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米軍の北朝鮮攻撃はあるのか? ないのか?
元航空自衛隊空将が語る攻撃の前兆とは?

2017年04月18日(火)14:09公開 (2017年04月18日(火)14:09更新)
ザイFX!編集部

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 米軍による北朝鮮攻撃はあるのか? ないのか? 金融市場では北朝鮮有事への関心が高まっており、その思惑によって相場が上下しています。

 そこで、今回はザイFX!としては珍しく、軍事の専門家にご寄稿いただきました。元・航空自衛隊 空将の織田邦男氏に米軍の北朝鮮攻撃があるのかどうか、事前に判断できるポイントについて解説いただいています(ザイFX!編集部)。

元航空自衛隊空将・織田邦男氏

■「レッドライン」は核弾頭搭載の米本土に届くICBM完成

 北朝鮮では建国指導者・金日成の生誕日である4月15日(土)、つまり「太陽節」(※)の前後に、6回目の核実験を実施するとの情報があった。北朝鮮が核の小型化に成功し、米本土に届くICBM(大陸間弾道ミサイル)を完成させる、それは米国の「レッドライン」である。

(※編集部注:「太陽節」とは、北朝鮮の祝日のひとつ。建国指導者・初代最高指導者であった金日成主席の誕生日を祝うことを趣旨としている)

 トランプ大統領は米中首脳会談の最中にシリア攻撃を実施し、習近平主席に対し、「本気度」を見せつけた。これまで20年にわたる「戦略的忍耐」は失敗だったとし、「あらゆるオプション」を排除しないと明言した。もし、中国が北朝鮮を説得できなければ、米国単独でも軍事力行使を含めた対応をとると伝えた。

 「太陽節」に呼応するかのように、ハリー・ハリス米太平洋軍司令官は、カール・ビンソンを主体とする空母機動部隊を北上させ、異例ながら、これを公開した。

ハリー・ハリス米太平洋軍司令官は、カール・ビンソンを主体とする空母機動部隊を北上させた  (C)U.S. Navy/Getty Images

ハリー・ハリス米太平洋軍司令官は、写真の原子力空母「カール・ビンソン」を主体とする空母機動部隊を北上させた。そして、このことをわざわざ公開した  (C)U.S. Navy/Getty Images

■米軍は普段公開しないものをなぜ、続々と公開している?

 普段、安全保障に関心も知識もない識者がメディアを通じて浅薄な発言をし、国民はこれに惑わされて不安に駆られる。メディアは視聴率が取れるから、さらにこれを煽って大騒ぎをする。

 民主主義国家にとって、この現象は決して健全ではない。これまでのように、何があっても「話し合いを」と壊れたレコードのように繰り返して思考停止するのも不健全だが、根拠なく「米軍は攻撃する」と煽るのも、それ以上に不健全である。

 結論から言おう。今回、米軍は北朝鮮への攻撃はしない。

 先日来、米軍は空母機動部隊の動き、巡航ミサイル搭載原潜の派遣、アフガニスタンでのMOAB(Massive Ordnance Air Blast)の使用、あるいは岩国基地におけるF35Bの爆弾搭載訓練、SEALS支援船の派遣等々、普段は決して公開しないものを続々と公開している。

 本当に作戦実施を考えているなら、手の内をばらすような馬鹿なことはしない。

アフガニスタンで使用されたMOAB。「すべての爆弾の母」とも呼ばれ、非核兵器の中では、最大の破壊力を持つとされている (C)U.S. Air Force/ロイター/アフロ

アフガニスタンで使用されたMOAB。「すべての爆弾の母」とも呼ばれ、非核兵器の中では、最大の破壊力を持つとされている (C)U.S. Air Force/ロイター/アフロ

 これらは「太陽節」にあわせて準備した核実験を阻止するための金正恩に対する威嚇行動であり、それを何としても止めさせろという習近平に対する強いメッセージである。

■NEO「非戦闘員退避作戦」が開始されるかどうかがカギ

攻撃実施のメルクマールとして、NEO(Non-combatant Evacuation Operation)、つまり、「非戦闘員退避作戦」の開始がある。韓国には現在、観光客を含め、米国市民や軍人家族(軍人を除く)が10万人余り存在している。

 米国が北朝鮮に手を出せば、「ソウルを火の海にする」と北朝鮮は公言しており、事実上の人質状態とも言える。

 4月16日(日)、ヒル元米国務次官補は「韓国には、北朝鮮の大砲の射程に約2000万人が住んでいる」とテレビ番組で指摘している。作戦を命ぜられた司令官がまず考えるのは、一般市民、特に自国民を如何に保護するかである。

