米ドル/円は「トランプ関税差し止命令」で一時146円台まで急騰も、控訴審で一時停止
西原宏一(以下、トレーダー西原) 叶内文子(以下、MC叶内) みなさん、こんにちは。
トレーダー西原 4月2日(水)の「解放の日(※)」以降、為替相場は毎週、サプライズのヘッドラインが飛び出して、米ドル/円中心に乱高下が続いています。
(※編集部注:「解放の日」とは、トランプ大統領が各国・地域に課す相互関税を公表した4月2日(水)のこと。トランプ大統領はこの日を「解放の日」と表現した)
先週(5月26日~)も「トランプ関税差し止め命令」という予期せぬ報道が飛び出し、米ドル/円は一時146円台まで急騰しています。
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⇒米ドル安の流れは変わらず! トランプ関税差し止め命令に株高、米ドル高で反応したが、関税収入が想定できなければ、市場注目の米債務問題がくすぶり、米ドル売り要因に(5月29日、西原宏一)

(出所:TradingView)
個人的にはなんとかポジションをうまく管理していますが、一歩判断を間違えるとけっこうな痛手を被りそうなマーケットです。
それではまず、株の振り返りからお願いします。
MC叶内 米財政懸念は根強く、関税をめぐっては引き続き神経質な展開でしたが、5月28日(水)発表の半導体大手エヌビディアの決算はAI投資の拡大が続くことを感じさせ、株式市場には好感されました。
S&P500は前週末比1.88%高と2週ぶりの反発でした。NYダウは+1.6%、ナスダック総合指数は+2.01%とともに2週ぶり反発です。
金利市場は、5月28日(水)の日本の40年債入札がおそろしく不調でしたが、前日に超長期債の発行減額期待が高まっていたため、なんとか通過。米30年債利回りも週初の5%超から4.92%台まで低下しました。4月PCE物価指数がインフレの鎮静化を示したことも金利低下につながりました。
ベッセント財務長官が5月26日(月)、米国債取引を巡る銀行規制を今夏にも当局が緩和する可能性があると発言していますが、もし実現すれば米銀行が米国債を買いやすくなります。金利低下につながる材料で、続報に気を付けたいと思います。
関税に関しては米国際貿易裁判所から差し止め命令がありましたが、控訴審で一時停止されました。
EU(欧州連合)との交渉が行われているなか、この週末に米国が鉄鋼に対する関税を25%から50%に引き上げると発表、EUが対抗措置をとるとの一部報道が出ています。
中国に対してはトランプ大統領が、合意に中国が違反していると非難しましたが、その後習近平氏と会談するとしています。この手のニュースはもう消化しきれません。
日経平均は前週末比804円(2.2%)高の3万9765円、TOPIXも+2.41%で2週ぶりに反発しました。日経平均は一時3万8000円台を回復。エヌビディアの好決算を受けて半導体株が上昇し、指数を押し上げました。
バタバタしている感じですが、終わってみれば5月月間でNYダウは+3.94%、S&P500は+6.15%で4か月ぶりの上昇、ナスダック総合指数は+9.56%は続伸と、4月の安値からは大きく戻しています。ナスダック総合指数とS&P500は2023年11月以来の上昇率です。日本株も日経平均は+5.33%、TOPIXは+5.03%と 2ヶ月連続の上昇です。
為替市場はいかがでしたか。
米ドル/円は先週末に結局144.00円で引けて、上値が重いことを再認識させられた
トレーダー西原 為替市場にとって、一番ショックだったのはやはり、トランプ関税の「米国際貿易裁判所の差し止め命令」という報道。
マーケットはこの予期せぬ報道に、急速な米ドル買い戻しが見られました。
特に、短期筋の円ロングがかなり高水準である米ドル/円は一気に146円台まで急騰。日本勢の一部には、このトランプ関税差し止め命令により、相場は解放の日以前のマーケットに戻るとの意見も拡大しました。
ただ、欧米勢は冷静でした。この「トランプ関税差し止め命令」に関して、まずホワイトハウスが激しく反論します。
ホワイトハウスのクシュ・デサイ報道官は5月28日(水)、「緊急事態への対応方法を決めるのは、選挙で選ばれていない裁判官の役割ではない。政権はあらゆる執行権限を駆使してこの危機に対処し、米国の偉大さを取り戻す」としています。これは当然の反論です。
そして、マーケット勢のセンチメントを急速に落ち着かせたのは、ゴールドマン・サックスの報道です。
ゴールドマン・サックスの首席政治経済学者アレック・フィリップスが、これは「nothingburger(大した問題ではない)」とするレポートを発表しています。
彼のコメントでは、この判決はトランプ関税に「逆風」ではあるものの、トランプ大統領は控訴で勝利するだけでなく、最高裁の判断を待つ間、判決を回避する複数の選択肢を有しているため、大した問題ではないとしています。これでマーケットは沈静化しました。
そもそも、「トランプ関税差し止め命令」報道でなぜ米ドル買いになるのか、個人的には同意できませんでした。
というのも、この問題はトランプ政権が進めている「One、Big、Beautiful Bill」と銘打つ減税法案に影響を及ぼすからです。
現在上院が審議しているこの法案では、連邦政府の収入のひとつに「関税による収入」が想定されています。
つまり、「関税による収入」が想定できなければ、「One、Big、Beautifulな法案」の通過が難しくなります。
結果、先週からくすぶっている米債務問題の解決の道筋がはっきりしないことになり、これは米ドル高ではなく、米ドル売り要因となると連想したわけです。
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ともあれ、米ドル/円は先週のNY市場で結果的に、144.00円で引けています。一時「146.28円あたりまで急騰したのはなんだったのか?」といった相場展開で、米ドルの上値が重いことを再認識させられた展開です。

