すなわち、ユーロ/円の100円割れ、英ポンド/円の110円割れというシナリオもあり得るということだ。
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■日本政府の防衛線が「西戦線」に延びる可能性も
逆に、米ドル/円がドルインデックスに追随してくるようなことがあれば、クロス円の底値は想定よりも浅くなるだろう。
ただ、デフレ構造の中にある日本の通貨である円は「不況に強い」だけに、「悪い米ドル高」の性格が強ければ強いほど、円高基調がなかなか後退しないことも予想される。外貨安を受け、受動的な円高になりやすいクロス円の見通しは楽観視できない。
この意味では、円高阻止に動く日本政府の防衛線が、米ドル/円からユーロ/円などの「西戦線」に延びる可能性は高く、状況は一層複雑化してくるだろう。
スイス政府とは異なり、日本政府の円高(自国通貨高)阻止の姿勢は、投機筋にとって脅威的でないことは明白である。これは、政府そのものの問題もあるが、日本はスイスのような「小国」ではないために「融通」が利かないという面が強い。
その根本的な問題については前回のコラムでも書いたので割愛させていただくが、当面のところは、「最後の円高」をガマンする以外に得策はないのかもしれない(「『悪い米ドル高』の一服も一時的なもの。米国の来るべき危機は『日本病』の伝染だ」を参照)。
■9月以降の米ドル高の根本原因は「ツイストオペ」にあり
もっとも、米ドル高の基調を定着させたのはユーロ圏の混乱だけではなく、FRB(米連邦準備制度理事会)の政策転換が大きな背景にある。
FRBは9月20日(火)~21日(水)に行われたFOMC(米連邦公開市場委員会)で「ツイストオペ」と呼ばれる政策を打ち出し、マーケットの流れをチェンジさせた。これは、保有する短期債を売却して長期債を買い入れる方法だ。
表面上、「ツイストオペ」でFRBは保有する国債の比率を変えるだけに過ぎず、FRBのバランスシートを拡大させるワケではない。「QE1(量的緩和策第1弾)」や「QE2(量的緩和策第2弾)」とは中身がかなり違う。
FRBが「紙幣を印刷」するわけではなく、前の2回の量的緩和のようにリスク選好度合いを高め、流動性を増大させたり、米ドルを調達通貨として他のものへ投資するといった行動を、マーケットに起こさせることはできなかった。
それどころが、短期債の売却は短期金利を押し上げることになる。これまでドル資金で投資していた投機活動(広い意味での「ドルキャリートレード」)は一転して手仕舞いを迫られ、ドル資金の流動性は急速に低下した。
また、この流動性の低下はインターバンクにおけるドル資金の需要を刺激し、ユーロ圏の銀行がドル資金の確保に走ることで、資金需要がさらにドルの流動性を低下させるといった悪循環を引き起こした。
これこそが、9月以降に急速に展開されてきた米ドル高の原因である。FRBの政策転換による短期金利の上昇は、長期金利の低下以上に市場心理に大きな影響を及ぼした。
(出所:米国FXCM)
■株安、米ドル高、円高、債券高の基調は続く
ゆえに、世界中の株式市場が急落し、商品相場も総崩れとなった。
究極のリスク回避先と言われる金や銀でさえ売られ、ドル資金を確保するためならば、すべてのものが換金売りの対象とされた。これこそが「悪い米ドル高」の正体であり、このような局面では、米ドルだけがリスク回避先となった。
米ドルがいずれ「紙くず」になるといった流れになったあたりでのFRBの政策転換は、マーケットの「常識」に強烈な一撃を与えた。
いつもそうであるが、マーケットというものは、猫も杓子も同じ「常識」を語り始めた際、何らかの形でその「常識」を砕く一撃を与えてきた。今回もしかりである。
要するに、為替市場の基調を見通すのにもっとも大事なのは、FRBの政策の継続性と転換の可能性を考えることだ。
「ツイストオペ」が実施されている現状では、米ドル高の基調は継続し、米ドル以外の外貨安の可能性も高まるだろう。
そして、株安、米ドル高、円高、債券高の基調は続くと考えている。
FRBの次の一手が明らかにされないうちは、リスク資産から手を引いたほうがよいだろう。
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