(「英国がEU離脱なら英ポンドは20%暴落か。7500万円払えば、いち早く結果がわかる!?」からつづく)
■議員殺人事件の衝撃が流れを変えた
「英国民投票の流れが変わったようです。きっかけとなったのは、EU(欧州連合)残留を支持していたジョー・コックス議員が銃撃されたうえに刃物で刺されるという大変、痛ましい事件です」
そう解説するのは、ロンドン在住の元・為替ディーラー、「ロンドンFX」こと、松崎美子さんだ。
EU残留派のジョー・コックス議員殺害事件は英国民投票の流れを大きく変えた
(C)Dan Kitwood/Getty Images
間近に迫った2016年6月23日(木)の英国民投票。前回の記事では「離脱派の急伸」をお伝えしたばかりだが、再び流れは残留へと傾きつつある。国民投票へ向けた最終週、英ポンド/円相場は上に大きく窓開けして始まった。
【参考記事】
●英国がEU離脱なら英ポンドは20%暴落か。7500万円払えば、いち早く結果がわかる!?(6月15日)
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:英ポンド/円 1時間足)
「16日(木)以降に行なわれた世論調査では再び、残留支持が優勢となっています。コックスさんへの同情票もあるのでしょうね。残留派がよほどの失言や失態を演じないかぎり、残留が濃厚になったと思います」
■離脱支持を表明した大手新聞
投票日が迫る中、世論に影響を与えそうな動きもあった。大手新聞の社論だ。
「先週(6月13日~)、発行部数トップの大衆紙『サン』が、離脱支持を一面にデカデカと打ち出しました。また、投票直前の週末には伝統ある高級紙『タイムズ』日曜版と、やや右寄りの『テレグラフ』日曜版が離脱支持を表明したんです」
日本の新聞でも日曜版はあるが、イギリスでは位置づけが違う。
「イギリスの家庭では、どこもテーブルに日曜版が載っていて、お菓子を食べながら、ビールを飲みながら読まれています。まだ態度を決めていない人も10%ほどいるとみられ、彼らがタイムズやサン、テレグラフの影響で一斉に離脱に傾けば、まだ逆転の可能性もあります」
■ブックメーカーでは残留支持の巻き返しが明確
ただ、世論調査から見ると基本は残留優勢。「世論調査よりも信ぴょう性が高い」と評判のブックメーカー(賭け屋)でも同じ傾向が出ている。
「オッズから見た残留の確率は一時、60%程度まで落ちていましたが、6月20日(月)時点で77~80%台まで回復しています。ただ、実際の得票率は僅差になりそう。いちばん人気のある賭けは『残留票が50-55%』、『離脱票が40-50%』とするもの。残留に賭けている人が多いですが、彼らも楽勝で残留とは思っていません」
■スコットランド残留を見事に当てた賭け屋のオヤジ
イギリスでは「床屋よりも多い」と言われるくらいに一般的なブックメーカー。顧客の多くはサッカー目当てだが、選挙での実績もある。
キーワードは「賭け屋のオヤジ」。美子さんのセミナーを見ている人は聞いたことがあるかもしれない。
「2014年、スコットランド独立を問う国民投票がありました。当時も投票日が近づくにつれ、独立派の勢いが増していったのですが、投票2日前、『スコットランドは79%の確率で残留する』と予測したのが大手ブックメーカー・ベットフェアーの社長のオヤジ。この発言をきっかけに英ポンドが買われたんです」
賭け屋のオヤジが今回も予想を発表するかどうかは不明だが、ニュースが出たら侮らず、注意しておこう。
■投票終了直後、スコットランド99%残留と宣言したオヤジ
「もうひとり、注目すべきオヤジは『ユーガブ』の社長です」
英ポンドを動かす大きな材料となっている世論調査だが、調査を行なっている会社のひとつがユーガブだ。
「ユーガブのオヤジはスコットランド独立の国民投票で投票所が閉まった瞬間、『99%残留だろう』と宣言、やはりマーケットが反応しました。ユーガブは独自に5000人規模のサンプル調査を行って、結果を予測していたそうです」
ユーガブ、今回も同じことをやるかも。ユーガブとベットフェアー、2人のオヤジに注目あれ。
■最大レバレッジを12.5倍に引き下げるFX会社も
次に「英国民投票をどう収益に変えるか」を考えていこう。
英国民投票当日から結果判明までのスケジュールは、前回の記事で紹介したとおり。日本時間6月24日(金)6時に投票所が閉まり、開票作業の終わった地域から結果が発表され、昼前には大勢が判明する見通しだ。
【参考記事】
●英国がEU離脱なら英ポンドは20%暴落か。7500万円払えば、いち早く結果がわかる!?(6月15日)
FX会社から警告が出ているとおり、6月23日(木)から24日(金)にかけての英ポンドは尋常ならざる乱高下が予想される。
【参考記事】
●最悪のシナリオを織り込み警戒する動き。英国国民投票を前にFX会社が注意喚起!(6月14日)
まず確認しておきたいのが、利用しているFX会社の対応だ。
「今週(6月20日~)の英ポンドが上昇して始まったのは、『英ポンドのレバレッジ引き下げ』も影響しているはずです。私の使っているイギリスのFX会社からは、必要証拠金額を約16倍に引き上げるとのお知らせがありました。他社も同じような措置を取ったようです。
そうなるとパンパンにポジションを持っている人は、証拠金を積み増すか、ポジションを閉じるしかない。後者の動きが23日(木)に向けて増えてくるでしょう」
英ポンド絡みの通貨ペアについてレバレッジを引き下げる動きは、日本でも見られる。FXトレード・フィナンシャルは6月23日(木)と24日(金)、英ポンドがらみの7通貨ペアについて、レバレッジを12.5倍に引き下げることを発表した。
特に法人口座では、最大レバレッジの落差が大きいだけに注意が必要かも。通常100倍以上のレバレッジを提供するデューカスコピー・ジャパンは、6月23日(木)午前3時から週末まで、英ポンドがらみの7通貨ペアについて最大レバレッジを30倍に引き下げる。
また、SBI FXトレードも、通常、最大200倍の法人レバレッジを6月23日(木)午前6時~ 25日(土)午前5時30分の間、25倍に引き下げるそうだ。
最大レバレッジが引き下げられているのに日常の感覚でポジションをとると、ロスカットされるリスクが高い。よくよく気をつけておこう。
このほか、外為どっとコムやGMOクリック証券などは、英ポンドがらみの通貨ペアのポジション制限(保有できるポジション量)を一時的に引き下げると発表している。本件に関するFX会社各社からの警告を見落とさないようにしよう。
【参考記事】
●最悪のシナリオを織り込み警戒する動き。英国国民投票を前にFX会社が注意喚起!
