■アベクロ円安は過去の円安局面と比べて大したことがない
日本ほど自国通貨安を渇望している国はない。しかし、皮肉なのが、1970年代から2011年までの長期相場を見る限り、いわゆる本格的な円安相場の時代はなかったと言える。
(出所:CQG)
換言すれば、円安の時期があっても、その前の円高の時期や値幅に比べると調整的な変動に留まっていたから、結局は一貫して雄大な円高トレンドが継続されてきたと言える。
2011年10月末からまた円安の時期に入り、アベクロ(アベノミクスと日銀の異次元量的緩和)があって、2015年6月には126円の大台手前まで米ドル高・円安がもたらされたが、長期スパンにおける位置づけはなお不透明である。
何しろ、2011年の米ドルの最安値から見た上昇幅は確かに大きかったものの、過去の米ドル高・円安の時期における値幅と比べれば、それは必ずしも大きいとは言えない。その上、何より指摘しておきたいのは、いわゆるアベクロ政策が円売りに大きく作用していたことだ。
換言すれば、異次元緩和といった、前人未踏の領域に踏み込んだ日銀政策(アベノミクスは事実上金融政策のみ効果があったので、日銀政策のみを論じても問題ないかと思う)が効いたからこそ、2015年夏まで米ドル高・円安が大きく推進したわけだが、政策が大規模であった割りには2015年高値までの米ドル高・円安はそれほどのものでなく、自慢できるほどの成果ではなかったと言える。
(出所:CQG)
■現在のドル/円の値動きはアベクロの失敗を宣言するもの
ましてや、現在は米ドル/円レートが逆戻りし、日銀が今年(2016年)1月末に打ち出したマイナス金利政策ばかりか、2014年10月末に打ち出した追加緩和の「成績」をも帳消しになってしまった。これはアベクロがついに市場の審判を受け、正式に失敗したと宣言されたようなものだ。
ゆえに、円高時代がもう終わり、これからは本格的な円安時代に入っていくと自信をもって言えなくなるだろう。何を隠そう、筆者もその1人だ。2011年以降、円安時代に突入したのでは…と考えていたが、現在は動揺し、もしかしたら円高の流れがまだ続くのでは…と思うようになっている。
マーケット自体の内部構造以外に、ファンダメンタルズ上の理由があるとしたら、何よりもアベクロの失敗や終焉が挙げられる。
ここまで日銀がこんなに「努力」してきたにもかかわらず、インフレターゲットの達成は一向に現実味が増してこなかった。したがって、これからいくら「努力」しても効かないし、場合によっては今年(2016年)1月末のマイナス金利付きQQE(量的・質的緩和策)導入時のように、政策の逆噴射を招くリスクが大きい。
そもそも、日本は高齢化が進んでおり、マイナス金利政策にふさわしい土壌がないと言える。マイナス金利の拡大や維持があればあるほど、これからもメリットはなく、デメリットばかりを招くだろう。
日銀の完全なる敗北、そして、黒田さんの「引責」もそう遠くないのでは…と思うほど、マーケットはアベクロの終わりの始まりを示唆していると思う。
したがって、現在の米ドル/円の値動きは、投機筋云々のミクロ的な視点ではなく、アベクロの失敗を宣言するものととらえれば、一段とわかりやすく、また、納得できるだろう。
この意味では、相場の逆戻り、すなわち、円高・株安はなお途上で、中国を始め、世界金融市場が不安定になれば、米ドル/円は今年(2016年)中に、100円の心理的大台割れもあり得る。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 週足)
この場合、経済のみでなく、政局の変化にもつながっていくと思われるから、2016年は波乱の年だと再度強調しておきたい。
■105~106円達成はいったん後ずれの可能性も
最後に、筆者は前回までのコラムで、桜が咲くころ、米ドル/円の105~106円という目標達成を予測していたが、現在、桜はすでに散り始めているから、同ターゲットには近づいたものの、まだ達成されていない以上、いったん後ずれの可能性があることを記しておきたい。
【参考記事】
●米株上昇と金&円上昇、ニセモノはどっち? 桜満開のころ、ドル/円は105~106円へ!(2016年3月18日、陳満咲杜)
●桜は咲いたが、米ドル/円はまだ112円台。そのこと自体がエイプリルフールだ(2016年4月1日、陳満咲杜)
要するに、達成されるなら早く、そうでなければ達成のタイミングがやや遅れる、ということである。詳細はまた次回に。
(AM11:15執筆)
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