■今回策定されたEU債務危機対応策の問題点は?
それでは、米ドル安の基調は定着するのだろうか?
この問いを解く最大のヒントは、FRBの次なる政策にある。しかし、現時点では「QE3」実施の有無を判断できるだけの材料は乏しく、また、米国で量的緩和が実施されるハードルは決して低くない。
そこで、「QE3」なしという前提条件で考えてみたい。
「QE3」なしという前提条件であれば、足元で進行しているユーロなどの外貨高は長くは続かないだろう。
確かに、大型オプションの防衛戦でユーロのショート筋が敗退したことで、しばらくはユーロ高が続き、ユーロをはじめとする外貨のさらなる上値余地は広がるだろう。
ただ、それでも、年内いっぱいまで続くようなトレンドではないと思う。
ユーロなどの外貨は早晩アタマ打ちとなり、大きく反落してくるだろう。切り返しが強ければ強いほど、その後の反動も強い。来年に向けて、外貨サイドは、かなりの安値レベルまでの下落を覚悟する必要があると思っている。
テクニカル分析はさて置き、ファンダメンタルズの材料として、このような判断を証左するものは、今回策定されたEU債務危機対応の包括案にある。
この包括案はおおむね、EFSF(欧州金融安定ファシリティー)の規模拡大、ギリシャ国債の50%のヘアカット(債務削減)、ユーロ圏内の銀行の自己資本比率を9%に増強することの3つが骨子となっている。
問題は、EFSFの規模拡大の手法だ。それは基金にレバレッジをかけ、1兆ユーロ規模まで膨らませるというものだが、この「レバレッジ」という言葉には、実に多くの問題が含まれている。
一言で言えば、レバレッジをかけることで問題の中身をごまかし、さらに、問題を何十倍にも拡大させる恐れがあるのだ。
米国のサブプライム問題の本質もそうだったが、レバレッジをかけるということは、現在のEFSFそのものを金融商品化させることを意味する。つまり、EUの「金欠」を隠すための愚策に過ぎない。
ゆえに、EUの問題が解決されるどころか、今後、壊滅的な結果が招く恐れさえある。
ユーロの将来はさらに危惧されるべきであるが、この問題について、詳説はまた次回に譲ろう。
■リーマン・ショック以上の経済危機は避けられない
ところで、この件だけでもわかるように、政治家や官僚は問題を先送りすることが実に得意である。彼らの「おかげ」で諸問題が膨らみ、どんどん悪い方向に行って、最後は収束不能となる。
その発端が2007年のサブプライム問題であれば、EUのソブリン問題はその通過点であり、決して終点ではないだろう。
日本のみならず、すでに衰退期に入った西側諸国はこのような「宿命」から抜け出せずにおり、やはり、世界的景気後退と2008年以上の経済危機は避けられないと考えている。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)
本来、政府の役割はかなり限られており、その役割に過大な期待をかけてはならない。
為替を例に挙げると、日本政府の「断固たる措置」に期待し、円高を阻止してもらおうといった期待こそが、円高の進行を招いている。
残念ながら、日本では官民ともにこのような認識が薄く、そもそも、そのような考え方は受け入れ難い雰囲気がある。だから、円高トレンドは長く続くだろう。
このあたりの詳説も、紙面の制限があるので次回ご説明したい。
株主:株式会社ダイヤモンド社(100%)
加入協会:一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)