■裁量トレードの達人・ロブ&ブラッドリーがなぜEA企画に?
「EA? ロブもボクも最初はまったく信用してなかった(笑)」
そう言って笑うのはブラッドリー・フリードさん。
全米最強のFXコーチであるロブ・ブッカーの教えを受けて開眼、日本にロブの教えを伝えるべく活動している「FXの伝道師」だ。
【参考記事】
●資産3億4000万円、ロブ・ブッカー氏の米国流トレード法“2トレ”ってどんな手法?
●ロブ・ブッカー流・米国式FX(1)相場の局面を判定する「アリゾナルール」
●ロブ・ブッカー流・米国式FX(2) 急落後、どこで止まるかわかる方法とは?
ロブ&ブラッドリーのやり方は基本、裁量トレード。「アリゾナルール」、「2トレンディ」、「NYボックス」など独創性あふれる手法の数々を使いこなしているから、EA(自動売買プログラム)なんて不要なのだ!
……ですよね?
「それが……半年前からEAを使ってるんです。ロブのやり方を見たイギリス人がEAを作った。勝手にね(笑)。それを送ってくれたから試してみようと。まだ小さな金額ですが、収益率は悪くないです。今のところ年5%ペースで資金が増えています」
やはり時代はEAなのか……!
【EAに関する参考記事】
●しろふくろうさんに聞くVPSの魅力(1) 自宅PCでシストレをやってはいけない理由
■トレード・ポートフォリオにEAを組込んで安定運用を目指す
「よくある『機械任せで儲けましょう!』は間違い。EAは人間の代わりにはならないからです。でも、トレードのツールとしては便利。いくつかの手法を使い分けることでリスク分散になりますが、資金の一部をEAにも振分けることで、より効果的な『トレード・ポートフォリオ』が組めるんです」
ひとつの手法や通貨ペアだけに頼っていると、相場次第で収益が不安定になりがちだが、しっかりと検証した上でなら、手法や通貨ペアを分散させることで安定した利益を出せる。
「卵はひとつのカゴに盛るな」のポートフォリオ理論だ。
これと同じで、裁量中心のトレード・ポートフォリオにEAを追加したのがブラッドリーさんの発想だ。
「まだ検証段階なのでEAの比率は資金全体の15%くらい。このままうまくいくようなら25%くらいをEAにしたいと思っています。EAの数も3つくらいが理想。今はまだ2つのEAで回しているだけなので」
「卵はひとつのカゴに盛るな」で、ひとつのカゴにすべての卵を入れておくとカゴを落としたとき、すべての卵が台なしに……。FXも同じで「今日通用したやり方が明日も通用する」保証はどこにもない。複数の手法、やり方を組合わせたり、「FXと株」、「FXと不動産」など資金を分散しながら投資している人は多いはず。ブラッドリーさんは手法を分散するとともに、「裁量+EA」のポートフォリオを構築しようとしている。
試験段階と言いながらも、2つもEAを回しているとはなかなかのやり手っぷり。
確かにEAを中心に運用している人は、1つのEAだけに頼らず、複数のEAを組合わせている人がほとんどだ。
EAにも好不調はあるので、複数のEAを組合わせれば、あるEAが不調のとき、別のEAがカバーしてくれたりして、ポートフォリオ全体としては安定した収益が見込めるようになるからだ。
では、ブラッドリーさんが回しているのは、どんなEAなのか。
「性格の違う2つのEA、『Wallabot』(ワラボット)と『Mouse Trap』(マウストラップ)です。EAを使うときの絶対条件は、ロジックが公開されていること。たまにどんな条件で売買するのか、売買ロジックがブラックボックスになっているEAがありますが、それは絶対やめたほうが良い。不安だから」
そこまで言うなら、教えてもらおう。ワラボットとマウストラップ、それぞれどんなロジックによるEAなのか。
■ダイバージェンスを利用した新手法・ワラビー
「ワラボットは『ワラビー』という手法に基づいたEAです。ワラビーはメタトレーダー(MT4)用にロブが開発したインディケーターの名前であり、ワラビーインディケーターを利用した手法の名前でもあります。
ワラビーをひと言でいえば、ストキャスティクスのダイバージェンスによるトレードです」
(出所:MetaQuotes Software社のメタトレーダー)
ダイバージェンスは中上級者が好むチャートシグナル。RSIやストキャスティクスなどのオシレーター系テクニカル指標で使われることが多い。
ダイバージェンスの見方はちょっとコツが必要。
上昇トレンド中なら、2つの高値に着目してみる。最初にできた高値Aと、その後にできた、より高い位置にある高値Bと、それぞれのRSIなり、ストキャスティクスなりを比べてみる。
下のチャートを見てほしい。相場は高値Aから高値Bへ上昇している。一方、RSIやストキャスティクスは高値Aの際の数値よりも、高値Bの際の数値の方が低くなっている。これがダイバージェンスだ。
(出所:MetaQuotes Software社のメタトレーダー)
ダイバージェンスは「逆行」ともいわれる。本来なら上昇トレンド中はオシレーターも上昇する。「価格が上向き、オシレーターは下向き」と方向が逆になるのは稀だが、その稀な現象がダイバージェンス。トレンド転換を示唆するシグナルとなる。
■「3つのストキャスティクスを平均化しちゃえ」の大胆発想!
