■円安推進の張本人から衝撃の円安否定発言が出て…
ユーロ以外の主要通貨では、円の急上昇がもっとも目立ち、もっともサプライズだった。何しろ、円安を大きく推進したあの張本人が「さらなる円安はありそうにない」と言ったのだ!
市場関係者が驚き、一斉に米ドルロングポジションを手仕舞ったのも当然のなりゆきだ。
(出所:米国FXCM)
「実質実効レートで見て、かなり円安になっているのは事実」
「実質実効レートがさらに円安になるのは、普通に考えればありそうにない」
「これまで円安が経済にプラスだったから、さらなる円安でさらにプラスということではない」
「量的緩和政策が、永遠に続くわけにはいかない」
と、6月10日(水)に発言したのは黒田日銀総裁だ。どの発言も常識の範囲内にある正論だったが、黒田さんの口から出てくるとは到底想定できなかったと市場関係者は口を揃える。
なぜなら、異次元量的緩和策を推進してきた為政者の日銀総裁が、自ら掲げてきた2%のインフレターゲットがまだ達成していないうちに、たとえ常識の範囲の発言であったとしても、「政策変更もしくは政策放棄ともとらえられてマーケットに誤解を与えかねない発言は、口が裂けてもするはずがない」と思われていたからだ。
こういったスタンスの重要性は、実は黒田さん本人が強調していたほどなのに…。
■ピーターパンが「飛び過ぎた、疲れた」と言ってるようなもの
先週、6月4日(木)に行われた日銀金融研究所主催の2015国際コンファランスの開会あいさつにおいて、黒田総裁は、ピーターパンの物語から「飛べるかどうか疑った瞬間に永遠に飛べなくなってしまう」という言葉を引用し、「大切なことは、前向きな姿勢と確信」だと述べた。
それにもかかわらず、あっという間に、まさか「飛べるかどうかを疑う」発言をしたのだから、これは正真正銘の君子豹変と言えよう。
「飛べるかどうか疑った瞬間に永遠に飛べなくなってしまう」と言っていた黒田総裁の、まさかの「飛べるかどうかを疑う」発言に、市場は驚愕した。写真は、2015年4月30日に行われた日銀金融政策決定会合後の記者会見時のもの(C)Kiyoshi Ota/Bloomberg via Getty Images
言い換えれば、黒田さんの発言が正論かどうかは問題ではなく、本来不退転のスタンスで臨むべきインフレターゲットがまだ達成できていないうちに、政策策定者自身が量的緩和策の副作用を心配し始めた途端、市場関係者の量的緩和策自体に対する信頼が損なわれたということになる。
飛べるかどうか疑った瞬間に永遠に飛べなくなってしまうと悟ったピーターパン自身が「飛び過ぎた、疲れた」と言っているような発言で、実に摩訶不思議だ。
■短期的には米ドル/円は再度高値更新の余地あり!
真意がいまいち伝わらない中、失言説と陰謀説もあった。
ある陰謀説によると、これは来週(6月15日~)にでも、QE3(量的緩和策第3弾)を打ち出すための「陽動作戦」だったという。サプライズ演出に腐心してきた総裁からすれば、まったくないとは言えないが、これは現実性が低いだろう。
もっとも一般的な見方としては、コントロールできるうちに円安牽制をしておいて、コントロール不可能な円安を回避したい、といったところではないだろうか。これが本当であれば、あまりにも大きな代償を払った苦肉の策と言え、感心できない。
いずれにせよ、2%の目標が当面達成できない公算が大きい目下の状況では、黒田さんの発言が円安トレンドに大きな影を落とし、前回のコラムで指摘した円安限界論の現実味が一層増したと思う。
【参考記事】
●ドル/円は126~127円への上昇も。しかし、一気の130円超えは難しいとみる理由とは?(2015年6月5日、陳満咲杜)
ただし、短期スパンに限っては米ドル/円はすでに頭打ちになったとも思わず、再度高値更新の余地ありとみている。
(出所:米国FXCM)
また、ドルインデックスの反落は、あくまでスピード調整と見なし、米利上げが規定路線である以上、早晩ブル(上昇)トレンドへ復帰すると思う。
(出所:米国FXCM)
このあたりの話は、また次回。
(PM2:30執筆)
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