■本当のトランプ・ショックはこれからか
そもそもトランプ氏は商売人ではあるが、政治家としての経験はまったくない。氏の政治理念や政策主張、過激というか、幼稚というか、現実に通用するかどうか、まったく未知数のところが多く、マーケットが急回復したのはトランプ政権に安心したためという解釈は性急であり、また、いくぶん滑稽に聞こえる。
今回の米大統領選は、米国史上もっとも見苦しい選挙で、また、有権者がもっとも分裂した選挙と言われたばかりだったのに、選挙が終わった途端、すべてが安心できるわけがない。
安心したところがあるとすれば、当選したあと、トランプ氏が今までの主張をいったん封印し、「大人」としての穏やかな口調(氏にふさしくないとも言える)に終始したことのみではないだろうか。
が、これからトランプ氏が従来の過激な主張をまったく言わなくなることも想定しにくいから、この意味では、本当の「トランプ・ショック」はこれからだとも言える。だから、目先のマーケットの安心感がホンモノかどうかは極めて疑わしいものだ。
■前例を学習した結果が今回の市場の反応?
昨年(2015年)8月の「人民元ショック」にしても、今年(2016年)6月の英EU離脱にしても、米国株のパフォーマンスに限って言えば、いわゆるショックを克服する強さがあった。それが「慣例」になったことが、今回の市場の反応につながった要素として大きかったのではないだろうか。
(出所:CQG)
言い換えれば、目先のマーケットの反応、トランプ政権に対する信頼云々よりも単にマーケットが学習して、経験上の行動パターンをまた繰り返しただけなのではないだろうか。この意味合いからも、目先のパフォーマンスと中長期の展望は分けて考える必要があると思う。
■市場の動きに感じる2つの矛盾
そもそも、この2日間のマーケットのパフォーマンスに矛盾を感じたところも多い。
1つはインフレ期待が高まっていると解釈される一方、金が急落していることだ。こうなると、インフレ期待が本当に高まったのか、疑わしい。なぜなら、インフレにもっとも敏感なのが金のはずだからだ。
金の急落は単純に米ドル高がもたらした結果なのか、それとも構造的にいわゆるインフレ期待を否定しているのかを見極めるべきだ。
(出所:CQG)
もう1つはもっと単純明快だ。インフレ期待がもたらした米金利の上昇がホンモノなら、それが史上最高値を更新し続けている米国株「バブル」を助長するのではなく、とどめを刺す役割を果たすはずということだ。
現在のように、米金利上昇や米利上げ期待が株高の背景として解釈されることは普通ではない。果たして、このような市況が続くかどうかもかなり疑問だ。
このように、この2日間のマーケットの激動は、深思熟慮した市場参加者の決定よりも、学習効果を出てきたヘッジファンドやアルゴリズム取引に主導された短期売買が作った一時の現象、という公算が大きい。
ウォール街の連中の多くは、トランプ氏の当選さえ予測していなかったし、また、氏の主張や政策を散々批判するどころか、かなり馬鹿にしてきただけに、目下、心からトランプ政権を歓迎しているわけでもない。表向きだけ、一時のユーフォリア(熱狂的陶酔感)を演出したにすぎない。
■米ドル/円は最大110円まで上昇後に100円まで下落か
だから、市場が再び反転するのを警戒しておくのが正しいスタンスであろう。が、米ドル/円に限っていえば、これから再度100円の大台打診ありといった従来のシナリオを維持する一方、足元の米ドル高・円安のトレンドが反転する前に最大110円の打診を警戒しておきたい。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 週足)
その理由と詳細はまた次回。市況はいかに。
(14:00執筆)
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