■リスクオフとトランプ氏の米ドル高牽制で円高に
米ドル/円の110円節目割れが示したように、地政学リスクの高まりで円がリスクオフ通貨として選好される傾向はなお強い。
そして、トランプ米大統領の米ドル高牽制発言も重石となり、円の続伸(円高)をもたらした。
一方、ドルインデックスでみると、トランプ氏の発言が市場にもたらし影響は、短命に終わる可能性がある。

(出所:Bloomberg)
4月12日(水)のWSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)のインタビューで、トランプ米大統領は「米ドルが強すぎるのは、人々が私を信頼しているためだから、自分のせいだ」と語り、米ドルの急落をもたらしたが、昨日(4月13日)、ドルインデックスはだいぶ戻り、米ドルの下落分を帳消しとする可能性を示唆している。

トランプ米大統領は「米ドルが強すぎるのは、人々が私を信頼しているためだから、自分のせいだ」と語り、米ドルの急落をもたらした。(C)Alex Wong/Getty Images
トランプ米大統領の米ドル高牽制は、本来かなりインパクトの強い発言であったにもかかわらず、「意外」とその影響力が限定的と思われる節があるとすれば、それはほかでもない、トランプ氏がほぼ同時に、あまりにも多くの前言を翻したからだ。
選挙時に中国を名指しして、「為替操作国」と非難したトランプ氏は、インタビューの中で一転して、「為替操作国ではない」と明言した。
また、FRB(連邦準備制度理事会)に関しては、低金利を維持するのが好ましいと言い、イエレン議長の留任も暗示したが、周知のとおり、選挙時には、FRBの低金利政策を非難し、イエレン議長の解任までほのめかしていた経緯があった。
君子豹変もいいところだが、トランプ米大統領の前言撤回はさらに続く。
NATO(北大西洋条約機構)は「時代遅れではない」と言い直し、合衆国輸出入銀行も「支持」すると表明した。
もちろん、氏はつい最近まで、「NATO自体はもはや時代遅れ」と繰り返し、合衆国輸出入銀行は米国雇用を犠牲にした組織と批判していた。その経緯は記憶に新しいところだ。
■米ドル高はトランプ氏への信頼ではなく、失望の現れ?
商人出身のトランプ米大統領の「変節」は、よく言えば現実的で柔軟性がある、悪く言えば「節操なし」の範疇に入ると思われるが、ここで重要なのは、氏の言葉を真面目かつ深刻に受け取る必要がないことを、マーケットが習得しているかもしれないことだ。
だから、米ドル高牽制発言がもたらした影響が短命に終わる可能性があっても、おかしくなかろう。
そもそもトランプ氏がいう「米ドル高は自分のせい」というところは否定しないが、「人々が私を信頼しているため」かどうかはかなり微妙だ。
基本的に、「トランプ・ラリー」がもたらした米ドル急伸は、人々がトランプ氏を信頼していたというよりも、氏の経済政策への強い期待感の現れであった。ここへきての米ドル下落が物語るのは、そういった氏への期待がかなり裏切られた、という失望感の表れではないかと思う。
ゆえに、「トランプ・ラリー」がすでに失速し、また米ドル高もかなり修正されてきた目先、トランプ氏の「自画自賛」がやや滑稽に見えたのも仕方がない。
■トランプ氏の米ドル高牽制は逆に米ドル安を一服させる?
さらに、米ドル高の本質が、米金利の正常化が進む段階に入ったことや、米雇用環境の改善、インフレ率の上昇といったことを背景にした結果であると理解すれば、トランプ氏の「変節」があろうが、米ドル高牽制があろうが、決定的な要素にならないことも理解できる。
だから、トランプ氏が米ドル高を牽制したとはいえ、それで米ドル高基調が終焉するとは限らないうえ、場合によっては、すでに進行してきた米ドル反落を休止させる節目にもなり得る。
なぜなら、相場の「クライマックス」に近い段階においては、往々にして刺激的な発言が出てくるケースが多いからだ。現在は米ドル高ではなく、米ドル安局面にあるから、トランプ氏の米ドル高牽制発言は、米ドル安一服間近を暗示する材料でもあり得るというわけである。
■米ドル/円反落はそろそろ終盤?
この意味合いにおいて、2017年の年初来展開されてきた米ドル/円の反落も、そろそろ終盤の段階に入ったのではないだろうか。
110円の節目割れがあれば、108円台の下値打診ありといった見通しは既述のとおりで、また、短期スパンではさらに下値余地を拡大してもおかしくないが、中期スパンの視点では、ここから下値余地があっても限定的であり、米ドルの調整(反落)局面がそろそろ終わりに近いことを覚悟すべきかと思う。
【参考記事】
●米軍シリア空爆でもドル/円は110円死守! 米雇用統計後にここが守られるかがカギ(2017年4月7日、陳満咲杜)
テクニカルの視点では、大事な局面だからこそ、シンプルに見る必要がある。4つの視点をもってアプローチした昨日(4月13日)のレポートは、以下のとおりだ。

