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BOJ Officials Saidの謎:ブルームバーグの
英文タイトルはあとから改変されていた!?

2016年05月16日(月)13:30公開 (2016年05月16日(月)13:30更新)
ザイFX!編集部

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「ブルームバーグ・日高正裕記者の記事に出てくる(日銀)関係者って誰よ?」からつづく)

★謎3:日高記者の英文記事はあとから改変されている!?

 問題のブルームバーグ・日高正裕記者の記事「日銀:金融機関への貸し出しにもマイナス金利を検討-関係者」は英文でも公開されている。市場に与えた影響という点ではむしろ、英文記事の方が重要かもしれない。そして、この英文記事には奇妙な点があるのだ。

 ここからは、この英文記事について取り上げてみたい。

4月22日(金)に公開された問題のブルームバーグ・日高正裕記者の記事(日本語版)
4月22日(金)に公開された問題のブルームバーグ・日高正裕記者の記事(日本語版)
4月22日(金)に公開された問題のブルームバーグ・日高正裕記者の記事(英語版)
4月22日(金)に公開された問題のブルームバーグ・日高正裕記者の記事(英語版)

■情報ソースには日銀ウオッチャーも入る!?

 「複数の関係者によると」という記述が日本語版記事の本文中に2カ所あることは本シリーズ記事の前回、取り上げた。

【参考記事】
ブルームバーグ・日高正裕記者の記事に出てくる(日銀)関係者って誰よ?

 この日本語版における「複数の関係者によると」という2カ所の記述は、英語版では書き方がそれぞれ異なってくるのだが、1カ所は「The officials said」となっており、「複数の関係者は言った」という表現になっていた。

 そして、英文では和文とは異なる場所に情報ソースについて書かれた部分が出てくるのだが、そこが気になる表現となっていたのだ。その表現とは「according to people familiar with talks at the BOJ」(日銀での議論をよく知る人々によると)というものである。

 「people familiar with talks at the BOJ」(日銀での議論をよく知る人々)というのは、日銀内部からだいぶ遠ざかった印象を受ける表現ではないだろうか。

ブルームバーグ英文記事の「people familiar with talks at the BOJ」と書かれている箇所
問題のブルームバーグ記事の「people familiar with talks at the BOJ」と書かれている箇所

 しかし、「people familiar with talks at the BOJ」という表現は英語的には「BOJ officials」と実質同じ意味を表しているということもあるのだろうか?

 筆者は日頃から金融市場のニュースに慣れ親しんでいて、英語を日常的に使う環境で何年も過ごしてきた経験がある2人の日本人に、念のため、2つの表現のニュアンスは同じようなことなのか、異なることなのか、聞いてみた。

 すると、2人から共に「明確にこの2つの表現は区別される」という答えが返ってきた。

 すなわち、「BOJ officials」とは日銀内部の人のことであり、一方、「people familiar with talks at the BOJ」には、日銀内部の人だけでなく、日銀内部の議論に精通している「日銀ウオッチャー」のような人も含まれるというのだ。

 問題のブルームバーグ・日高正裕記者の記事「日銀:金融機関への貸し出しにもマイナス金利を検討-関係者」に当初公開時点からコメントが載っていた専門家はBNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストだけである。そして、河野氏は日銀ウオッチャーの1人。

 つまり、河野氏は「people familiar with talks at the BOJ」(日銀での議論をよく知る人々)に入るわけで、たとえばの話だが、日高記者が河野氏から話を聞いて、問題の記事を書いたとしても、「people familiar with talks at the BOJ」と表現されている部分に関しては、記事内容に間違いはないことになってしまうのだ(あくまで「たとえば」の話だが…)。

■「Are Said to」という表現について考える

 さらに、本記事の英語版でもっとも奇妙に思われることはタイトルのなかにある。ブルームバーグ・日高正裕記者の記事に関する最大の問題はここにあると言ってもいいかもしれない。

 このタイトルは最初に公開されたあと、あとから単語が1つだけ追加され、変更されている形跡があるのだ。

 現在、ブルームバーグのウェブサイトで見られる英語版記事のタイトルは「BOJ Officials Are Said to Eye Possible Negative Rate on Loans」(日銀関係者は貸出金利をマイナスにする可能性を視野に入れていると言われている)となっている。

タイトルには「BOJ Officials」(日銀関係者)という言葉がバッチリ入っている。ただし、和文、英文含め、本記事で「BOJ Officials」(日銀関係者)という言葉が出てくるのはここだけである。

4月22日(金)に公開された問題のブルームバーグ・日高正裕記者の記事(英語版、再掲載)
4月22日(金)に公開された問題のブルームバーグ・日高正裕記者の記事(英語版)

 しかし、このタイトルは「Are Said to」という受動態のような形になっている。ここは英語に弱い筆者には今イチ意味がくみ取りにくかった。日銀関係者は「言った」のではなく、「言われている」というのか。日銀関係者が言われているって、いったい誰からなのか? 日銀関係者が言っているからこそ意味があるのであって、日銀関係者が誰かから何を言われようが、それは大して意味がないのではないだろうか???

