■黒田総裁は議論を否定。“日高ショック”を連呼する人も
その後、同日15時30分からは黒田日銀総裁の記者会見が行われた。
その中でNHKの記者から出た質問のなかに「金融機関への貸出金利をマイナスにするという報道があったが、今回の会合でそれを検討したり、そのことについて委員から意見が出たりしたのか」というものが含まれていた。
これに対し、黒田総裁は「ご案内のとおり、ECB(欧州中央銀行)が最近3月に採用した緩和措置の中に含まれているものでありますけれども、今回、こういったことについて議論したということはありません」と、決定会合では議論していないとあっさり答えたのだった。
また、その後、ロイターの記者からも「マイナス金利での貸出については今回の会合で議論されなかったということだが、今後メリット、デメリットなどを踏まえて導入される可能性はないか」という質問が重ねて出た。
これに対し、黒田総裁は「マイナス金利での貸し出し云々ということにつきましては、先ほど申し上げたように、ECBが導入されたということはよく存じ上げておりますけれども、ECBにはECBの事情があるわけでありまして、現時点で私どもがそういうことを考えているということはありません。今回の会合でも議論になったことはありません」と答えた。
黒田総裁は今回の会合で議論があったことを重ねて否定するとともに、現時点でそのようなことを日銀が考えていることはないと発言したのである。

4月28日(木)、記者会見で記者たちと対峙する黒田日銀総裁。今回の金融政策決定会合でマイナス金利での貸し出しは議論していない、と記者の質問に答えた。 写真:AFP=時事
ブルームバーグ・日高正裕記者の記事では、貸出金利をマイナスにすることを日銀が検討しているかのように書かれていたが、黒田総裁は一見、そうではないかのように発言した。
日高記者の記事と黒田総裁の発言は矛盾しているのだろうか? それについての詳しい検証は次回以降に行いたい。
黒田総裁発言後の相場の動きだが、米ドル/円相場はすでにずいぶん下がってしまっていたからか、この発言を受けても、すぐにはあまり下がらなかった。むしろ、しばらくは若干反発したのである。
しかし、ゴールデンウィークが始まり、日本が祝日となる翌29日(金)に日付が変わると、米ドル/円は再び下落を開始。106円台に突入した。横ばい局面なども挟みながら、さらに下落は続き、これも日本が祝日の5月3日(火)にはとうとう105.50円台の安値をつけるに至った。
日銀発表前から計算すると、米ドル/円は実に約610pipsも下落したことになる。

(出所:CQG)
日経平均先物も下落傾向が続き、5月2日(月)には1万5940円の安値をつけた。こちらも日銀発表前から計算すれば、1620円もの下落幅となる。

(出所:CQG)
この大暴落は「日銀ショック」と呼ばれたりしているが、その前に公開された日高正裕記者の記事が相場暴落を増幅した面もあるとみる向きからは、“日高ショック”という呼び方もネット上では使われたりしているようだ。
なかには相当狼狽しているのか、“日高ショック”をただひたすらに連呼し続けるツイートをするような、個人トレーダーのツイッターアカウントもあった。
以上、まずはブルームバーグの記事公開以降に起こった出来事と相場の動きを振り返ってみた。
(「反黒田派!? 日高正裕記者の記事は日銀がリークしたものだったのか?」へつづく)
(取材・文/ザイFX!編集長・井口稔 取材協力/ザイFX!編集部・庄司正高)
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