■徐々に「悪い米ドル高」が現実のものに…
為替マーケットでは、米ドル高の基調が強まり、株安の局面と相まって、いわゆる「悪い米ドル高」が現実味を帯びてきた。
ドルインデックスは9月8日(木)に76.31まで一時上昇し、昨年9月中旬以来、初めて200日移動平均線をトライしてきた。
(出所:米国FXCM)
当然のように、米ドル高はユーロ安なしではあり得ないから、ユーロ/米ドルの下げはきついものがあった。
足元では、9月7日(水)を除き、8月30日(火)以降はすべて陰線引けとなっている。そして、200日移動平均線を割り込んで、7月安値に迫る勢いだ。
(出所:米国FXCM)
ユーロ安はEUソブリン問題といった構造上の重石のほか、近々では株安の影響を受け、リスク回避型のユーロ売りに晒される側面が強かった。
その上、より重要なのは、ユーロ高を支えてきた金融政策面の効果が消えつつあることだ。
■「通貨戦争」の激化を暗示するトリシェ総裁発言
9月8日(木)に行われたECB(欧州中央銀行)のトリシェ総裁記者会見の内容はまさに市場関係者たちの懸念を追認しているものだった。
トリシェ総裁は利上げ周期の中断を明言し、市場へ流動性を供給する方針を表明している。これは「通貨戦争」の激化が暗示されるようなインパクトを持つものだ。
もっとも、マーケットにはECBは年内利下げに転じるのではないかとのウワサがあり、利上げ周期の中断には特にサプライズはないが、流動性の供給を示したことは驚きだ。
結局、ECBもFRB(米連邦準備制度理事会)の後を追って、「非常手段」をもって危機を退治しようとするなら、ユーロへの信頼は大きく損なわれることになる。
FRBが量的緩和の名目で米ドルを刷り撒くこと自体が流動性の供給を目的としており、基軸通貨とはいえ、“流動性の氾濫”による通貨価値の低下は避けられないところだった。
リーマンショック以降、米ドル安の進行にはドル紙幣の氾濫がもたらした側面があることは否めない。
■FRBとECB、その第1の責務の違いがもたらすもの
基軸通貨を有する国の中銀として、FRBの量的緩和は他国から厳しく批判されてきたが、FRBの「本来の責務」からみれば、必ずしも問題になるとは言えない。
というのは、FRBの責務の第1条は雇用と経済成長の促進にあり、米国の雇用を守るためには、他国の利益を無視して、あらゆる手段を講じても構わないのだ。
一方、ECBの責務の第1条はインフレ退治である。
米ドルの対極としてのユーロ高の背景には、ECBとFRBの主要責務が違うから、ECBはFRBのような「無茶」な行為をやらないといった信頼感があったと思う。
しかし、来年のインフレターゲット低下までわざわざ「予測」した、トリシェ総裁の9月8日(木)の発言は、ユーロ紙幣を刷り撒く用意があると暗示しているように聞こえる。
仮にそれが現実のものとなれば、もはやECBとFRBはほとんど変わらなくなり、ユーロは「通貨戦争」の先端を走る可能性さえある。
というのは、9月6日(火)のスイス当局の声明に注目していただきたい。
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