世界中が注目するフランス大統領選挙の第1回投票が、2017年4月23日(日)に実施されますが、極左のメランション候補の支持率が急上昇していることで、選挙結果の行方は混沌としたものになってきました。
そこで、ザイFX!では、元為替ディーラーで英国在住の松崎美子さんに、フランス大統領選の注目点、選挙結果を受けたユーロ相場の見通しなどについて解説いただきました(ザイFX!編集部)。
■出口調査の結果は日本時間の早朝に!
以下の図のとおり、2017年の欧州は政治色の強い1年である。その中でも特に注目度が高いのは、フランス大統領選だ。ここでは大統領選についての基礎知識や、ユーロ相場への影響などをまとめてみたいと思う。
まず、2017年のフランス大統領選は、以下の日程で行われる。
昨年(2016年)10月に投票時間が変更され、今年(2017年)のフランス大統領選は、大都市では今までどおり20時まで、他の都市は18時から19時へ1時間の延長が認められた。
フランスでは、大都市の投票所が閉まる現地時刻20時(日本時間翌3時)に、出口調査を発表する決まりがある。
しかし、フランス選挙法の影響を受けない外国籍の報道機関は、2時間前の18時頃(日本時間翌1時)に「独自の出口調査結果予想」を発表するという噂もある。
正式な出口調査結果が発表される現地時刻20時は、豪シドニー市場が開くわずか1時間前。そのため、朝早くから金融市場のボラティリティが相当高まりそうだ。
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気になる投票率だが、過去の平均投票率は80%くらいである。もし、今回の投票率が65%か、それ以下となれば、ルペン候補に有利というのがコンセンサスである。
■左翼党のメランション候補が支持率急上昇!
大統領選に出馬する11人の候補者のうち、特に注目を集めているのは、以下の5人である。
それでは早速、上の5名の支持率をチェックしてみよう。
特に目を引くのが、3月中旬まで泣かず飛ばずであった左翼党候補:メランション氏が急速に支持率を伸ばしてきていることである。
過去1カ月の有力4候補者の支持率平均値は、マクロン22.4%、ルペン21.7%、フィヨン20.8%、メランション19.1%となっており、非常に神経質な動きとなっている。
(複数の報道機関の結果をもとに作成)
■世論調査結果を鵜呑みにするのは危険!
しかし、世論調査結果の数字をそのまま鵜呑みにしてしまうのは危険だ。その理由は、有権者の心変わりである。
今月、4月14日(金)付の仏ル・モンド紙では、「絶対にその候補者に投票するコア支持者」と「場合によって他の候補者に投票するかもしれない優柔不断な支持者」との比較を載せた記事があった。その結果は以下のとおりである。
(出所:仏ル・モンド紙の報道をもとに作成)
特に気になるのは、社会党候補:アモン氏の支持者の43%が「他の候補者に票を入れるかもしれない」予備軍であることだ。
その層がメランション候補に票を入れれば、同氏の決選投票進出もあり得る。
ちなみに、最後の世論調査結果発表は4月21日(金)で、20日(木)に行われる3回目のTV討論会の翌日となる。この結果次第では、マーケットのボラティリティが高まることが予想されるので要注意だ。
メランション候補の人気が高まる1カ月前までは、マクロン候補のオッズは60%近くあったが、それ以降、じりじりと低下している。
(複数の報道をもとに作成)
■メランション氏はなぜ、支持率を急速に伸ばしているのか?
それでは、左翼党候補:メランション氏の人気の秘密を探ってみよう。
メランション候補は65歳になるベテラン政治家。2008年まで30年間にわたり、社会党に所属していたが、同年秋に離党して左翼党を立ち上げた。国民がメランション候補に対して抱く印象は「強気で辛口」。
最近の人気急上昇の影には、2度にわたり放映されたTV討論会でのパフォーマンスが、反エスタブリッシュメント支持層に支持されたこと、そして社会党のオランド大統領に失望した左寄りの有権者の支持が高まってきたことが挙げられる。
しかし、それ以上に支持率上昇に貢献したのは、他ならぬSNSによるキャンペーン戦略の成功だ。TwitterやYoutubeチャンネルによるキャンペーンを積極的に取り入れただけでなく、左翼党の公約内容を織り込んだ「スマホ用ゲームソフト」を立ち上げ、若年層の支持を取りつけた。
メランション候補の選挙公約は以下のとおり。
・週労働時間を、現在の35時間から32時間に短縮
・年金支給年齢を60歳に戻したい
・最低賃金引き上げ
・富裕層のみを対象とした社会保障税の増税
・月収3万3000ユーロ以上の部分に対し、100%の所得税を適用する
・原子力エネルギーの廃止
・フランス電力会社(EDF)を、もう一度国有化する
・フランスを、EU(欧州連合)とNATO(北大西洋条約機構)から離脱させる
・ロシアのシリア支援をサポート
・移民は、いくらでも受け入れ可能とする
何かにつけてルペン候補と比較されるが、2人とも同じく反EU思想を持っているものの、移民政策に関しては正反対となっている。
■極右・ルペン候補の支持が下がらないのはなぜ?