現段階においては、マイク・ペンス米副大統領が訪韓するなど、NEO「非戦闘員退避作戦」は開始されていない。こんな状態でマティス国防長官やマクマスター安全保障補佐官が攻撃実施を大統領に進言することはまずありえない。

■現在の状況では北朝鮮を攻撃するには兵力不足

 また、一個空母機動部隊と在韓米軍では北朝鮮攻撃には明らかに兵力不足である。北朝鮮攻撃はシリアとは状況がまったく異なる。38度線に集中する約1万の火砲(多連装ロケット砲や長射程火砲など)はソウルを向いている。

 ソウルを「火の海」にしないためには、開戦初頭、これらを一挙に壊滅せねばならない。同時に、核施設や核貯蔵施設を完全に破壊しなければならない。これには明らかに兵力不足である。

金正恩を直接狙った「斬首作戦」があると主張する専門家もいる。だがこれは非常に難しい作戦である。リアルタイムで金正恩本人の動向を把握できなければならない。これは偵察衛星の情報ではできない。側近に裏切り者がいて、金正恩の行動を逐一報告させるようでなければ、この作戦は現実的には不可能だ。

 また、斬首作戦は失敗が許されない。失敗すれば北の独裁者は「ソウル火の海作戦」や「核攻撃」を直ちに命ずるだろう。朝鮮半島ではシリアと違って「ちょっとだけ懲罰を」という作戦はあり得ないのだ。

 米中首脳会談でトランプ大統領は、「中国が影響を行使できないなら、米国は単独でもやる」という強いメッセージを習近平に伝えた。現在、ボールは習近平側にある。今回の米軍の動きは、まずは習近平の「お手並み拝見」というメッセージなのだ。

■金正恩が核実験を強行すればトランプは攻撃に出るだろう

 4月16日(日)、北朝鮮は東海岸からミサイル発射を実施した。結果的には失敗に終わったらしい。

 習近平の説得にもかかわらず、金正恩は6度目の核実験を強行するかもしれない。トランプ政権はオバマ政権とは違い、本気である。その時はトランプは上げた拳を必ず振り下ろすだろう。

金正恩は6度目の核実験を強行すれば、その時はトランプは上げた拳は必ず振り下ろすだろう (C)Alex Wong/Getty Images

もしも、金正恩が核実験を強行すれば、その時、トランプは本気で北朝鮮へ攻撃をしかけるだろう
 (C)Alex Wong/Getty Images

 訪韓中のペンス副大統領も次のように述べている。「失敗したミサイル発射に対し、我々が何か特別な対応をとる必要はない。これが核実験であれば、米国として何らかの行動をとる必要があっただろう」

 もし、攻撃を決行するとなると、まず、NEOが発動となる。同時に、米本土から三沢、横田、嘉手納に攻撃戦闘機が続々と展開してくるはずだ。グアムのアンダーセン基地やハワイのヒッカム基地もあわただしい動きになるだろう。

■米軍が情報を公開しなくなったら、攻撃開始の前兆

作戦準備になると、米軍は一転して情報を公開しなくなる。湾岸戦争時の「インフォメーション・ブラック・アウト」状態だ。湾岸戦争開戦前、日本の多くの識者は「情報がない」ことを誤解してか、「攻撃はない」と予想していた。だが見事に裏切られた。「情報がない」というのと「攻撃準備がない」というのはまったく違うのだ。

1991年1月17日に開戦した湾岸戦争開戦前、米軍は一転して情報を公開しなくなる「インフォメーション・ブラック・アウト」状態となった (C) Laurent VAN DER STOCKT/Getty Images

1991年1月17日に開戦した湾岸戦争開戦前、米軍は一転して情報を公開しなくなる「インフォメーション・ブラック・アウト」状態となった。写真は開戦時のイラクの首都・バクダッドの様子
(C) Laurent VAN DER STOCKT/Getty Images

「インフォメーション・ブラック・アウト」になれば必ずわかる。その時こそ日本政府は、直ちに韓国への渡航禁止措置をとるとともに、在韓邦人帰国のための作戦を開始すべきだ。

 日本に事前協議をするとはいうが、それは保全上、攻撃開始直前になる可能性がある。

 メディアも浅薄だが、いわゆる有識者も軍事知識は上辺の知識しか有していない。軍事を知らない者同士が語り合っても現実とはほど遠い空虚な議論から一歩も出ない。国民はメディアの作り出した浅薄な「お騒ぎ」に巻き込まれるべきではない。

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