べた。
また追加利下げは「経済を助けることにはならない」とし、貿易やその他の政策に関する確実性が必要だと語った。
(出所:ロイター)
ユーロ/米ドルは6カ月で1688pipsも急上昇しており、このECB副総裁のコメントをユーロ高のスピード調整が目的だと、多くのマーケット参加者が考えています。
最終的には1.2000ドルをブレイクすると想定していますが、EUの関税合意を「服従を選択」との批判も出てくるようだと、いったんユーロ/米ドルは調整局面入りでしょうか。
ユーロ/米ドルが調整に入り、上値が重くなるということは、米ドルが反発することになります。
次に、ドルインデックスと米ドル/円の動きをチェックしてみましょう。
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ドルインデックスの反発と日経平均の上昇につれ、米ドル/円は150円を回復へ
ドルインデックスの週足は以下のように、2022年9月からチャネルの中で推移。6月30日(月)に、チャネル下限付近である96.37の安値に到達し、その後反発しています。

(出所:TradingView)
よって、中長期のドル安トレンドは変わりませんが、ドルインデックスはいったん調整局面に入ったといえます。
円安を牽引してきたスイスフラン/円やユーロ/円も調整に入っているため、米ドル/円の上昇は緩慢ですが、ドルインデックスの反発に連れ、米ドル/円も149円台に反発しました。
米ドル/円の上値を抑えているもう一つの要因は、日米関税交渉が合意に至ったことで高まった日銀の利上げ観測です。
7月30日(水)、31日(木)の日銀会合(日銀金融政策決定会合)は据え置きがコンセンサス(※)ですが、金利先物市場では、10月の会合で0.25%利上げをすでに0.63回程度まで織り込んでいます。
(※編集部注:日銀は7月31日(木)、金融政策決定会合で政策金利を0.50%で据え置くことを決めたと発表)
一方、本稿執筆時点で日経平均は4万950円レベルで推移しています。日経平均が4万円を固めつつあるリスクオンの環境下、米ドル/円での円高余地は限定的です。
前述のようにドルインデックスが反発していることもあり、米ドル/円は早晩150円台を回復すると考えています。

(出所:TradingView)
4万円を固めつつある日経平均と、米ドル/円の動向に注目です。
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