(「宮田直彦氏に聞く(1) 為替相場は歴史的な大転換点を迎えている!」からつづく)
■ドルインデックスは16.5年周期の安値をつけるタイミングに
ドルインデックスはザイFX!でも陳満咲杜さんの連載によく登場する指標。これは主要通貨に対するドルの総合力を表すものだ。
その主要通貨のうち、ユーロのウェイトが飛び抜けて高く、約50%を占めている。
だから、ドルインデックスの動きはユーロ/米ドルの影響を大きく受けるのだが、もう50%ぐらいは英ポンド、円など他の主要通貨が入っているわけだから、ユーロ/米ドルの動きだけでドルインデックスが決まるわけでもない。
また、ユーロ/米ドルのチャートは上に行けば米ドル安、下に行けば米ドル高を意味するが、ドルインデックスのチャートは逆で、上に行けば米ドル高、下に行けば米ドル安を意味する。
さて、以下の1973年からのドルインデックス長期チャートを見てみよう。
「このチャートを見てわかるのは、もう長いこと、米ドル安の大きな流れが続いているということです」
チャート上の最高値は1985年につけた147.26。そのあと、2002年にも大きな山ができているものの、高値は切り下がっているし、安値も切り下がっている。波はあっても、確かに趨勢としては米ドル安が続いている。
「ポイントは日柄にあると思っています。
1985年3月の高値147.26から、1995年5月の安値79.82までは約10年でした。
そして、この10年間と同じ期間、米ドル安が続くと考えてみます。2002年1月に112.71という高値をつけていますが、ここから約10年というと、まさに今、2011年秋から2012年の1月ぐらいということになります。
もう1つは安値から安値のサイクルです。
1978年10月の安値91.6から1995年5月の安値79.82までが16.5年。次の安値が16.5年で来ると考えると、これは2011年10月。まさに今と言っていいですね」
■これから米ドルのかなり持続的な上昇が起こる!
ドルインデックスに関して、宮田さんの口から「10年」「16.5年」という2つのサイクルが出てきた。そして、それが重なっているのがまさに今ごろというのだ。
「こういった日柄のとらえ方で重要なのは、関係ないところから出てきた複数の日柄が同じようなところに重なっている場合、それはエネルギーがたまっているポイントだということです。
それは単独で引っ張ってきた日柄よりも重要度が高い。そして、これだけ長い2つの周期が重なるところでつけた安値は、相当重要な安値になると言えるでしょう。
だから、米ドルは今まさに、メジャーボトムのタイミングにあると考えています。長期米ドル安局面は終わりつつあるか、もう終わったかもしれません」
宮田さんは長期米ドル安がもうすでに終わったかどうかハッキリ確認できる段階ではないというが、直近のドルインデックスが少し上がってきているのは確かだ。
「そして、ユーロはドルインデックスで約半分のウェイトを占めているわけですから、米ドル上昇の裏返しとして、ユーロが対米ドルで下落基調をたどる公算は高いと考えているわけです」(前回の記事「宮田直彦氏に聞く(1) 為替相場は歴史的な大転換点を迎えている!」参照)
■円の実質実効レートはきれいな左右対称形になっている
ドルインデックスに続き、今度は円の実効レートのチャートを見てみよう。これは主要通貨に対する円の総合力を表すもの。取り上げるのは、実効レートでも、各国の物価上昇率を加味した指標である実質実効レートだ。
以下の円の実質実効レートのチャートは、上に行くほど円高、下に行くほど円安になる。
これを見ると、1995年4月に151.11という非常に高い値をつけているのがわかる。これは米ドル/円が79.75円という歴史的円高水準をつけた時期だ。
そして…
「ちょっと冗談みたいな本当のことなんですが、この1995年4月を境に、このチャートではきれいな対称形ができています。
これは、ミラーチャートという言い方もするんですが、マーケットというのは、時として左右対称に動くことがあるんですね。これはその典型例ではないかと思うんです。
だとすると、今はどんな時期にあるかというと、1978年10月に109.94という高値をつけていますが、これを左側の山として、右側にそれに見合う山を今、作りつつあることになります。
日柄的に言うと、1978年10月と1995年4月が先ほどのドルインデックスでも出てきた16.5年という間隔。
そして、1995年4月の16.5年後というと2011年10月。まさに今ということになります。
もちろん、こういうサイクルはピタリ正確に当てはまるとは限らない。ある程度、大まかにとらえたほうがいいのですが、いずれにしても、2007年7月から続いた円高局面は終わりに近いか、あるいはすでに終わっているのだと思います」
■長期的な米ドル高・円安トレンドが来る!
