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反黒田派!? 日高正裕記者の記事は
日銀がリークしたものだったのか?

2016年05月11日(水)12:25公開 (2016年05月11日(水)12:25更新)
ザイFX!編集部

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「市場を大騒ぎさせたブルームバーグ・日高正裕記者の記事。その謎に迫る!」からつづく)

★謎1:日高記者の記事は日銀がリークしたものだったのか?

 今回、4月22日(金)に公開されたブルームバーグ・日高正裕記者による「日銀:金融機関への貸し出しにもマイナス金利を検討-関係者」という記事が市場にオドロキをもって迎えられたのは、日銀が金融機関への貸し出しをマイナス金利で行うというアイデアだけに理由があるわけではない。

 「日銀:」で始まり、「-関係者」で終わる日高記者の記事タイトルが、いかにもその情報が日銀内部からストレートにもたらされたものだと読み手に受け取られたからこそ、これだけ騒がれたのだ。

4月22日(金)に公開されたブルームバーグの記事
4月22日(金)に公開されたブルームバーグの記事

■「貸出金利マイナス案」自体は日経新聞も取り上げていた

 アイデアだけであれば、ブルームバーグ・日高正裕記者の記事以前から、取り上げる人は複数いたのである。

 たとえば、ECB(欧州中央銀行)は3月の追加緩和時にTLTRO2(貸出条件付き長期資金供給オペ第2弾)を導入しているが、これは中央銀行が金融機関への貸し出しをマイナス金利で行い得るという内容を含むものだった。これは前回紹介したとおり、黒田日銀総裁が4月28日(木)の日銀金融政策決定会合後の記者会見でも触れていたことである。

【参考記事】
市場を大騒ぎさせたブルームバーグ・日高正裕記者の記事。その謎に迫る!

 さらにこの「ECBによるTLTRO2と同じようなことを日銀もできる」とブルームバーグの記事が出る4日前に指摘していた記事もあった。日本経済新聞のウェブサイトで4月18日(月)に公開された清水功哉編集委員による「『銀行株に優しいマイナス金利』 日銀、新たな工夫も」という記事である。

 この記事では、「有力日銀OB」からそのような声が出ているとして、ズバリ、貸出支援基金の金利をマイナスにするというアイデアが紹介されているのだ。

4月18日(月)に公開された日本経済新聞の記事
4月18日(月)に公開された日本経済新聞の記事

 また、ゴールドマン・サックスなどでディーラーとして活躍してきた志摩力男氏はブルームバーグの記事が出る前日、4月21日(木)に配信された同氏の有料メルマガで、以下のように、ゴールドマン・サックス証券の日本経済担当チーフ・エコノミスト・馬場直彦氏の見解を紹介していた。 

ゴールドマン・サックスの馬場さんが、従来6月緩和予想だったのを4月、すなわち来週金融緩和の考えに変更したようです(4月20日レポート)。ETF7兆円への増額が政策の主体ですが、貸出支援スキームのマイナス金利への引き下げも打ち出されてました。

 ここにも「貸出支援スキームのマイナス金利への引き下げ」という内容が含まれていることがわかる。

■日銀内部から出た情報のように見えるからこそ大騒ぎに

 さらに言えば、実は「日銀:金融機関への貸し出しにもマイナス金利を検討-関係者」という問題のブルームバーグ記事の中にも、同記事公開前にこのようなアイデア(もしくはそれに準ずるもの)が表明されていたという例がいろいろと載っているのだ。

 それは日高正裕記者が書いた部分ではなく、藤岡徹記者があとから追記したと考えられる部分である(「追記」に関しては当コーナーの前回記事で触れた)。

【参考記事】
市場を大騒ぎさせたブルームバーグ・日高正裕記者の記事。その謎に迫る!

 以下がブルームバーグの当該記事に掲載されていたその例だ。

・三菱UFJモルガン・スタンレー証券:六車治美シニアマーケットエコノミストによる8日付のリポート

・ドイツ証券:山下周チーフ金利ストラテジストによる13日付のリポート

・大和証券:永井靖敏チーフエコノミストによる21日付のリポート

 このように同記事が公開される前に発表されたリポートに貸出支援基金の金利をマイナスにする、もしくはそれに準ずるようなアイデアが紹介されていた例がいろいろとあったのだ(ただし、リポートのなかで、それが肯定的に紹介されているとは限らない)。

 しかし、こういった記事やリポートの内容が大騒ぎされることはなかった。それは「貸出金利をマイナスに」というアイデアが日銀内部でまさに検討されているという内容ではなかったからにほかならない。

 ブルームバーグ・日高正裕記者が4月22日(金)に公開した記事「日銀:金融機関への貸し出しにもマイナス金利を検討-関係者」は、同様の内容であっても、それが日銀内部から出た情報のように見える表現となっていたからこそ、市場は大騒ぎとなったのである。

 つまり、ポイントの1つは「貸出支援基金の金利をマイナスにするという政策を日銀が検討している」というような内部情報を、日銀内部の人が本当に話したのか? 話したとすれば、どのような形で話したのか?ということにある。

■今回の記事はリーク系のものか? 飛ばし系のものか?