「ワラビーは15分足で使うことが多いのですが、1つのストキャスティクスだけでダイバージェンスを判断するのはちょっとリスクが高い。ダマシの可能性もありますから。
だからより正確な1時間足や4時間足のストキャスティクスも含めて判断したいと思ったんです。そこでロブが考えたのが『15分足、1時間足、4時間足のストキャスティクスを平均化してみよう』という発想でした。そうやって生まれたのがワラビーインディケーターなんです」
一般的にテクニカル分析では、「短い時間軸では敏感だけどダマシが多い」、「長い時間軸だと反応は鈍いけど正確性は高い」という傾向がある。
だから上級者ほど、5分足のような短い足でトレードするときも、日足などの長い足も同時に見て判断したりする「マルチタイム」の発想を取り入れるのだが、ロブの場合は「短い足と長い足のストキャスティクスを平均しちゃえ」と考えたわけだ。
米国人らしい大胆さ……!
(出所:MetaQuotes Software社のメタトレーダー)
3つの時間軸のストキャスティクスを平均化するという大胆発想で生まれたのがワラビーインディケーター。ある時間軸と上位2つの時間軸のストキャスティクスを組合わせる。たとえば、15分足の場合は1時間足、4時間足のストキャスティクスと平均化する。5分足の場合なら15分足、1時間足と平均化する。また、1時間足の場合は、4時間足、日足と平均化する。
(出所:MetaQuotes Software社のメタトレーダー)
ワラビー(上のサブウィンドウ、赤線)とストキャスティクス(下のサブウィンドウ、水色線)を比べてみた。ストキャスティクスでは2つの高値の間でダイバージェンスが発生して下落を示唆しているが、ワラビーでは価格と同じ方向を向いている。この場合、通常のストキャスティクスで判断していたら売りで入って損切りしていたことになるが、ワラビーなら“ノーダイバ・ノートレード”だ。15分足のストキャスティクスだけで判断すると、このようにダイバージェンスが頻出して、ダマシも増えがちになる。
■ワラビーをEA化してダイバージェンスを見つけさせる
「高値でダイバージェンスが出たら売り、損切りは直近高値、利益確定は直近安値を目安にします。安値でダイバージェンスは反対に買いで、損切りは直近安値、利益確定は直近高値が目安です」
このワラビーはロブの最新手法にして、ブラッドリーさんの主力手法。裁量で行なっているのだが、これをEA化したのがワラボットなのだ。
「ワラボットも基本的には同じです。ボクのワラボットはユーロ/米ドル、英ポンド/米ドル、それに米ドル/円で回しています。それはバックテストの結果が良かったから」
でも同じ手法をEAと裁量の両方で回すのって、なんだか意味がなさそう……。
「ワラボットのほうはダイバージェンスを純粋な計算で見つけてくれる。だから、人間の目で探すと見落としてしまうようなダイバージェンスでも取引してくれるんです。それに、もちろんボクが寝ている間もダイバージェンスを探してくれる」
EAはすべてを数式で表す必要がある。「直近高値」といっても、EAだったら「過去●本以内でもっとも高いレート」と示してやらないといけなかったり。だから同じ手法でも裁量トレードとは微妙に違いが出てくる。
■EAより裁量トレードのほうが成績は良い
「ロブも最初はEAには大反対だった。でも、ワラボットの作者から送られてきたEAを使ってみたら『なんだコレは?!』って使うようになった(笑)。でも、EAは万能じゃない。
ワラビーも自分の目で見てやれば勝率は5割以上になるけど、ワラボットだと5割くらい。それでも利益が出るのは、リスク/リターンがおおよそ『利益:損失=2:1』以上になるように設定しているから」
EAに興味がありながらも、ロブのように抵抗感があって手をつけないでいる人も多いはず。
でも、やってみると意外な発見があるのかも。裁量派ならではのEA論、もっと聞いてみたいが、でもスペースがなくなってきたので、詳しくは次回で!
(「EAとVPSを使いこなすコツを伝授! 勝率15%でも十分儲かるEAのヒミツとは?」へつづく)
(取材・文/ミドルマン・高城泰 撮影/和田佳久)
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