 先ほども登場した、日頃から金融市場のニュースに慣れ親しんでいて、英語を日常的に使う環境で何年も過ごしてきた経験がある2人の日本人に筆者が聞いてみたところ、1人は先ほど示した訳文のとおり、「日銀関係者は貸出金利をマイナスにする可能性を視野に入れていると言われている」という意味でいいだろうとの意見だった。

 しかし、これだと本文の内容と今一つかみ合っていないことは先に述べたとおりだ。

 もう1人は、これは意味合いをやわらげるような表現であり、日本文に訳せば、「日銀関係者は貸出金利をマイナスにする可能性を視野に入れている、ということになっているらしい」が適切ではないか、との意見だった。

 2人の解釈は異なったが、いずれにしても、表現はぼやかされており、「日銀関係者は言った」というようなダイレクトなものになっていないことは確かだ。

 どうも「BOJ Officials Are Said to Eye Possible Negative Rate on Loans」というのは明快さを欠く表現に思える。先ほども書いたが、英語に弱い筆者はこれがどういう意味なのか、しばし悩んでしまったのだ。

■あとから無理矢理、単語が1つつけ加えられていた!?

 しかし、意味がくみ取りにくかったのは、筆者が英語に弱いからだけではなく、あとから無理矢理、単語を1つつけ加えたからではないだろうか。本件について調べているうちに、そんな可能性が急浮上してきた。

 実はこの記事の最初の英語版タイトルは「BOJ Officials Said to Eye Possible Negative Rate on Loans」(日銀関係者は貸出金利をマイナスにする可能性を視野に入れていると言った)(※)というものだったと思われるのだ。

 先ほどのタイトルとの違いは1つ。「Are」という単語があるか、ないかだ。以下に改めて2つ並べてみたので、見比べてほしい。

(元のタイトル(と思われるもの))
BOJ Officials Said to Eye Possible Negative Rate on Loans

(現在のタイトル)
BOJ Officials Are Said to Eye Possible Negative Rate on Loans

 元のタイトルにはなかったと思われる「Are」が現在のタイトルには入っていることがわかる。

 そして、この元のタイトルなら「BOJ Officials Said…」となっており、意味は明快。日銀関係者が言ったのだとズバリわかる表現になっている。

 その後の相場の動きを見ても、このダイレクトな表現を見た海外投機筋が「米ドル/円、売り過ぎてた! 早く買い戻さなくては~~!!」とあわてて、米ドル買い・円売りに走ったことが目に浮かぶ。

(※執筆者注:このタイトルには別の訳し方がある可能性にも一応、触れておきたい。先ほども出てきた英語経験の豊富な日本人の1人によると、「say to 動詞」は「~するように言った」という命令文的な使い方となるため、このタイトルの訳は「貸出金利をマイナス金利にする可能性を視野に入れるように、と日銀関係者が言った」という意味になるのではないかとのことだった。そして、日銀が誰かに指示したという意味だと本文とそぐわないため、このタイトルは単なるミスではないかと思ったということだ)

■「GulfNews」のタイトルには「Are」が入っていない

 英語版のタイトルが改変されているという証拠をいくつか挙げてみよう。

 日本語のブルームバーグの記事がYahoo!ファイナンスに配信されていたように、英語のブルームバーグの記事も他のサイトに配信されることがあるようだ。

 そして、たとえば、湾岸諸国の「GulfNews」やシンガポールの「THE BUSINESS TIMES」に掲載されているこの記事のタイトルには以下のように「Are」が入っておらず、「BOJ officials said to ~」というものになっている。こちらが最初に配信されたタイトルだと思われるのだ。

「GulfNews」に掲載されたブルームバーグ記事の英語版
「GulfNews」に掲載されたブルームバーグ記事の英語版

こちらの記事タイトルには「Are」が入っておらず、「BOJ officials said to eye possible negative rate on loans」となっていることがわかる

「THE BUSINESS TIMES」に掲載されたブルームバーグ記事の英語版
「BUSINESS TIMES」に掲載されたブルームバーグ記事の英語版

こちらの記事タイトルには「Are」が入っておらず、「BOJ officials said to eye possible negative rate on loan program」となっていることがわかる(末尾がloansではなく、loan programとなっているのも異なる点)

