しかし、危機が深まるなか、7月26日(木)のドラギ総裁発言以降、ECBのスタンス転換があるのではないかとマーケット関係者たちは意識し始めるようになった。
【参考記事】
●ドラギ総裁発言でユーロが激しく上昇! 平凡な発言内容になぜ激しく反応した?(7月27日、陳満咲杜)
ユーロの上昇はこういった市場センチメントの表れであろう。
■ECBの量的緩和期待はなぜユーロを押し上げるのか?
言い換えれば、以下の2点が非常に重要なポイントだ。
まず、「非不胎化」の国債買い入れはQE(量的緩和)そのものであることをマーケットは認識している。
次に、量的緩和に対する期待は少なくとも短中期スパンではユーロを押し下げるのではなく、押し上げることになる。
一見矛盾しているように聞こえるが、FRBの量的緩和期待が米ドルを押し下げることに対して、ECBの量的緩和期待はユーロを押し下げるのではなく逆に押し上げ、これは米ドルの下げにつながるから、結果はいっしょだ。
こういった矛盾を解くのは、やはり市場センチメントにあろう。株式市場のパフォーマンスとリンクして、結局、リスクオンに寄与する動きがあれば、ユーロ高・米ドル安となり、反面、リスクオフのムードが高ければ高いほど、ユーロ安・米ドル高が進むことになる。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 日足)
ECBが量的緩和を行えば、紙幣を刷ってばらまくといった意味合いでは本来、ユーロの価値は押し下げられるはずだ。
しかし、ECBが思い切って国債の買い入れを実施して、国債市場の安定に寄与すれば、EU(欧州連合)ソブリン危機の一服で、リスクオンのムードに転換しやすく、ユーロは上がりやすいという理屈になる。
実際、ドラギ総裁の発言後、スペインの2年物国債の利回りは大きく下がっている。短期国債利回りの低下をもって、長期国債利回りの上昇をけん制しようとするECBの思惑も浮上しており、実際、これは成功しそうな雰囲気だ。
したがって、少なくとも短中期スパンでは、ECBの量的緩和はユーロを押し下げるのではなく、逆に押し上げる原因となるから、量的緩和の影響を教科書どおりに解釈すると、ヤケドする恐れがある。注意が必要だろう。
ECBに対する前述の思惑が存在する以上、ユーロのリバウンドは続くのではないかと思う。
■薄商いだからこそ、ユーロクロスのリバウンドに注意!
ただし、夏場に入っている為替相場は総じて動意薄のため、足元のマーケットの動きのように、一進一退の状況が続くのではないかとみる。
とはいえ、薄商いだからこそ、以下の2点を注意しておきたい。
(1)いわゆるユーロキャリートレードで、ユーロが大きく売られたユーロクロス(ユーロと米ドル以外の通貨との通貨ペア)は場合によってはリバウンドして、上値を拡大させる可能性がある。このような動きは特にユーロ/豪ドル、ユーロ/NZドル、ユーロ/加ドルがメインになるだろう。
(2)ユーロクロスの上昇はユーロ/米ドルの上昇をもたらす。しかし、「夏の呪い」があれば、逆のケースになりかねないこと。
【参考記事】
●マーケットの大惨事は夏に発生しやすい。2012年は「夏場の呪い」があるのか?(7月20日、陳満咲杜)
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ VS 世界の通貨 日足)
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