■米利上げ後の米ドル急進は「クライマックス的」な値動き
その上、よく考えるとわかるように、「トランプノミクス」への期待は、だいぶ先走りしてきただけに、足元の米ドル高は、こういった期待と思惑を十分織り込んでいるはずだ。
トランプ政権の政策運営、かなり不確実性が高いにも関わらず、マーケットは「おいしい」ところ、あるいは「期待ばかり」に寄せて反応してきたから、新たな材料なしでは、今後、さらに上値余地を拡大できるとは思わない。
言ってみれば、「トランプ・ラリー」における米ドル高が、だいぶ先取りして進行してきたところで、米利上げがあってさらに米ドルが急伸したことは、どちらかというと、「クライマックス」的な値動きになりやすいパターンだ。
ここから米ドル高が進まないとは断定できないが、いったん修正されてもおかしくなかろう。
■V字型に反転下落は想定しにくく、113円台止まりか
ただし、米ドル高のモメンタムがかなり強かっただけに、修正があってもまず高値圏での保ち合いに留まり、その後、徐々に行われる公算が大きい。V字型反転は、現時点では想定しにくいから、このあたりは注意していただきたい。
米ドル/円で言うと、もう119円の節目手前まで迫ったから、「クライマックス」とはいえ、再度、高値打診があっても想定の範囲内。そして、ファンダメンタルズ上の急変がない限り、2016年~2017年の年末年始までは、反落があっても113円台を維持できるのではないだろうか。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)
■米ドル/円の高値追いを支持できない理由3つ
一方、米ドル全体の状況をやや大局観をもってみる場合、目下、巷のコンセンサスと化している米ドル全面高の継続、または大幅な上昇余地拡大という見方とは、距離を置きたい。
米利上げ後の米ドルのパフォーマンスが、「クライマックス」的な段階に入った可能性を排除できないから、ドルの高値追いに慎重なスタンスを取りたい。主な根拠は以下の3つにある。
まず、FRBがQEから退く、もしくは利上げを示唆した場合の過去2年間の市場の反応から考えて、米債券利回りと米ドルの同時高はリスク選好と経済活動に打撃を与える公算が高い。こういった効果が波及してくると、米ドル高を抑え込む要素になるのも自明の理だ。
次に、マーケットはいわゆる「トランプノミクス」構造に酔い、積極的な財政政策や引き締めに向かう金融政策に過大な期待を寄せているが、このような期待自体が過大になりすぎた分、マーケットが失望させられる可能性が大きい。
これらは米ドル高を支えるもっとも大きな要素である一方、過大な期待に応えるほど「トランプノミクス」の現実味はないと言えるから、米ドル高の構造は、意外ともろいかもしれない。
大統領就任前から盛り上がりまくっている「トランプノミクス」への期待。それがきちんと実行される現実味は乏しいのだろうか? (C)Mark Wilson/Getty Images
最後に、株式市場にしても、債券市場や為替市場にしても、現在の価格はすでに1兆ドル分の財政出動を織り込んでいると推測される。
このような局面において、FRBの「早期」利上げは、インフレを抑制する作用を発揮するから、米債券のフォーワード・リターンを抑える可能性が大きい。この場合、米国と諸外国との金利差を拡大させるのではなく、実は縮小させていく可能性があるから、これが米ドル高の余地を制限してくると思われる。
■急速な米ドル高は新興国危機につながる可能性も
さらに、もっとも長い目でみると、米利上げの局面、また、急速な米ドル高の局面において、総じて新興国危機が引き起こされてきた。
新興国危機が発生すれば、歴史的最高値圏にある米国株が独り善がりのパフォーマンスを維持することは到底できない。米ドル高自体が新興国危機の引き金となった前例は枚挙に暇がないから、今さら羅列しなくてもおわかりいただけるかと思う。
まとめてみると、2017年米利上げの見通しとトランプ政権がこれから推進する政策の両方における不確実性は高いが、目先の相場は、まだ具体的な内容や裏付けがなく、理念だけが先行してきた財政出動に関する思惑、また、同思惑がもたらす高インフレ、高金利の予想ばかりを織り込んできた。
このような事前の織り込みは極限まで進んでいるから、これからは反転するリスクが大きい。
反転するリスクとして確率がもっとも高いのは、中国を含む新興国リスクの鮮明化やトランプ氏の政権運営自体のリスクが挙げられる。共和党内でも敵だらけのトランプ氏、裏付けのない財政出動法案を強行すれば、反対される可能性が大きいから、その時、トランプとマーケットの「蜜月」も終わるだろう。
市況はいかに。
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