予想外、また、事前に「ありえない」と思われる市況だからこそ、「ありえない」オーバーをしがちで、足元の米ドル/円はその好例であろう。
実際、米ドル/円11月の上昇幅は、1995年以来の記録を更新、「トランプ・ラリー」自体がいかに「ブラックスワン」で、いかに強い衝撃をもたらしたかを物語る。
(出所:CQG)
■トランプ氏の政策方針が抱える3つの矛盾
しかし、トランプ氏の施政方針や理念は、最初から多くの矛盾を抱えていた。氏自身のキャラクターと相まって、インテリ層にバカにされてきた理由もそこにあった。
言ってみれば、トランプ氏は当選したものの、彼が白人をメインとした中産階級の危機感をあおったところは成功だったとしても、根本的には、彼の施政方針が理解され、また、支持されたものでは決してなかった。なぜなら、氏の主張は、少し常識があれば、あまりにも大きな矛盾があることがすぐわかったはずだからだ。
細かいところ、また、経済領域以外の部分での矛盾を除くと、トランプ氏の施政方針と理念は、主に以下の3つの矛盾点を抱えていると指摘できる。
1.インフラ投資拡大と保護貿易主義は共存できない
2.インフレ期待と強い米ドルは同時達成できない
3.金融自由化と貧富の格差縮小は同時にめざせない
いわゆる「トランプノミクス」ともてはやされる氏の主張は、積極財政と大型投資を標榜しながら、「メード・イン・アメリカ」にこだわる保護貿易、製造業保護主義の姿勢をとる。この両者は矛盾する。
アメリカの鉄道運送量の増減が、一貫して諸外国貿易量の増減と高い相関性を示しているように、トランプ氏が本当に大型国内投資を推進していくなら、彼が主張しているように外国からの移民を追い出すのではなく、もっと多く受け入れていかないといけないし、米企業の本土回帰を強要するのではなく、もっと積極的に諸外国と自由な貿易関係を作らなければならないはずだ。
トランプ氏の政策には大きな矛盾あり!? 大統領就任後にその矛盾の辻褄をどう合わせるのか注目かも… (C)Scott Olson/Getty Images
このあたりの知識を、ウォール街の面々は十分持っているはずが、株高をもたらした「ブラックスワン」に、誰も「あいつはブラックだ」と言わなくなっている。
ましてや、トランプ氏はウォール街出身者を重要ポストに起用することを考えているため、ウォール街は今はトランプ政権との「蜜月」を演じなければならない。今はあえて目をつぶっているはずなのだ。
■次のターゲットは120円より110円の方が現実的!
もちろん、ウォール街とはいえ、すべてがそうとは言えない。
債券王ビル・グロス氏はトランプ氏が4年の大統領任期を全うできないと予想しているし、新債券王のジェフリー・ガンドラック氏は「トランプ・ラリー」が、トランプ氏が正式に米大統領に就任するまでで終わるだろうと警告している。
そして、筆者としては、「トランプ・ラリー」はそこまで待たず、今月(12月)の米利上げ前後までしか続かないのではないかと思う。
このあたりの考え方や、トランプ氏施政方針の矛盾に関する詳説は、また次回に譲るが、米ドル/円に関しては、「トランプ・ラリー」のさらなる行きすぎがあってもせいぜい116円台で終わり、また、次のターゲットは120円よりも110円の方が現実的、という結論を記しておく。市況はいかに。
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