スイス当局はスイスフラン高を阻止するため、ユーロ/スイスフランのレートの下限を1.2フランに設定すると発表。無限にユーロ買いの介入を続けるとも表明した。
このようなタイミングでトリシェ総裁が流動性の供給を明言するのは、来たるべき景気後退とEUソブリン危機のさらなる悪化に備えること以外に、スイス当局をけん制する意味合いを持つことも見逃せない。
ECBはFRBに習って、「通貨高が自国の利益」といった「建前」を崩そうとしているのかもしれない。言い換えれば、もはや「メンツ」を保つほどの余裕がECBにはなくなってきている。
ゆえに、中長期スパンではユーロ安が続くとみる。
■介入後の動きが違う! スイスと日本の違いはどこに?
ところで、ユーロ/スイスフランのチャートを見ていただきたい。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/スイスフラン 1時間足)
9月6日(火)、スイス当局が声明を発表した後、ユーロ/スイスフランはずっと1.2フラン以上のレートを保っている。
スイス当局がどれぐらい資金をもって市場介入しているかは不明だが、日本当局の市場介入と照らし合わせてみれば、その効果の差は一目瞭然だ。
8月4日(木)、1日の介入金額にして史上最高と言われる政府・日銀の介入があって米ドル/円は77.00円から一時80.23円まで急騰したが、その後の3営業日でその上昇幅はすべて帳消しにされた。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)
やはり、「マーケットは政府・日銀を舐めているのか」と憤慨してしまうほど今回とは違っていた。
では、その差はどこからきたのだろうか?
■マーケットは日本政府を舐めている!
筆者は多少、マーケットが日本政府を舐めているところがあると思う。為替市場はいまだにアングロサクソンの世界だからだ。ただ、それより大きな違いは、「円高の程度」と「日本政府の立場」にあるのではないかと思う。
前者に関しては、確かに名目レートでは円高が戦後最高レベルを更新しているが、実質実効為替レートでは1995年の最高レベルより3分の1ぐらい低い状態にある。
対照的に、スイスフランの実質実効為替レートは主要通貨のうち、もっとも割高の水準を示しており、理屈では、スイス当局の行動が正当化できるところにある。
後者に関しては、日本はスイスと違い、G7(先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議)の創立メンバーで、為替取引の自由を守るとうたうG7の枠組みのなか、スイス当局のように思い切った行動はできない側面がある。
マーケットもその点を見抜いていて、日本政府の行動を「舐める」胆力を持っていたわけだ。
最後に、スイス当局の行動は今のところ成功しているように見えるが、結果的にどうなるかはまだ不透明だ。
前述のように、仮にECBも「FRB化」して紙幣を刷り撒くのであれば、スイス当局が資本規制しない限り、スイスフラン高の阻止は困難であろう。
この意味では、究極のリスク回避先は人民元であるかもしれない。このあたりの話はまた次回。
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