■米ドル全面安、なお強い下落モメンタムを維持
米ドル全面安の市況が進行している。ドルインデックスは2月安値95.45割れを果たしてから急落、昨日(3月17日)、94.45まで安値をトライし、目先なお強い下落モメンタムを維持しているように見える。

(出所:CQG)
実際、95.45を割り込む前に、同指数がわずか11分足らずで1%安を記録し、米ドルロング筋の総撤退が示唆されていたから、足元の安値打診はその延長線上にあると思われる。
言うまでもないが、米ドルロング筋の総崩れは今回、FRB(米連邦準備制度理事会)声明文の基調がもたらした結果だ。
金利据え置きは市場の想定どおりだが、ハト派声明が市場にとってサプライズだった。
FRBは「経済指標次第」で追加利上げを実施、といった論調を繰り返していたが、今回の声明文を読む限り、「市場次第」の色合いが濃厚になり、スタンスの大転換と指摘するエコノミストが多い。
■今後の米国利上げのゆくえは「問題児」次第
米利上げの見通しは、「2016年中に4回の利上げ」といったメインシナリオが、足元、「2016年中に2回」と修正されているから、「市場次第」なら利上げ見送りもあり得る、といった疑心暗鬼が市場関係者にあってもおかしくなかろう。
何しろ、欧米株が反騰しているものの、この先どうなるかは定かでなく、また、あの「問題児」のパフォーマンス次第では世界金融相場が再び荒れるかもしれない。こういった懸念が払拭されない限り、米利上げの見通しは不良のままだ。
昨年(2015年)、世界金融市場の大荒れを作った「問題児」は、何と言っても中国人民元と中国株だっただろう。ゆえに、中国人民元と中国株の見通しが不透明なら、米FRB利上げの見通しも不透明だ。
市場次第という言い方は、つまるところ中国次第、ということである。
中国の問題は根深く、数年のスパンで解決できるなら上等だと思われる。だから、チャイナリスクが収まったという安易な考え方はやめたほうがよい。
したがって、米国が2016年年内に追加利上げできるかどうかは実に未知数で、市場のコンセンサスはこれからも揺れていくから、世界金融市場におけるボラティリティは、これからも高まっていくだろう。
■なぜ、今の株のリバウンドは「ニセモノ」なのか?
こういった懸念が共有されているせいか、マーケットの値動きに、従来のパターンをもって測れない特徴が出ている。米国株のリバウンドが順調に進んでいると見える一方、金と円が買われ、リスクオフ的な値動きにもみえている。

(出所:CQG)
金価格 日足

(出所:CQG)
米ドル/円 日足

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従来、米国株高はリスクオンムードの反映で、リスクオンなら金と円は売られるはずだが、米ドル全面安に流される形で、円と金が上昇していること自体がマーケットの不安を反映していると思う。
つまるところ、株のリバウンドは「ニセモノ」、円と金の強気変動は「ホンモノ」というマーケットの本音の表れではないだろうか。
換言すれば、
「株のリバウンドはあくまでスピード調整と見られ、これから株安のメイントレンドに早晩復帰するから、今すぐにでも円と金を買っておかないといけない」
こういった思惑が透けて見える。表は米ドル全面安、裏は安全志向、相場の表と裏を理解すれば、戸惑いも少なくなるだろう。
■日銀の介入はあり得ない、なぜなら…
ところで、円高の進行は米ドル全面安と相俟って、現在のところ、米ドル/円の下落のみが目立つ。昨日(3月17日)は一時、2月安値割れを果たし、110.66円の安値をもって2016年年初来の安値を更新した。
そんな中、当局による110円台大台防衛の思惑が浮上している。実際、昨日(3月17日)は安値から急速に切り返し、三十数分で112円の節目手前まで反騰したから、日銀が介入したのでは…といった憶測も流れた。

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その後のウワサでは、「日銀がレートをチェックしてきた」とか、「いや、レートチェックではなく、単に円高の理由を聞いてきた」とか、情報が錯綜しているが、日銀介入でなかったことは確かだ。
それはそうだ。今の段階、今のレベルで日銀が介入してくるわけがなく、日銀介入のうわさを信じる者はナンセンスだ。
なぜなら、日銀のたび重なる量的緩和、特に1月末のマイナス金利付きQQE(量的・質的緩和策)が、海外から実質的に為替対策(要するに円安政策)ではないかとずっと疑われてきただけに、安易な介入などできるはずがない。黒田日銀総裁は内外に渡って、「為替対策ではない」と数回弁明を繰り返してきたから、110円の大台割れがあっても身動きが取れない。
そもそもアベノミクスが打ち出されて以来、80円の大台以下だった米ドル/円は126円大台手前までほぼ一本調子の上昇を果たした。ここ数年の円安は、値幅にしてもスピードにしても激しいものだったから、110円の大台割れが目の前とはいえ、この程度の円高への反動が必ずしも過激とは言えない。

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先日のG20(20か国・地域首脳会合)の上海合意もあって、また、中国の人民元安志向を牽制したばかりだから、日本政府は今、行動ができないはずだ。
少々脱線した話ではあるが、米大統領選の影響もあるのではないだろうか。
■トランプ氏の躍進が日本の通貨政策にも影を落とす
一世を風靡しているあのトランプ氏は、まだ党の指名を正式に獲得していないものの、その呼び声は一番高いから、無視できない存在だ。彼は名指しで中国と日本は為替操作国だと非難しているから、今、日本が為替介入を行えば、まさに絶好の攻撃材料を与えることになる。それは何としても避けたい、というところであろう。
さらに、黒田さんの強気と裏腹に、日銀はすでに金融政策を出し尽くし、また、無理矢理な金融政策を押し進めても、市場に効かないことがマーケットのコンセンサスとして広がりつつあることも見逃せない。
■桜が満開になるころには105~106円を達成か
来年(2017年)4月の消費税増税まで、残された時間があまりないから、アベノミクスにしても、日銀のマイナス金利付き緩和政策にしても、失敗に終わる公算が高いとマーケットは冷静に結論を出し、ポスト・アベノミクスへの布石がすでに始まっていると思う。
だから、日銀介入やら、政府方針やらの「他力本願」的な発想をやめ、マーケットの値動きを直視しないといけない。110円の大台割れはこれから必至で、105~106円のメインターゲットは、早ければ桜が満開(もうすぐ)の頃にも達成できるのではないだろうか。

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市況はいかに。
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