EU離脱の国民投票実施を公約に載せるルペン候補が、どうしてここまで安定した支持率を維持できるのか? 誰もが疑問に思うことであろう。トランプ人気に乗っかっているだけという意見もあるが、理由はそれだけではない。
それは、ズバリ「国の安全を守るのは、ルペン候補しかいない」という認識である。
ルペン氏は、反ユーロだけでなく、反移民も支持している。フランスは2015年1月に政治週刊紙:シャルリー・エブドの本社を拠点としたテロ行為、その10ヵ月後にはパリ同時多発テロを経験している。
そして、今年(2017年)に入り、ルーブル美術館の近くで、ナタを持ったエジプト人によるテロ未遂事件が起きたばかり。
たび重なるテロの脅威に対し、フランス人には反移民政策を掲げるルペン氏が大統領になれば、テロ対策も万全になると考える人が増えてきたと分析されている。
■仏大統領選に向け、「欧州恐怖指数」は急上昇!
マーケットのイールドスプレッド(各国の長期金利差)とボラティリティ指数をチェックしたが、どちらの数字も「大統領選不安」を織り込んできている。
ユーロ加盟国間でイールドスプレッドを比較する場合、優等国のドイツとの比較となる。そこで、ドイツとフランスの差を見ると、4月に入り、金利差が拡大している。
(各月の利回りはECBのウェブサイトより。4月18日(火)のデータは当日終値)
また、数値が高くなればなるほど、投資家が相場の先行きに不安を抱いているとされる「恐怖指数」。
CBOE(シカゴ・オプション取引所)が算出するVIX(Volatility Index)は有名だが、その欧州版が、ドイツのEurex取引所で取引されているVSTOXX(欧州恐怖指数)である。
以下はVSTOXXの4月に入ってからの推移を表しているが、ここにきて急上昇しているのがわかる。
(出所:フランクフルト証券取引所)
■ユーロ相場を予想! 市場が一番恐れている結果とは?
最後に、2度にわたる投票と、ユーロ相場との関係についてまとめてみた。
(1)4月23日(日) 1回目投票後の予想
1カ月前までは、確実にマクロン候補が決戦投票に進み、同氏の得票率が高ければ高いほど、ユーロは買われるというシナリオであった。
しかし、ここにきて四つ巴となっており、先行きの予想がしづらい。ここでは私の個人的主観だけを頼りに予想をまとめてみたが、1回目の投票ではルペン候補の得票率に注目している。
(2)5月7日(日) 決選投票後の予想
共和党所属:フィヨン候補以外の人物が大統領になった場合、どの候補も議会に基盤がない。
たとえば、ルペン候補率いる国民戦線の下院議席数は577議席中2議席、マクロン候補率いる前進党はゼロ、そしてメランション候補率いる左翼党は10議席である。
●マクロン勝利=ユーロ買い
ユーロ上昇を予想。ただし、長期的な視点に立つと、同候補の弱点は前進党の政治的基盤が弱い点である。6月の議会選挙で共和党単独政権となった場合、単なるねじれ国会となるだけでなく、前進党の議席がゼロに近いというリスクを背負うことになる。その場合、以前所属していた社会党の協力が得られるかが大きなカギとなろう。
●フィヨン勝利=ユーロ買い
初動はユーロ買いにつながると予想するが、上昇幅はマクロン候補よりも小さいかもしれない。ただし、4人の候補者の中で政治的基盤が一番しっかりしているため、同氏の家族に対する不正収入疑惑が片づく…… という条件がクリアーになれば、政策運営がスムーズに進み、さらにユーロ買いとなる可能性もあり?
●メランション勝利=ユーロ売り
公約どおりに政策運営が進められた場合、週労働時間を32時間に短縮しつつ、最低賃金を引き上げ、なおかつ年金支給年齢を60歳に戻すことになる。その財源は富裕層に対する増税などで補う様子であるが、相当な財政負担につながる恐れがある。それに加え、ロシアによるシリア援助をサポートしており、国民の反感を買うことも間違いないだろう。
政治的な基盤としては、元社会党所属ということもあり、左翼党だけでなく(マクロン候補同様)、社会党の協力をどれだけ得られるか?に成功がかかっている。
●ルペン勝利=ユーロ売り
マーケットが一番恐れているのが、ルペン大統領の誕生である。大統領就任後、6カ月以内にEU離脱の是非を問う国民投票を実施するようであるが、たぶんそれは否決されるであろう。しかし、その結果が出るまでの不透明感を嫌気したユーロ売りは強烈であることが考えられる。
■政局不安の後退か、ユーロ崩壊リスクの台頭か
最後に、大統領選後のユーロの動きをまとめて終わりたいと思う。ここでは、私個人の相場予想と大手金融機関の予想も拝借した。
まず、マクロン勝利でフランス政局不安が後退すれば、2017年後半くらいから市場の関心はECB(欧州中央銀行)のテーパリング観測に移る。その場合、ユーロ上昇の目安として、対米ドルで1.13~1.15ドル台を予想(下のチャート上の黄色いハイライト)。
逆に、ルペン大統領が誕生し、ユーロ崩壊リスクが台頭するようなことになれば、多数の大手銀行は0.97~1.00ドルまでの下落を予想しているようだ。
(出所:メタトレーダー)
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