下に再掲載した円の実質実効レートのチャートでは、ピンクのラインで宮田さんの今後の予想が掲載されている。それはこれからずいぶん長い期間、大きく下がっている。
ミラーチャートになるなら、確かにそのように今後は推移し、左右対称の“大きな山脈”が描かれることになりそうだ。
「円の実質実効レートチャートでは、少しずれもあるのですが、おおよそ12.5年ぐらいの周期で高値または安値をつけるサイクルも見られます。
前回のサイクルの終わりである2007年7月から約12.5年というと、2019~2020年ごろになります。だから、そのころまで円安が続くのだろうと考えています。
先ほど申し上げたようにドルインデックスは長期的なボトムをつけるタイミングを迎えています。そして、円の実質実効レートは、円高が終わるタイミングを迎えています。
そうなると、今後考えられるのは、『長期的な米ドル高・円安トレンド』ということになるでしょう」
■米ドル/円とよく似た米ドル/スイスフランのチャート
次第に話が米ドル/円相場に近づいてきたが、米ドル/円の“本丸”に突入する前に、もう1つ“外堀”を埋めておこう。
それは米ドル/スイスフランだ。
スイスフランは円と並ぶ「避難通貨」として知られる。世界経済が調子のいいときは売られ、世界経済が危機的状況になってくると一転買われやすくなる特徴がある。
では、そのスイスフランのチャートはどんな動きになってきたのだろうか? 同じ「避難通貨」である円の動きと似てきたのだろうか?
以下は1971年以降という長い期間について、米ドル/スイスフランと米ドル/円の2つのチャートを並べてみたものである。
米ドル/円 月足(クリック出拡大)
2つのチャートを見比べると、米ドル/円のほうがダイナミックな動きをしているものの、全体的な形としては割とよく似ているのがわかるのではないだろうか。
エリオット波動の強気相場は5波で構成されるが、米ドル/円も米ドル/スイスフランもI波、II波、III波、IV波、V波ができているのが見てとれる。
そして、ここ数年の米ドル/円も米ドル/スイスフランも、V波が進行中だったということだ。先ほど述べたとおり、V波というのは強気相場の最後の波(この場合でいえば、円の強気相場、スイスフランの強気相場の最後の波)。
最後の波だから、V波が終われば次は弱気相場(つまり、円安、スイスフラン安の相場)に移るはずである。
■介入がなくてもドル/スイスは底打ちのタイミングだった
そんななか、スイスフランについては、9月6日にスイス国立銀行(SNB、スイスの中央銀行)がユーロに対し、1ユーロ=1.20フランの最低為替レートを設定し、無制限のユーロ買い・スイスフラン売り介入を行うという“大事件”が起こった(「為替介入で大暴落したスイスフラン! 大損失を被った個人トレーダーも!?」参照)。
これにより、スイスフランの為替レートは、対ユーロだけでなく、対米ドルでも大きくスイスフラン安の方向へ動いたのである。
「米ドル/スイスフランはこの8月に0.7071フランまで下落していましたが、このあたりでマーケットは転機を迎えるのではないかというのが私の見方でした。
これは、スイス国立銀行の介入決定以前の話で、あくまでチャートからそのように判断したのです。
大事なのはタイミングと水準です。
まず、タイミングですが、先ほどからたびたび出てきている16.5年という周期が下のチャートのように、米ドル/スイスフランでも見られます。そして、そこから考えると、もうそろそろ底打ちというタイミングだったのです」
「もう1つ、水準についてですが、II波が終わった2.9245フランの高値から、III波が終わった1.1110フランの安値までが62%の下落です。これは先ほども出てきたフィボナッチの61.8%という数字とほぼ同じ。
下落率が次の機会にも同率で現れると考えるのは珍しくないことなのですが、IV波が終わった1.8299フランの高値から62%下がったところというと、0.695フランという計算になります。
これは8月につけた安値、0.7071フランに限りなく近いレベルなのです」
●参考記事「ヘッジファンド出身のスイス中銀総裁が宣戦布告! 日本の再介入はあるか?」
■為替相場は歴史的な大転換点を迎えている!
スイス国立銀行の介入後、米ドル/スイスフランは一気に上昇。一時、0.9フラン以上の高値をつけた。こうなると…
「米ドル/スイスフランは重要な転換点をすでに過ぎた可能性が高いと思います。ですから、ここからは中長期的に米ドル高・スイスフラン安になるでしょう。
これは先ほど述べたドルインデックスに対する見方とも一致します。
10年単位の長きに渡って、我々が当然視してきたトレンドが、ここに来てガラッと変わりつつあるということだと思います。
大げさかもしれませんが、為替相場は歴史的な大転換点を迎えているのです」
ともすると、今回のスイスフランの動きは、スイス国立銀行の介入によって作られた人為的な動きだから、例外的な動きとして扱ったほうがいいようにも感じられる。
しかし、介入発表は1つのキッカケであり、ここで上昇に転じたことは、チャートの大きな流れとして納得できると宮田さんは指摘するのだ。
「介入など突発的なものも含めたさまざまなニュース、自然災害などをすべて織り込んだものがチャートなのだと思います」
(「宮田直彦氏に聞く(3) 米ドル/円相場は『最終局面の最終局面の最終局面』にある」へつづく)
(取材・文/ザイFX!編集部・井口稔 撮影/和田佳久)
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