 ある金融市場関係者は、一般論として断りながらも、以下のように語ってくれた。

 「組織の内部情報的なものが記事になった場合でも、それがリーク系のものである場合と、飛ばし系のものである場合があります」

 今回のケースで言えば、リーク系の記事とは、日銀内部の人が意図的に漏らした内部情報を情報源として書かれたものということになる。

 一方、飛ばし系の記事とは、日銀で本当にそのような検討が行われているのか、裏付けが乏しい状態で記事にしてしまうことを意味する。

 また、前述の金融市場関係者は「日銀オフレコ取材などで得た情報をよく飛ばす記者はいる」とも語っていた。本来公表してはいけないオフレコの内容を書いてしまう記者もいるというのだ。こうなると、「飛ばし」といっても、真相に近い「飛ばし」ということになるのだろうか?

■日高記者の記事は日銀のリークによるものではないとの声

前回述べたが、筆者は今回の記事は日銀がリークしたものだろうと当初思っていた。

【参考記事】
市場を大騒ぎさせたブルームバーグ・日高正裕記者の記事。その謎に迫る!

 日銀は1月29日(金)に市場にサプライズを与えるマイナス金利導入を行った。このとき、株高・円安方向への反応はわずか1~3日程度であっという間に終了し、その後は激しい株安・円高が進行した。マイナス金利政策に対する市場の反応は芳しいものではなかった。銀行の収益が削られるなどの批判も多々浴びることにもなった。

【参考記事】
マイナス金利はなぜ逆効果だった? 急落の米ドル/円は桜の咲くころ、110円台打診!?(2016年2月5日、陳満咲杜)

 これは日銀としては苦い経験となったのではないだろうか。だから、今回、新たな政策を実施する前にメディアにリークして観測気球を打ち上げ、市場の反応を見たかったのだろうと筆者は思ったのだ。少なからぬ人が筆者と同じようなことを感じたのではないだろうか?

 しかし、意外にも(?)、複数の金融市場関係者から「今回の日高記者の記事は日銀のリークによるものではないだろう」との声が筆者の耳には入ってきている。

■日高記者には「反黒田派」とのウワサあり

 日高正裕記者は以前にも金融市場を騒がせたことがある。

 たとえば、2015年2月12日に公開された「日銀の追加緩和は逆効果、10月緩和は消費者マインドに悪影響」という記事だ。

2015年2月12日に公開されたブルームバーグの記事
2015年2月12日に公開されたブルームバーグの記事

 この記事はその時点で追加緩和を行うことは日本経済にとって逆効果になるとの声が日銀内で上がっているという内容だった。そして、この報道を受け、米ドル/円は瞬く間に150pipsほども急落した。

【参考記事】
追加緩和は逆効果? 日銀騒動でドル/円急落!日銀関係者の「単独犯」ではない可能性も(2015年2月13日、陳満咲杜)
決裂! ギリシャのユーロ離脱、可能性増す。日銀会合、肩透かしでの円高リスクに注意(2015年2月17日、西原宏一&松崎美子)

 シティバンクなどで為替ディーラーを務めてきた西原宏一氏はザイFX!の連載「ヘッジファンドの思惑」でもおなじみだが、上の記事が公開された翌日、2015年2月13日に配信された同氏の有料メルマガ「FXトレード戦略指令!」のなかでは、この記事と日高記者について、次のような解説がなされていた。

記者は、日高正裕氏

彼は、森本委員と懇意であるとのこと。

森本委員は東電出身の反リフレ派。

つまり半黒田派。

(原文ママ)

 上の解説で「半黒田派」というのは「反黒田派」の誤字だろう。日高正裕記者は反黒田派だと西原氏は解説しているのである。そのことについて、念入りに裏がとれたわけではないが、日高記者がこれまで書いてきた記事を読んでいくと、その雰囲気は十二分に感じられる。

 だとすると、どういうことになるか。

 たとえば、黒田総裁あるいはそれに近い日銀内部の人が、貸出支援基金へのマイナス金利適用をメディアにリークしたいと考えたとしよう。そのとき、わざわざ反黒田派だと考えられる日高記者をリーク先に選ぶようなことをするだろうか? そんなことはしないのではないだろうか?

 このことは、先ほど書いた、「今回の日高記者の記事は日銀のリークによるものではないだろう」という複数の金融市場関係者の見方とも符合する。

 筆者は日高記者の記事は日銀のリークによるものではなかったと推測したい。

「ブルームバーグ・日高正裕記者の記事に出てくる(日銀)関係者って誰よ?」へつづく)

(取材・文/ザイFX!編集長・井口稔 取材協力/ザイFX!編集部・庄司正高)

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