また、言うまでもなく、すでに「問題児」となっているスペイン、イタリア、アイルランド、ポルトガルといった「PIIGS」と呼ばれる国のさらなる格下げも必至となるだろう。
■フランスがトリプルAを失うと、EFSF自体も不安定になる
ここで注意すべきことは、「ヨーロッパのブタども」と揶揄される「PIIGS」の中にフランスが入っていないため、フランスの財政悪化や格下げという材料は相場に織り込まれていないことだ。
EUの中心的存在は独仏の両大国である。だからこそ、フランスまでソブリン危機が伝染すれば、EUにとっては、まさに「悪夢の始まり」となるだろう。
そして、フランスにとってより悩ましいことは、大国ゆえに背負う義務があり、それが自らの首を絞める可能性が高いということだ。
前述のように、ムーディーズはフランス国債の見通しを「ネガティブ」に見直す方向で調整しているようだが、皮肉にも、その最大の理由が「大国」としてフランスが責任を果たす場合の財政面の負担と不安だ。
銀行の資本増強にしても、EFSFの規模拡大にしても、現在検討されている「措置」はEUの構造的問題を解決できない上、新たな問題を引き起こしかねない。
要するに、このような「措置」はお金がかかる分、結局、国家レベルの負担が膨らみ、公的資金の支払いで国家自体の信用を傷つけることにもなるのだ。
さらに、フランスが抱えるジレンマはEU全体にも通じる。EFSFに拠出される資金は、トリプルAの国による保証に依存する側面が大きい。仮にフランスがトリプルAを失った場合、EFSF自体も不安定になる。
また、フランス国債が焦げつくようなことがあった場合、残りすべてをドイツが背負うことになるため、結局のところ、道連れとなる可能性がある。
ゆえに、独仏は「本気」になり、事態の沈静化に努力を惜しまないといったポーズを見せているが、その努力が自らの立場を悪くするリスクをはらんでいる。
■通貨「ユーロ」のベアトレンドは、まだまだこれから
したがって、独仏の合意しだいではマーケットが一時的でも楽観的なムードに戻り、米ドル売り・外貨買いとなる可能性もある。だが、その動きは総じて限定的なものとなるだろう。
ユーロ圏の混乱は、これから正念場を迎える可能性が高い。通貨「ユーロ」のベア(弱気)トレンドも、まだまだこれからである。
より最近の市況に関しても、10月21日(金)発表の独IFO指数が予想どおり、あるいは一段と悪化すれば、ECBが年内に0.5%は利下げするといった観測が広がり、ユーロが売られるだろう。
そして、自身が火の粉を浴びるリスクにさらされているからこそ、独仏は最終的に何らかの合意に達し、マーケットのリスク回避の流れを何とか緩和するといった展開になるだろう。
それでも、前述した理由から、結局は米ドル高の基調に復帰し、「悪い米ドル高」の流れが続くというシナリオを筆者は描いている。
■クロス円は底割れのリスクに注意!
他の通貨では、豪ドルサイドも豪中銀の理事会における議事録を読む限り、金融緩和の余地があるように見える。
EUのソブリン危機は世界的な景気後退につながるだけに、すでに「ハードランディング」の可能性がささやかれている中国でさえ逃れられないし、その中国経済への依存度が高い豪州は、いずれ利下げに動くだろう。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/円 日足)
そして円サイドに関しては、野田内閣が10月21日(金)に円高対策を打ち出したが、それがどれぐらい実効性があるかという点において不透明な上、今のタイミングで政府がヘタに動くと、円高のピークがさらに後ズレしてしまう懸念さえある。
このあたりの話はまた次回に譲るが、「最後の円高」とはいえ、ユーロ/円などのクロス円では、底割れのリスクが軽視できないことを記しておこう。
(2011年10月21日 13:00執筆)
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