■URLに残されていた元のタイトル

 では、ブルームバーグのサイト本体、もしくはそれに準ずる場所にタイトル改変の証拠は残っていないだろうか? 筆者はいろいろ調べていった結果、ついに2つの証拠を発見した。

 1つはURLである。

 ブルームバーグのサイトはおもしろくて、当該記事のURLに当初公開したタイトルそのものが入れ込まれているようなのだ(ただし、これはいつも完全にそのとおりではない模様。筆者はその法則を完全にはつかめていない)。

 現在、「BOJ Officials Are Said to Eye Possible Negative Rate on Loans」というタイトルになっている問題の記事のURLはどうなっているだろうか? 以下がそのURLである。

http://www.bloomberg.com/news/articles/2016-04-22/boj-officials-said-to-eye-possible-negative-rate-on-loan-program

 URLの後半に注目してほしい。「boj-officials-said-to-eye-possible-negative-rate-on-loan-program」となっている。「are」という文字はここに入っていない。これが最初に配信された記事タイトルだと思われるのだ。

■グーグルのキャッシュに元のタイトルを発見!

 そして、もう1つの痕跡はグーグルのサーバーの片隅にあった。以下のとおり、検索方法を工夫すると、本記事の1単語だけ異なる新旧2つの記事タイトルをグーグルは2つとも検索結果に表示(※)したのである(2つのタイトルとも検索結果上に表示されている記事URLはブルームバーグ(bloomberg)のもの)

(※執筆者注:グーグルがこのような検索結果を表示することは、時間が経過すると、変化する可能性がある)

新旧2つの記事タイトルが表示されたグーグルの検索結果
新旧2つの記事タイトルが表示されたグーグルの検索結果

 どちらの検索結果をクリックしても、今現在は新記事タイトルがついたブルームバーグのページに飛んでしまうが、グーグルにはキャッシュというものがある。クローラーと呼ばれるグーグルのプログラムがそのページを見に行った時点でのそのページの内容を、そのままグーグルのサーバーが保存してくれているものだ。

グーグルのキャッシュを見れば、少し前の時期の当該ページがどのようになっていたのかがわかるのである。

 それが以下のキャプチャ画像だ。

グーグルのキャッシュに残っていた当初の英文記事タイトル
グーグルのキャッシュに残っていた当初の英文記事タイトル

グーグルのキャッシュに残っていた当初の英文記事タイトルには「Are」が入っておらず、「BOJ officials said to eye possible negative rate on loans」となっていることがわかる

 鮮やかな青色で彩られたブルームバーグのサイト内にある当該記事タイトルにはたしかに「Are」の文字はなく、「BOJ Officials Said…」となっていることが見てとれる。

■あとからbe動詞を挿入して改変することが以前も…

 もちろん、ウェブメディアでは、記事タイトルや本文の誤字などを公開後に更新することは珍しくないことだろう。当サイト「ザイFX!」でもそのようなことはある。ブルームバーグのサイトでは、わざわざ更新日時を明示しているぐらいだ。

 いったん公開したタイトルを改変することが一律に悪いわけではない。

 しかし、今回のケースでは故意に「BOJ Officials Said…」と煽情的なタイトルをつけておいて、あとで記事作成過程の実態に近づけるために、タイトルを微妙に変えたということはないだろうか。

 それはうがった見方すぎるだろうか。

 単なるケアレスミスを修正しただけなのだろうか。

 実はこのような修正は今回が初めてではないと思われる。以前もまったく同じような修正が行われていたと思われるのだ。

 それは本シリーズ記事の前々回で取り上げた、2015年2月12日公開の「日銀の追加緩和は逆効果、10月緩和は消費者マインドに悪影響」という日高記者の記事である。

【参考記事】
反黒田派!? 日高正裕記者の記事は日銀がリークしたものだったのか?

2015年2月12日に公開されたブルームバーグ・日高正裕記者の記事(日本語版)
2015年2月12日に公開されたブルームバーグ・日高正裕記者の記事(日本語版)

 この記事の英語版タイトルは現在、「BOJ Is Said to See Extra Stimulus Counterproductive for Now」となっている。

2015年2月12日に公開されたブルームバーグ・日高正裕記者の記事(英語版)
2015年2月12日に公開されたブルームバーグ・日高正裕記者の記事(英語版)

 しかし、長くなるので詳細は省くが、いくつかの証拠から、このタイトルには当初「Is」が入っておらず、さらに「any」も入っており、「BOJ Said to See any Extra Stimulus Counterproductive for Now」となっていたのではないかと思われるのだ。

「Is」が入っていない元のタイトルが残されていると思われる例
「Is」が入っていない元のタイトルが残されていると思われる例

海外FXフォーラム「Forex Factory」に残されていたもの。「BOJ Said to See any Extra Stimulus Counterproductive for Now」と書かれており、「Is」が入っていない。さらに「any」が入っている。

