(「相場過熱と共に増える仮想通貨トラブル。その法律上の問題点を弁護士に聞いた!」からつづく)
■多くの「HYIP」は詐欺!? その理由は?
では、次に、以前ザイFX!でも記事で取り上げた「HYIP(ハイプ・High Yield Investment Program=高収益投資プログラム)」について、弁護士の見解を伺いたいと思います。
【参考記事】
●ソレ詐欺かも…仮想通貨絡みの相談急増!「1日1%の配当」など甘い言葉にご注意を
HYIPは、「1日1%の配当」などの高配当を謳って、おもに仮想通貨(特にビットコイン)での出資をウェブ上で募っていたりして、記者個人としても、見るからにアカンやつやろ!? という気がしているのですが…。
これはやっぱり、弁護士の目から見てもアカンやつなんでしょうか?
個人的にHYIPについていろいろと情報収集をしてみたところ…と話し始めた山口弁護士。
「ウェブ上で得た情報を見た限りではありますが、これは、集めた資金を何らかの形で運用しているという実態すらない詐欺ではないでしょうか?」
詐欺…ですか…。
「ウェブ上で得た情報を見た限り…」と前置きしつつ話し始める山口弁護士。山口弁護士が見た限りだと、HYIPは詐欺の可能性が高いそうだ。やっぱり、アカンやつってことか…
「いわゆるHYIPと呼ばれるウェブサイトをいくつか見てみましたが、僕が見た限り、どのサイトも投資の対象が明らかではないし、利益が出るしくみがわからないものばかりでした。こうなると、詐欺ではないか? と考えてしまいます」
まぁ、HYIP関連の情報をネット上で集めていると、「出金できなくなった!」とか「飛んだ! 消えた!」みたいな書き込みをよく見かけますし、山口弁護士が言うように、詐欺の疑いは強そう…。結局は、取引の実態があるかどうか疑わしいということなんですね…。
■仮想通貨の匿名性がマネロンの温床に!?
そう言えば、HYIPの出資は、仮想通貨、特にビットコインで募っているものをよく見かけます。仮想通貨って現金と違って、良からぬことにも利用されやすいのかな? なんて想像しているのですが、どうなんでしょうか?
「そのとおりでしょうね。こういうところでは、ビットコインなどの仮想通貨が持つ送金の匿名性が問題となります。どこの誰が使ったものかわからないものだからこそ、マネーロンダリング(マネロン)の恰好の的になるのではないかと感じています」
たとえ送金先が海外だったとしても、また、銀行口座を持っていなかったとしても、ウォレットからウォレットへ、スマートに資金移動できるのがビットコインのスゴいところの1つだと思いますが、それが裏目に出てマネロンの恰好の標的になってしまっているってことですね。
このマネロン問題については、今回、深く突っ込むつもりはありませんが、利便性と安全性のバランスって、難しいんですね…。HYIPなどで集められたビットコインなども、もしかしたら…そう考えると、怖いです…。
■相手が海外業者の場合は、周辺の人を訴える?
ところで、HYIPは、英語で書かれたウェブサイトが多いですし、海外の業者が運営しているものも多いように見受けられます。もし、海外の業者が運営するHYIPが詐欺などのアカンやつだった場合、騙された! これはアカン! と気づいた時に、その海外の業者を相手に裁判を起こし、損害賠償請求することはできるんでしょうか?
「難しいですね…。そもそも日本の法律は海外にまで及びませんし、その海外業者がある国まで行って裁判を起こすか? と言うと、費用対効果を考えれば現実的ではない。
相手が海外事業者であっても日本国内で被害に遭ったなら裁判を起こすことは可能ではあるのですが、訴訟を提起したら相手方に訴状や呼び出し状を送らないといけないので、それをどこに送るの…? という話になります」
ううううう…。そうなるともう、泣き寝入りしかありませんか?
「いいえ。HYIP以外でも、海外業者を語る投資詐欺というのはあります。その例を元に実務上の話をすると、相手方が海外業者の場合は、その周辺にいる人を訴えるんです」
周辺と言いますと?
