■ユーロ/スイスの急落を背景に下落し続けたユーロ/米ドル
今週もユーロの下落が続いており、先週のコラムでご紹介させていただいたユーロを取り巻く環境が改善されないため、ユーロ/米ドルは先週から続落となっています(「イタリア国債の入札不調でユーロが急落。利下げ観測も台頭し、徐々にユーロ安へ!」を参照)。
1.4200ドル、1.4100ドル、1.4050ドル、そして1.4000ドルに並ぶバリアの手前で一度は確実に跳ね返されるものの、戻りは極めて鈍く、9月6日(火)の海外市場では、巨大なバリアの1.4000ドルをも突破して、一時は1.3992ドルまで下落しました。

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ユーロ/米ドルの下落は、ユーロ/スイスフランの急落が要因の1つでもあったのですが、そのユーロ/スイスフランに歴史的なイベントが、9月6日(火)におきたのです。
■介入により1000ポイント強もユーロ/スイスを押し上げた
9月に入っても、為替市場の主役はスイスフランでした。
避難通貨(safe haven currency)と言われていたスイスフランですが、このところの乱高下により、避難通貨どころか投機色をかなり強め、大きな値幅を伴って上下動しています。
止まらないスイスフラン高に対して、スイス国立銀行(SNB)から自国通貨高抑制策が立て続けに出されており、ユーロ/スイスフランは8月下旬には1.2000フラン近辺まで押し上げられました。
ところが、ユーロ/スイスフランはユーロ圏の混乱を背景に9月に入って下げ足を速め、9月6日(火)のロンドン市場序盤には1.10フラン台前半までスイスフラン高が進んだのです。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/スイスフラン 日足)
そのような中で、SNBから突然、次のような発表が行われました。
「Swiss National Bank sets minimum exchange rate at CHF 1.20 per euro(ユーロ/スイスフランのミニマムターゲットは1.20ーSNB)」
つまり、ユーロ/スイスフランの1.20フラン以下は容赦しないという意味です。
そして、
「Ready to buy foreign currencies in unlimited quantities(そのために無制限介入をする用意がある)」
マーケットは一瞬、静寂。
その後、SNBは巨大な金額とともに為替市場に介入。あっという間に、ユーロ/スイスフランはミニマムターゲットである1.2000フランを突破し、一時、1.2201フランまで急騰しました。
SNBは有無を言わさず、わずか2時間あまりで、1000ポイント強もユーロ/スイスフランを押し上げたのです。これは、米ドル/円であれば10円以上押し上げたことになります。
■ヘッジファンド出身の中央銀行総裁の宣戦布告
SNBのヒルデブランド総裁はヘッジファンドの出身で、そのため、マーケットというものをかなり熟知しているようです。
まず、先月からスイスフラン高抑制策を立て続けに発表し、一時的ではあったものの、相場をスイスフラン安に誘導しました。
そして、マーケットが再びスイスフラン高に傾いた今回、ミニマムレベルを宣言したのです。
その後は実弾介入で、ユーロ/スイスフランを宣言どおりの1.20フラン台まで、強引に押し上げるという離れ業を演じました。
ただ、マーケットには「一国の中央銀行が相場を操作するのは不可能」というコンセンサスがあり、いくら介入しても、介入を停止した時点で、再びスイスフラン高になる可能性があります。
それでヒルデブランド総裁は念を入れて、「Ready To Take Further Measures If Needed(必要であれば、さらなる手を打つ用意がある)」とまでコメントしたのです。
ヒルデブランド総裁のマーケットへの宣戦布告により、ユーロ/スイスフランはそれ以降、1.20フランを割り込むことはなく、現執筆時点も1.2080フラン近辺で推移しています。
中期ではわかりませんが、短期的には、ユーロ/スイスフランは1.2000フランを下回ると再び大規模介入が入る可能性が高いため、今のところ、1.2000フランがceilingとなっています。
ただ、ショートカバーの目的以外では、ユーロ/スイスフランを買い上げようという市場参加者は見当たりません。そのため、1000ポイントの急騰劇以降は急伸することもなく、1.20フラン台での神経質な展開が続いています。
その結果、ユーロ/スイスフランのボラティリティ(変動幅)は急落しており、ユーロ/スイスフランは当面1.20~1.23フランの狭いレンジで推移することが見込まれます。
現時点では、ヒルデブラント総裁の目論見どおり、ユーロ/スイスフランは1.2000フランを保っていますが、今後も、その動向に注目が集まっています。
■スイスフランが避難通貨から離脱し、「円」の行方は?
SNBが自国通貨高の阻止に向けて大胆な政策をとったため、一部の海外勢から、「日本の当局も、スイス同様の大胆な円高対策をとるのでは?」といった憶測も飛び出しました。
この件に関しては、五十嵐財務副大臣の「スイスは経済規模が小さく、おのずと金融政策も違う」というコメントが伝えられました。
しかし、この発言は「単独介入の可能性」を否定するものではなく、仮に日経平均株価が急落するようなことがあれば、単独介入が行われる可能性は高いのではないでしょうか?
引き続き、米ドル/円はレンジ相場となっています。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)
76.50円よりも下では「介入警戒感」で下げ渋り、78円台では本邦輸出企業の厚い米ドル売りの注文が上値を阻んでいる形です。
米ドル/円は当面、76.50~78.50円のレンジ相場ではないでしょうか?
■マーケットの注目は、ヒルデブラント総裁からトリシェ総裁へ
さて、今後のユーロの行方を占うための重要なイベントであるECB(欧州中央銀行)の定例政策委員会が、日本時間今夜、9月8日(木)に開催されます。
ユーロ圏経済が混迷を深める中、トリシェ総裁が「利下げを示唆するのではないか?」といった憶測が高まっています。
ところが、マーケットでは利下げを織り込む形で、先週よりユーロ/米ドルはすでに下落しています。したがって、仮に利下げを示唆する発言があれば、ユーロは一時的に反発する可能性を想定しておいたほうがよさそうです。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 日足)
ユーロ/米ドルの下落要因の1つであったユーロ/スイスフランの急落劇は、前述のように、ヒルデブラントSNB総裁の強烈な通貨政策により、沈静化しました。
そのため、1.45ドル台から一方的に下落してきたユーロ/米ドルも、9月6日(火)に節目の1.4000ドルを割り込んだ後は、多少落ち着きを見せています。
よって、大きなユーロ安の流れは変わらないと考えていますが、9月8日(木)の会見でのトリシェ総裁のコメントしだいでは、ユーロ/米ドルは大きく反発する可能性も高まっており、要注意です。
トリシェ総裁のコメントに注目ですね。
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