 当初のタイトルは「BOJ Said…」(日銀は言った)と非常にダイレクトな表現となっていたのである。

 日高記者の記事では、いったん公開した記事タイトルに、あとからbe動詞をつけ加えて改変するということがどうも複数回行われているようなのだ。

 長々と英文についてあれこれ詮索し、「ザイFX!」としては異例の内容の記事になってしまった。

 しかし、たかがbe動詞1つと思わないでほしい。その有無によって、米ドル/円相場の動きは結構違ったものになった可能性があるし、be動詞1つの有無は故意に操作されたものであった可能性があるのだ。

★謎4:日銀は貸し出しへのマイナス金利適用を検討していなかったのか?

 4月28日(木)の記者会見で黒田日銀総裁は、金融政策決定会合では貸出金利をマイナスにする議論はしなかったと明確に否定した。

 こうなると、日銀は貸出金利をマイナスにすることなど検討はしていなかったという感じがしてくる。

 では、日高記者はまったく根拠のない飛ばし記事を書いたのだろうか?

 ここまでの本シリーズ記事の流れからすると、意外に思われるかもしれないが、これについて筆者は、複数の金融市場関係者から「そうではなく、日銀が貸出金利をマイナスにすることを検討していた可能性はある」との見解を聞いた。

 黒田総裁は会見で何を否定したのだろう。

 もう一度、この件に関する黒田総裁の発言を振り返ってみよう。その要旨は以下のようなものだった。

(1)今回の決定会合ではそのようなことは議論していない。

(2)現時点では日銀はそのようなことを考えていない。

 まず、(1)については単純に確定的な事実なのだろう。

 問題は(2)の方だ。

 単純に読めば、「日銀は貸出金利のマイナス化を検討していない」とも解釈できるが、たとえば、「日高記者の記事が出る前の時点では検討していたけれども、日高記者の記事が出たあと、検討するのをやめた」としても、「現時点では日銀はそのようなことを考えていない」という発言はウソではないことになるように思える。

記者会見で記者たちの質問に答える黒田日銀総裁

4月28日(木)、金融政策決定会合後に記者会見に臨む黒田日銀総裁。このときは決定会合ではマイナス金利での貸し出しについて議論していない、と否定した。 写真:AFP=時事

本シリーズ記事の前々回で紹介したように、複数のエコノミストが貸出金利をマイナスにする政策についてレポートしているし、現にECB(欧州中央銀行)は同じようなことをすでにやっているし、黒田総裁発言のとおり、そのことを日銀も承知しているのだ。

【参考記事】
反黒田派!? 日高正裕記者の記事は日銀がリークしたものだったのか?

 日銀金融政策決定会合に出席する日銀総裁、副総裁、審議委員以外にも当然ながら、日銀にはたくさんの職員がいて、そういった人たちも日銀関係者(BOJ officials)に該当するだろう。そして、そういった人たちのなかに貸出金利のマイナス化を検討の俎上に載せていた人がいたとしても不思議ではない。もっと言えば、検討していた可能性はかなり高いのではないだろうか。

 黒田総裁は今回、せめて「検討はしていた」と言っておいた方が良かったというような意見も市場ではあるようだが、“サプライズ”を重視してきた黒田総裁である。今はそういうことを隠しておきたいと考えることは十分あり得るのではないだろうか。

 日高記者の記事がどのような情報源により、どのような道筋をたどって書かれたものなのか、ウワサ以上のものは筆者の耳に入ってきていない(本記事でもそういったこと、すべてについて書いているわけではない)。

 とはいえ結局、今回、日銀が追加緩和をやらなかったからといって、それをもって日高記者の記事内容を完全に根も葉もないことと、一概に切り捨てるわけにもいかないようなのである。


 ここまで、全4回シリーズでブルームバーグ・日高正裕記者の記事「日銀:金融機関への貸し出しにもマイナス金利を検討-関係者」について、あれこれと考察してきたが、結局、日高記者の記事は日銀によるリークによるものでもなければ、完全な飛ばしでもないということではないだろうか?(これはあくまで筆者の推測だが…)

 しかし、英文タイトルの改変のことなど、日高記者の記事には一癖も二癖もあることはわかってきた。「ザイFX!」の読者であり、個人トレーダーであるみなさんが今後、日高記者の記事を読んで相場に臨む際は、その点をしっかり意識しておくことをおすすめしておきたい。


 本記事シリーズの作成にあたっては、さまざまな金融市場関係者の方々にご協力をいただきました。この場を借りて、御礼申し上げます。

(取材・文/ザイFX!編集長・井口稔 取材協力/ザイFX!編集部・庄司正高)

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