■アベノミクス効果で再注目の「ミセス・ワタナベ」
2012年末からはじまったアベノミクス景気。安倍首相率いる新政権発足以降、デフレ脱却のための大胆な金融緩和政策が打ち出され、日経平均は急上昇! 為替においても、急激な円安が進みました。
(出所:株マップ.com)
2013年5月9日(木)NY時間、大台目前でモジモジ足踏みをしていた米ドル/円は、ついに100円の大台を突破! 久しぶりのアゲアゲ相場で、マーケットは大いに沸いています。
(出所:米国FXCM)
連日、アベノミクスやそれに関連する情報があふれていますが、今回当コーナーで注目したいのは、「ミセス・ワタナベ」(あるいは「キモノ・トレーダー」)という「日本のFX個人投資家」を指す言葉。
過去にも注目を集めたことがある「ミセス・ワタナベ」ですが、昨今の急激な円安で再び注目され、国内外の大手経済紙等で特集記事が組まれるなど、この言葉を目にする機会が多くなっています。
「ミセス・ワタナベ」…FXに携わっていれば、よく聞く言葉ではありますが、みなさんはその起源をご存知ですか?
少し考えてみると、「なぜワタナベなんだろう?」とか、「なぜミスターではなく、ミセスなんだろう?」とか、ちょっとした疑問がフツフツとわいてきます。
今回当コーナーでは、この「ミセス・ワタナベ」がいつ頃、どこで誕生した言葉なのか? また、どうして日本のFX個人投資家が「ミセス・ワタナベ」と呼ばれるようになったのか? などその起源に迫ってみたいと思います。
記事後半では、ロンドン在住の元インターバンクディーラー・松崎美子さんへのインタビューなども交えつつお送りしますよ♪
■「ミセス・ワタナベ」が有名になったのはいつ頃?
「ミセス・ワタナベ」は、2005年~2007年あたりから広く知られるようになった言葉です。FX暦5、6年以上というキャリアをお持ちの方は聞き覚えのある方も多いはず。
当時は、低金利の日本円を売り、高金利の外貨を買う「円キャリートレード」の全盛期。スワップを狙った中長期トレーダーを中心に、日本国内でもFX人気に火がついた頃ですね。
(出所:米国FXCM)
「ミセス・ワタナベ」というからには、女性トレーダーを指す言葉か? と思いきやそうではなく、先ほど紹介したとおり、男女問わず「日本のFX個人投資家」を指す言葉として使われることが多いようです。
ちなみに、記者自身、日本のFX個人投資家を指す言葉として、「ミスター・ワタナベ」というのは、聞いたことがありません…。
■〇億円脱税主婦は「ワタナベ」さんではない
そういえば過去に、FXで数億円の利益を上げ、○億円脱税した主婦トレーダーが話題になりましたが、この方の姓は「ワタナベ」ではなく、「イケベ」です。
2009年には、他数名の日本の個人投資家とともに、英FT誌のインタビューにも答え、同誌の表紙を飾りました。国内でも話題になりましたが、英国でもかなり注目されたようですね。
実はザイFX!でも、以前イケベさんへ取材をしたことがありますよ。興味のある方は、ぜひ以下の記事をチェックしてみてください。
【参考記事】
●FXで8億円稼いだ主婦…池辺雪子さんのトレード手法(1)~合計利益は4億円ではなく、8億円!!~
●FXで8億円稼いだ主婦…池辺雪子さんのトレード手法(2)~9.11の時もあわてず、買い向かった~
そんなイケベさんを一部メディアでは、「ミセス・ワタナベ」の代表格というイメージで紹介しているケースもあるようですが…やっぱり、イケベさんは、イケベさん。「ワタナベ」さんではありません。
「ミセス・ワタナベ」っていったいどこで生まれた言葉なのでしょうか?
■「ミセス・ワタナベ」は1990年代半ばから英国で存在!
あれこれ調べてみたところ、なんと「ミセス・ワタナベ」という言葉は、FX人気に火がついた2000年代半ばから遡ること約10年、1990年代半ばから英国で存在していたことがわかりました!
以下は、英国エコノミスト誌の1997年ごろのバックナンバー。「ミセス・ワタナベ」とエコノミスト誌公式サイトで検索し、ヒットしたなかで、もっとも古い年代の記事です。
タイトルは、「Mrs Watanabe, mind your fingers」。ばっちり「ミセス・ワタナベ」の文字が躍っています。ただし、記事の中身は、FXに関することではなく、日本の個人投資家のサムライ債(※)などへの投資に関する話題。
(※執筆者注:海外の政府や企業などが発行体となって、日本の投資家向けに、日本国内で円建てで発行する債券のこと)
どうやら、「ミセス・ワタナベ」は、もともと日本のFX個人投資家を指す言葉として使われていたワケではなく、どちらかというと、ざっくりと日本の個人投資家全体を指す言葉として使われていた模様。
日本では、1998年の外為法改正によって、はじめて個人投資家にFXが解禁されましたので、時代背景からしても英エコノミスト誌の記事が出た1997年当時の「ミセス・ワタナベ」は、FXの個人投資家に特定して使われた言葉ではないと言えます。
ここまで調べた結果、はっきりとは言い切れませんが、日本で広く知られる以前に使われていることからして、「ミセス・ワタナベ」という言葉が生まれたのは「90年代半ばの英国なのではないか?」との仮説が立ちました。
では、実際に英国で「ミセス・ワタナベ」という言葉が本当に使われているのか? 現地の生(ナマ)情報を仕入れたい!
■ロンドン在住の元ディーラー・松崎美子さんに聞いてみた
ということで、以前ザイFX!の「元ミス慶応 葉那子が本気で挑むFX道!」でもご協力いただいたロンドン在住の元ディーラー・松崎美子さんへ、インタビューを行いました。
【参考記事】
●ロンドン在住トレーダー・松崎美子さん(1) 元ディーラーの意外すぎる情報源とは!?
1980年代~2000年初頭にかけて日本と英国、両国でインターバンク・ディーラーとしてバリバリ仕事をされた経験がある松崎さん。きっと、コアな情報をお持ちのはず!
ここからは、松崎さんへの取材で得た情報を交えつつ、「ミセス・ワタナベ」について、深堀りしていきたいと思います。
(「ミセス・ワタナベ」のルーツを探れ(2)なぜ佐藤、鈴木ではなくワタナベなのか? へつづく)
(ザイFX!編集部・向井友代)
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