■米デフォルト回避で、「事実で売る」が実行された
米両党の攻防は、共和党の敗退をもっていったん幕を閉じた。米両院の合意によって、16日間にわたり閉鎖された米政府は再開され、政府支払いと債務上限問題の期限はそれぞれ2014年1月15日(水)、2月7日(金)に延ばされた。
文字どおり、ギリギリまで攻防と交渉が続いていた今回の騒動は取りあえず収まり、米史上初のデフォルトという最悪の事態は回避された。胸をなで下ろしている市場関係者も多いと思われるが、マーケットの反応はそれとはまったく違っていることがわかる。
言ってみれば、前回のコラムで指摘したとおり、ウォール街の面々は、そもそも政治家のパフォーマンスにだまされず、米デフォルトの発生を、本気にしていなかった。だから、政府が閉鎖されているなか、あえて米ドルを拾い、予想どおり両院の合意がリリースされた突端、手仕舞いの米ドル売りを仕掛けていた。
【参考記事】
●米ドル全体のリバウンド開始! もしも、米国がデフォルトしても米ドル高になる?(2013年10月11日、陳満咲杜)
「うわさで買い、事実で売る」というマーケットのジンクスが、そのまま実行されたわけだ。
(出所:米国FXCM)
(出所:米国FXCM)
こういった視点やロジックをもって相場に臨めば、昨日(10月17日)の米ドル全体の急落に大したショックを感じずにいられるだろう。
もっとも、金融マーケットに携わる期間が長ければ長いほど、すべての「サプライズ」に驚かされずにすむだろう。何しろ、マーケットは常に「サプライズ」を織り込んできたのだから、それを悟り、また慣れてくるものだ。
したがって、米ドル売り全般は、予想された事態の出現による反動の側面が大きい。
■問題自体は未解決、景気への打撃も懸念される
一方、安値更新しているドルインデックスの値動きから考えると、これだけではすまないところもある。
それは他でもない、以下の2点に集約されるだろう。
まず、今回の合意は問題の先送りにすぎず、来年(2014年)また同じ闘争や混乱が予想される。今回敗退した共和党が、来年もおとなしく退くかどうかはまったく未知数であり、オバマ大統領の譲歩も想定しがたい。
米債務の上限自体がなくならない限り、同問題は繰り返し政治闘争の道具に使われるだろう。国際社会における米国の地位や基軸通貨国の威信は、著しく毀損される恐れがある。
次に、S&P(スタンダード&プアーズ)の統計による、今回の政府閉鎖の経済損失は最大でGDP(国内総生産)の0.6%にも達し、総額240億ドルが失われたという。
景気への打撃は、雇用環境のみでなく、消費者心理を委縮させる側面も大きいから、これから出る経済指標がよほど強くない限り、米QE(量的緩和策)縮小の実施は一段と遅れる公算が大きい。
場合によっては一段と景気が後退することもあり得るから、FRB(米連邦準備制度理事会)による緩和政策は、縮小するどころではなくなる。マーケットにはこういった懸念がくすぶっている。
こういった不確実性や懸念から、米ドル全般が再び売られたのも当然の成り行きだと受け止められ、目先下値模索を余儀なくされるだろう。
米ドル全般の底打ちの有無は、来週火曜日(10月22日)にリリースされる米9月雇用統計の内容次第といった見方が多いのも納得できる。
もっともドルインデックスは、下のチャートに…
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