■円安トレンド加速! 英ポンド/円は2009年の高値更新
円安トレンドが加速している。米ドル/円の101円台乗せのほか、英ポンド/円、ユーロ/円の高値更新が目立つ。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート: 世界の通貨vs円 1時間足)
特に英ポンド/円は2009年高値を更新し、164円の節目を直接打診したので、このコラムで指摘してきた中期ターゲットは、短期ターゲットとしても物足りない感じだ。
【参考記事】
●ドル安は陰の極まり。ドル/円は96.56円を下回らない限り、三角保ち合い上放れか(2013年10月25日、陳満咲杜)
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:英ポンド/円 月足)
相場というものの魔力は実にそこにある。市況を分析し、テクニカルポイントを押さえ、ターゲットを算出しても、中長期スパンにおけるターゲットは往々にして「欲張りすぎ」ではないかと疑われ、利益を伸ばしていくのが至難の業となる。
かと思うと、いったんターゲットが達成された後、相場は往々にしてそのターゲットを超え、さらに進行していくのだ。よって、たとえ利食いして、十分なリターンを得られていたとしても、進行中のレートと見比べて、「ポジションを決済せず、まだ持っていたら…」といった皮算用を始めてしまうものである。トレーダーはなかなか満足感を得られないものなのだ。
■「円安相場に乗る」かどうかは慎重に検討すべき時期に
ところで、こういった「勝者の悩み」は、敗者からみればぜいたくの極みであり、また敗者の数と比例した大相場が進んできた結果である。言ってみれば、円安トレンドの進行は想定の範囲内ではあるが、英ポンド/円の急伸に代表されるように、急激な円安の進行はショート筋の踏み上げによる側面も大きい。
しかし、足元ではそういった段階を過ぎたところに来ており、やや「スピード違反」の疑いが持たれているのではないかと思う。
したがって、前回筆者が強調していた「思い切って円安相場に乗る」といったスタンスがこれからも通用するかどうかは、慎重に検討すべき時期に来たとみる。
【参考記事】
●市場の楽観ムードは行きすぎ感もあるが、それでも思い切って円安相場に乗るべき!(2013年11月15日、陳満咲杜)
■円売りポジションは積み上げすぎ? 振り落としの可能性も
もっとも大きな懸念材料は、何と言っても円売りポジションの積み上げが、また偏ってきているところだ。
CFTC(米商品先物取引委員会)の11月12日(火)時点の統計では、円の売り越しが合計9.5万枚にも達しており、年初来の最大記録であった9.9万枚に迫っていた。
円安トレンドはそこからさらに進行してきたので、ポジションの積み上げはさらに拡大していることが容易に推測される。円売りポジションはすでに年初来最大規模になっているのではないかと思われるのだ。
(詳しくはこちら →経済指標/金利:シカゴIMM通貨先物ポジションの推移)
筆者が繰り返し指摘してきたように、為替市場とはゼロサムゲームだから、基本的に大相場は、いわゆる「負け組」の存在なしには継続できないもの。
ポジションが一辺倒になればなるほど、上昇モメンタムの低下につながるから、いったん利益確定の動きが始まれば、逆回転でトレンドが展開していく場合が多い。
現時点では、円安トレンドから円高トレンドへ転換するには時期尚早だが、ポジションの偏りで近々いったんスピード調整し、いわゆる「振り落とし」が起こる可能性が十分あるので、注意しておきたい。
■欧州と米国の政策の相違はますます拡大していくだろう
こういった観測は、市場センチメントの変化からも測れる。日本でも、先々週(11月4日~)あたりだと、円安トレンドの進行に疑心暗鬼な見方が多く、米金融政策云々、リスクオンの限界云々で株高・円安に限界ありといった解釈が主流のようにみえた。
しかし、「11月はトレンド転換しやすい」から、現在は「11月はまだまだいける」へと激変しているように聞こえる。筆者は、こういった大方の見方が修正されること自体が1つのシグナルと考えているので、やはり要注意である。
ファンダメンタルズでは、各中央銀行のスタンスがマーケットを左右する要素としてもっとも注目される。状況は流動的で、最終決定までまだ道のりが長いが、筆者は欧州と米国の政策の相違はますます拡大していくとみる。したがって、やはり、ユーロのブチバブルはすでに終焉していたという見方を堅持できると思う。
ECB(欧州中央銀行)は、インフレターゲットの未達成リスクを念頭に、中銀預金金利をマイナスとすることに言及している。実現するにはドイツの同意が必要であり、ハードルが高いが、いずれにしても、想定できる期間内において、ECBの緩和姿勢は変わらないとは言えるだろう。
その上、マイナス金利の実施は、真剣に検討されている模様で、状況の悪化があれば、ECB議長得意の「ドラギ・ショック」をもって、荒療治の実施も十分想定されるから、ユーロの先行きには強気になれない。
対照的に、FRB(米連邦準備制度理事会)の方は最近、また早期QE(量的緩和)縮小の可能性がささやかれている。
今週(11月18日~)公開した前回FOMC(米連邦公開市場委員会)議事録の基調といい、雇用環境を示唆する統計といい、どちらかというと、前回イエレン女史が言ったほど緩和環境の長期化にならない感触が強くなり、市場関係者は年内のQE縮小もあり得るとの見方に傾いている模様。
現時点では推測あるいは憶測の段階にすぎないが、いつかは欧州との差は広がっていくという認識自体は間違っていないと思う。ゆえに、ユーロ安の進行、まだまだこれからではないかとみる。
■豪州と日本は「口先介入」が効いている
そして、口先介入が強まっているのが豪州と日本だ。
黒田日銀総裁の成功を見習っているのだろうか、最近、豪州中央銀行の議事録や中銀幹部の発言が、やたら強い口調で豪ドル高を牽制している。
あまりにも「不快なほど高い豪ドル」と散々言ってきたので、市場参加者はそのしつこさにうんざりして、不快感を覚えているところだろうが、今のところ、その発言には効果があるようにみえる。実際、クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)のうち、豪ドル/円の不振が目立つ。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート: 世界の通貨vs円 4時間足)
最後に円サイドだが、黒田さんの口先介入は、昨日(11月21日)もまたあった。いろいろ言っているうちに円安トレンドが加速してきたので、氏のやり方に感心しているところだ。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 1時間足)
ただし、黒田さんが強調している「2年以内に2%」というインフレターゲットを達成するのは容易ではなく、2014年の消費税アップで景気腰折れも予想される中、黒田さんが主導する日銀は、何らかの手を打たないといけないという市場の観測は根強い。
こういった市場心理が存在する限り、円安トレンドはまだ続く可能性があり、トレンド転換を云々することは、少なくとも目下の状況ではまだ杞憂ではないか。
ただし、スピード調整があっても不思議ではないので、円売りポジションの利益確定をした者は、ひと休みするところだ。市況はいかに。
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