(出所:TradingView)
それでは、今週(6月2日~)のスケジュールと株の展望をお願いします。
MC叶内 今週は重要な指標が多いです。まず米国では、6月2日(月)に米サプライマネジメント協会(ISM)が発表する5月の製造業景況感指数、6月4日(水)発表の非製造業景況感指数。6月6日(金)発表の5月雇用統計に注目です。
6月3日(火)にベージュブック、6月4日(水)に5月のADP雇用報告、6月5日(木)に4月貿易収支もあります。
BOC(カナダ銀行[カナダの中央銀行])が6月4日(水)、ECB(欧州中央銀行)が6月5日(木)に政策金利を発表、中国で6月7日(土)に5月貿易収支が発表になります。
国内では6月2日(月)に1~3月期法人企業統計調査、6月6日(金)に4月家計調査、4月景気動向指数が発表されます。
6月3日(火)に植田日銀総裁が内外情勢調査会で講演、10年債入札、6月4日(水)に30年債入札があります。
6月5日(木)には任天堂が新型家庭用ゲーム機「スイッチ2」を発売します。
米決算はダラー・ゼネラル、ブロードコムなどが発表予定です。
今週の株式市場は関税政策に気を配る必要がまた出てきました。市場の反応は落ち着いてきていますので、急落の心配は減りましたが、目を離すわけにはいかないでしょう。
司法判断も関わってきたなか、高関税政策を続けるトランプ大統領の方針は変わらないようです。
日経平均は3万8000円超で戻り売り圧力が感じられました。リバランス影響などを除くと商いも少なめで、上値は重そうです。重要指標を見極めたいムードもありそうです。一方、中小型株の物色は盛んで、投資家のムードは悪くなさそうです。
為替市場はいかがですか。
ECBの政策金利を控えて欧州通貨のボラティリティが上がる可能性。債務問題で優勢なスイスフランに対して米ドルショート継続
トレーダー西原 今年(2025年)はファンダメンタルズよりも、政治がマーケットの鍵を握っている相場展開が多いのですが、今週は6月5日(木)にECBの金融政策発表を控えています。
政策金利は2.25%から2.00%へ引き下げられる予定。0.25%の利下げはコンセンサスなのでサプライズはありませんが、声明により、欧州通貨のボラティリティが上がる可能性があります。
このコラムでは、ゲームチェンジとなったユーロ/米ドルに対して強気のスタンスを維持していますが、ユーロ/米ドルは4月21日(月)に1.1573ドルの高値をつけて以降、1カ月半の間、調整に入っています。
今週のECB政策金利発表をきっかけに、ユーロ/米ドルは再び上昇トレンドに回帰する可能性があるため、今週は円絡みよりも欧州通貨が主役になるのかもしれません。

(出所:TradingView)
最近のマーケットでは、各国の債務問題も話題にあがっているため、この意味においてはスイスフランが優勢と考えています。米ドル/スイスフランの下落幅が拡大していると見て、ショート継続です。

(出所:TradingView)
米ドル/円は先週と変わらず、急落することはなく、丁寧な米ドル戻り売りスタンスを継続します。
トレーダー西原 MC叶内 それでは、今週も株と為替のトレーディングを楽しんでいきましょう。
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