■英ポンド/米ドルは1.4ドルから1.2ドルへ!?
為替市場の値動きについてはどうか。
前回の記事で教えてもらった美子さんの予想では、「残留なら英ポンドの上昇幅は10%以内、離脱なら15%から20%程度は下げる」とのことだったが。
【参考記事】
●英国がEU離脱なら英ポンドは20%暴落か。7500万円払えば、いち早く結果がわかる!?(6月15日)
「いくつかの銀行が英ポンド/米ドルのレート予想を出しています。残留の場合、大手米銀の予想は1.48ドル。ある英系銀行は1.50ドル、または1.53ドル。やはり残留になれば、離脱のケースほどの値幅にはならなさそうです」
大きく動くのは、EU離脱となった場合だ。
「同じ大手米銀の予想だと、初動で1.38ドル台、いちばん下で1.27ドル台ミドル。同じく英系銀行は、極端な場合には1.20ドル~1.25ドルもありうるとしています」
■英ポンド急落ならBOEの介入に警戒を
強烈な予想だが、EU離脱で英ポンドが暴落したときに警戒したいのが為替介入。BOE(イングランド銀行[英国の中央銀行])は、すでに6月23日(木)、24時間態勢で備えることを発表している。
「BOEには1992年、ジョージ・ソロスとの戦いに敗れ、ERM(欧州為替相場メカニズム)からの離脱を余儀なくされた屈辱の記憶がDNAに刻まれています。当時、私は現役のディーラーでしたが、屈辱にまみれたイギリス人の悲鳴をよく覚えています。為替介入は国家の威信をかけてやるもの。BOEも負け戦はやらないでしょう」
では、BOEの介入があるとすれば、どのような場合か。
「英ポンド/米ドルが1.45ドルから1.38ドルに下がってもやらない。その程度の下落はBOEも覚悟しているでしょうから。
ただ、ひと晩で一気に1.20ドルまで暴落するのであれば話は別。BOE単独、あるいは日米英欧の協調介入もあるかもしれません。そのときはバズーカどころではない、核兵器並みの介入になるはずです」
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:英ポンド/米ドル 週足)
■残留ならユーロ/英ポンドの売りに妙味か
急騰、急落、乱高下、スプレッドの拡大、果ては介入まで何が起きるかわからない英国国民投票。あわてないよう、今のうちからトレードシナリオを練っておきたい。美子さんのトレード戦略は?
「ブックメーカー(賭け屋)のオヤジ、ユーガブのオヤジが何か言うことがあるようなら、それを信じて少額トレードしてみようと思います。あとは結果次第。残留なら英ポンド/米ドルの買いが基本ですが、ユーロ/英ポンドの売りもおもしろいかなと思っています」
その心は?
「イギリスが残留となっても、同様の動きがEU諸国に波及する懸念は拭えません。『イギリスは残ったが次はどこだ?』と連想ゲームでユーロが売られる可能性もあると見ているんです」
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/英ポンド 日足)
■EU離脱なら、あとはリスクオフ、ひたすら売り!
一方、シンプルなのはEU離脱の場合のトレードシナリオだ。
「英ポンド/米ドルは売られますし、ひと言で言えば『リスクオフ』ですから、円買いも発生するでしょう。英ポンド/円の売り、それに豪ドル/米ドルや豪ドル/円の売りも良いと思います」
結果が出るまであと数日。不意の事態にあわてないよう、美子さんの戦略を参考に、自分なりのトレードシナリオを組み立てておこう。
(「英国はEU離脱により、国家崩壊の道へ!? ポンド下落はまだ不十分でさらなる暴落も」へつづく)
(取材・文/ミドルマン・高城泰)
【ザイFX!編集部からのお知らせ】
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【参考記事】
●取引システムが一新されたあのFX会社で『松崎美子のロンドンFX』をタダで…
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