(出所:Bloomberg)
結論から申すと、年初来展開されてきたドル/円の反落、すでに底打ちしたか、そろそろ底打ちされるとみる。同蓋然性、4つの視点で纏められる。
1、200日線の打診:同線の重要性はテクニカル上の理由以外、2016年1月29日, 「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入が決めた後の高値を制限、また、「トランプ・ラリー」が事実上同線を上回ったとこりから数えたことに由来したこと。
2、昨年6月安値98.95~同12月高値118.66の半分押しを達成
3、118.66を起点とした反落波、大型ジグザグ変動と見做した場合、N字型計算では、A≒Cの構造を示し、同計算値に近い。
4、RSIは昨年6月の安値圏に落ち込み、これから大型リバーサルのサインを構築していく公算が高い。
もちろん、以上の視点はあくまで中期スパンに基づく見方で、短期スパンにおけるサインはまだ確認されていない。これからの値動きを丹念にフォロー、早期サインの発見に努めたい。
■200日線を継続的に割り込むか否かに要注目
200日移動平均線(200日線)の打診自体が特に根拠となる可能性は高くないが、昨年(2016年)1月29日(金)に日銀が「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を決定したあとの高値を、200日線が制限していたことは見逃せない。
2016年6月安値98.95円までの円高市況の進行は、事実上、この「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入から始まっただけに、「トランプ・ラリー」がもたらした米ドル高も事実上、200日線の回復によって確認され、また、加速した経緯があった。
だからこそ、2017年年初来の米ドル安が、200日線の再度打診をもって底打ちしたかどうかを見極めるのは重要であり、また、そこで大きなサインも点灯するだろう。実際、朝鮮有事もあって、一時的な200日線割り込みも十分想定されるが、継続的に割り込んでいくかどうかが1つの判断材料になるに違いない。
換言すれば、「2017年年初来の米ドル安は、あくまで『トランプ・ラリー』の修正である」といった位置づけは、米ドル/円が継続的に200日線を深く割り込んでいく、といった市況になれば説明がつかない。
仮にこのような局面があれば、前述の位置づけが間違いであり、メインシナリオの修正を迫られることになるから、相場が重要なところまで来ているのは確かだ。
■地政学リスクが高まる中での米ドル/円の「意外な底堅さ」
それでも現在のシナリオを維持するワケは、ほかならぬ、足元の地政学リスクの高まりである。
やや逆説的になるが、朝鮮有事の緊迫感が漂う現状でも、執筆中の現時点では米ドル/円は200日線を割り込んでいない。この「意外な底堅さ」は、ドルインデックスと同様に相場の内部構造を暗示していると思われる。

(出所:Bloomberg)
ちなみに、円高・株安といった典型的なリスクオフの反応と違って、北朝鮮の直接的な攻撃目標となる隣の韓国の株価は堅調に推移している。また、軍事境界線の近くにあるソウルの不動産相場も崩れていないから、もしかしたら、朝鮮有事も言われるほど、今そこにある危機ではないのかもしれない。市況は如何に。
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