■今後の市況を測るうえで重要な視点2つ
そもそも111円台までの切り返しは、米追加利上げ観測を織り込んでいた結果だった。これはもう、スピード調整として、最大の限度に達したとみる。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)
ゆえに、ここからの市況を測る場合は、以下の2つの視点が重要になってこよう。
1つは、米ドル/円は一気に105円台を打診したから、そもそもスピード調整のニーズがあった。だから、5月いっぱいの切り返しは円高トレンドをより健全化したと言える。
もう1つは、スピード調整と言うなら、これから米ドル/円が4月28日(木)の高値111.88円を超えられないまま。安値更新しなければならないということだ。そうでないと、円高トレンドが継続されるとは言えず、また、内部構造に変化が生じるということになる。ちなみに、4月28日(木)とは、前回日銀が政策を見送った日であるから、同日の高値はより一層、分水嶺の役割を果たすと思われる。
■サプライズがあるとすれば、「7月利上げ不可能」という思惑
米ドル全体に関しては、前回のコラムにて指摘していたように、米追加利上げの可能性やその効果を過大評価すべきではない。
【参考記事】
●米ドル全面高を過信するのはなぜ危険? 米利上げ観測自体が急になくなるかも!?(2016年5月27日、陳満咲杜)
今晩(6月3日)の米雇用統計次第では、また思惑に主導された形で反発してくる可能性が大きいが、基本的には6月利上げの可能性はなお小さく、早くても7月利上げといった市場センチメントが目下のレートにはだいぶ織り込まれたとみる。
したがって、これからサプライズがあるなら、「7月利上げ可能」よりも「7月利上げ不可能」の方だろう。このような思惑が出やすいとなると、やはり、米ドル全面高の余地は限られるかと思う。
実際、目先ドルインデックスは100日移動平均線(100日線、≒95.95)に抑えられ、その上には200日移動平均線(200日線、≒96.92)が控えており、ブル(上昇)トレンドへ復帰するにはハードルが高いとみる。
(出所:CQG)
この意味では、主要外貨の方が、そう弱くならないかもしれない。量的緩和余地ありとされるユーロは200日線を維持、利下げ余地ありとされる豪ドルも200日線前後をキープ、米ドル高一辺倒の市況にほど遠い。
(出所:CQG)
(出所:CQG)
EU離脱問題で不安定な英ポンドでも100日線前後は維持しており、米ドル全体が強くない様子がうかがえる。
(出所:CQG)
要するに、利上げ、利上げともてはやされるほど米ドルが強くないから、このあたりのリスクが逆に要注意なわけだ。
■米ドル高になりきれない背景にはチャイナリスクへの不安
米ドル高になりきれない根本の背景にはやはり、追加利上げに確信を持てないということがあるだろう。これが大きい。
何しろ、昨年(2015年)夏から鮮明になってきたチャイナリスクがなお消えていないばかりか、いつ再燃してもおかしくない状況を見すごせないからだ。昨年(2015年)と同様、その発端として中国人民元の動向は気になるところであり、足元での中国人民元安の再開が最も市場関係者の神経をとがらせていることだ。
イエレンFRB(米連邦準備制度理事会)議長が「今後数カ月以内に利上げ可能」と表明して以来、中国当局は連日、中国人民元相場の中間レートを低く設定し、中国人民元安を誘導してきた。
中国人民元は対米ドルで、すでに5年ぶりの安値近辺で推移しているから、昨年(2015年)8月のように、いつ一気に下落してきてもおかしくない情勢だ。
(出所:CQG)
■中国発、大暴落のパニック相場がまた来るのか?
米利上げがあれば、資本流出が一層強まるから、中国当局はできるだけ先手を打ちたいが、中国人民元安誘導策は思わぬ相場の大暴落を引き起こすリスクが大きい。
中国経済減速につれ、中国人民元資産を処分し、海外脱出を図る国内資本が多い。このような海外逃避の道は完全には塞げないから、中国人民元安誘導策自体が正しいとしても、これはコントロール不能の資本流出局面を招く可能性もあり、パニック相場の再来が危惧される。
昨年(2015年)夏の人民元ショックは中国国内株市場の暴落を引き起こしたのみでなく、世界金融市場に混乱をもたらした。この夏もチャイナショックで、再び波乱万丈の展開になるのだろうか。
このあたりの疑心暗鬼が消えないうちは、米早期利上げ観測は簡単に高まらず、むしろ、いったんお預けになる公算が大きいかと思う。だから、米ドル全面高のシナリオとは距離を置き、また、円高トレンドの加速を覚悟しておきたい。
日本の夏は「緊張」(金鳥)の夏だから、「冷やし中華」からスタートか。市況はいかに。
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