(「ブルームバーグ・日高正裕記者の記事に出てくる(日銀)関係者って誰よ?」からつづく)
★謎3:日高記者の英文記事はあとから改変されている!?

問題のブルームバーグ・日高正裕記者の記事「日銀:金融機関への貸し出しにもマイナス金利を検討-関係者」は英文でも公開されている。市場に与えた影響という点ではむしろ、英文記事の方が重要かもしれない。そして、この英文記事には奇妙な点があるのだ。
ここからは、この英文記事について取り上げてみたい。


■情報ソースには日銀ウオッチャーも入る!?
「複数の関係者によると」という記述が日本語版記事の本文中に2カ所あることは本シリーズ記事の前回、取り上げた。
【参考記事】
●ブルームバーグ・日高正裕記者の記事に出てくる(日銀)関係者って誰よ?
この日本語版における「複数の関係者によると」という2カ所の記述は、英語版では書き方がそれぞれ異なってくるのだが、1カ所は「The officials said」となっており、「複数の関係者は言った」という表現になっていた。
そして、英文では和文とは異なる場所に情報ソースについて書かれた部分が出てくるのだが、そこが気になる表現となっていたのだ。その表現とは「according to people familiar with talks at the BOJ」(日銀での議論をよく知る人々によると)というものである。
「people familiar with talks at the BOJ」(日銀での議論をよく知る人々)というのは、日銀内部からだいぶ遠ざかった印象を受ける表現ではないだろうか。

しかし、「people familiar with talks at the BOJ」という表現は英語的には「BOJ officials」と実質同じ意味を表しているということもあるのだろうか?
筆者は日頃から金融市場のニュースに慣れ親しんでいて、英語を日常的に使う環境で何年も過ごしてきた経験がある2人の日本人に、念のため、2つの表現のニュアンスは同じようなことなのか、異なることなのか、聞いてみた。
すると、2人から共に「明確にこの2つの表現は区別される」という答えが返ってきた。
すなわち、「BOJ officials」とは日銀内部の人のことであり、一方、「people familiar with talks at the BOJ」には、日銀内部の人だけでなく、日銀内部の議論に精通している「日銀ウオッチャー」のような人も含まれるというのだ。
問題のブルームバーグ・日高正裕記者の記事「日銀:金融機関への貸し出しにもマイナス金利を検討-関係者」に当初公開時点からコメントが載っていた専門家はBNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストだけである。そして、河野氏は日銀ウオッチャーの1人。
つまり、河野氏は「people familiar with talks at the BOJ」(日銀での議論をよく知る人々)に入るわけで、たとえばの話だが、日高記者が河野氏から話を聞いて、問題の記事を書いたとしても、「people familiar with talks at the BOJ」と表現されている部分に関しては、記事内容に間違いはないことになってしまうのだ(あくまで「たとえば」の話だが…)。
■「Are Said to」という表現について考える
さらに、本記事の英語版でもっとも奇妙に思われることはタイトルのなかにある。ブルームバーグ・日高正裕記者の記事に関する最大の問題はここにあると言ってもいいかもしれない。
このタイトルは最初に公開されたあと、あとから単語が1つだけ追加され、変更されている形跡があるのだ。
現在、ブルームバーグのウェブサイトで見られる英語版記事のタイトルは「BOJ Officials Are Said to Eye Possible Negative Rate on Loans」(日銀関係者は貸出金利をマイナスにする可能性を視野に入れていると言われている)となっている。
タイトルには「BOJ Officials」(日銀関係者)という言葉がバッチリ入っている。ただし、和文、英文含め、本記事で「BOJ Officials」(日銀関係者)という言葉が出てくるのはここだけである。

しかし、このタイトルは「Are Said to」という受動態のような形になっている。ここは英語に弱い筆者には今イチ意味がくみ取りにくかった。日銀関係者は「言った」のではなく、「言われている」というのか。日銀関係者が言われているって、いったい誰からなのか? 日銀関係者が言っているからこそ意味があるのであって、日銀関係者が誰かから何を言われようが、それは大して意味がないのではないだろうか???
先ほども登場した、日頃から金融市場のニュースに慣れ親しんでいて、英語を日常的に使う環境で何年も過ごしてきた経験がある2人の日本人に筆者が聞いてみたところ、1人は先ほど示した訳文のとおり、「日銀関係者は貸出金利をマイナスにする可能性を視野に入れていると言われている」という意味でいいだろうとの意見だった。
しかし、これだと本文の内容と今一つかみ合っていないことは先に述べたとおりだ。
もう1人は、これは意味合いをやわらげるような表現であり、日本文に訳せば、「日銀関係者は貸出金利をマイナスにする可能性を視野に入れている、ということになっているらしい」が適切ではないか、との意見だった。
2人の解釈は異なったが、いずれにしても、表現はぼやかされており、「日銀関係者は言った」というようなダイレクトなものになっていないことは確かだ。
どうも「BOJ Officials Are Said to Eye Possible Negative Rate on Loans」というのは明快さを欠く表現に思える。先ほども書いたが、英語に弱い筆者はこれがどういう意味なのか、しばし悩んでしまったのだ。
しかし、意味がくみ取りにくかったのは、筆者が英語に弱いからだけではなく…
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