「たとえば、その投資商品を勧誘した人。それから、資金の振込先が銀行口座の場合は、その名義人です。また、よくあるのが、勧誘の発端が電話というケースなんですが、その場合は、番号の契約者を突き止めて訴えます。突き止められない場合は、その番号を提供した電話会社を訴えることもあります」
それで騙し取られたお金が返ってくるものなのか? との質問に、山口弁護士は、「海外事業者を語る投資詐欺の場合、本人確認を経て作られる銀行口座名義人を相手として損害賠償請求すると、全額とはいかなくても一部被害回復につながるというケースは結構ある」と回答。
また、「HYIPの場合は、自分でウェブ上で申込んでお金が返ってこないということなので、ハードルは上がりそうだが、そのウェブサイトを作成・管理している人を特定できれば訴えることはできるかもしれないし、個人的な感覚としては勧誘者がいれば、その人を訴えることも可能だろう」とのことでした。
騙された相手が海外業者の場合、まったくもって戦い方がなく、ただ泣き寝入りするしかないんじゃないか? と思っていましたが、場合によっては戦い方がありそうです。
でも、相手が海外業者というだけで、お話のとおり、何かとハードルが上がるのは間違いないので、より一層の注意が必要であることは言うまでもありません…。
■HYIPが日本の業者ならば、日本の法律で戦う
では、HYIPの運営元が海外業者ではなく、日本国内の業者だった場合はどうでしょう? この場合、日本国内の法律に基づいて考えていくのだと思うのですが…?
「んー…」と唸った山口弁護士ですが、もし、そういう相談があり、訴訟を提起するとなった場合を想定して考えてくれました。
「まずは、契約書や取引の説明画面を見て、金融商品取引法(金商法)で定義されている『金融商品取引業』の登録が必要な取引に該当しそうなものかどうかを考えます。その結果、もし、該当しそうであれば、そういう詐欺まがいの行為をはたらく業者であれば、通常、金融庁への登録なんてしませんので、僕なら無登録営業で何をしているの? というところから始めますね」
ここで、「金融商品取引業の登録」について補足しておきます。
金商法では、法律で定められた取引を業として行う場合、金融商品取引業の登録をすることが義務付けられています(金商法2条8項、29条)。無登録で金融商品の勧誘や販売をすると、刑事罰が科されることになっているんです(金商法197条の2)。紛れもない違法行為となります。
金融庁のウェブサイトでは、登録業者を一覧で確認することができますので、自分が取引しようとする業者が登録を受けた業者なのかどうか確認するというのも、変な業者に騙されないためには大切なことだと言えるでしょう。
■「1日1%の配当」って、どんな金融商品になるの?
ところで、HYIPのように、「1日1%の配当」がある金融商品って、いったいどんな金融商品になるんでしょうか? 中にはファンドみたいなものもありそうな感じは受けるんですが…。
「正直、『1日1%の配当を作る』というだけで、金商法の規制対象になる取引かどうかを判断するのは難しいところです。問題は、その配当をどうやって生み出すかというしくみ。もし、金商法の規制対象に該当しないのであれば、取引の実態なんてないということを主張して、やはり詐欺ではないか? という方向も考えなくてはなりません」
HYIPの中には、あとから入ってきた人の資金を配当に回して自転車操業をしているだけというものもあるというウワサを聞きます…。でも、この場合は紹介者が増殖するタイプのものではなく、連鎖していないワケですから、先ほど教えていただいたネズミ講には当たりませんよね?
「連鎖していないのであれば、ネズミ講には当たらないでしょう。そうなると、金融商品としてのしくみが備わっていないのに、そういう金融商品だと偽って販売しているということで、個人的な感覚でいくと、やはり、それも詐欺だと考えます」
個々のHYIPの中身の詳細を確認したワケではありませんが、今ある情報で可能性を考えた場合、なんだかんだHYIPを日本の法律に当てはめると、最終的に詐欺にあたる可能性が高いってことみたいです。
■金融商品まがいのものを販売した業者に対する判例
ここで山口弁護士は、金融商品としてのしくみを持っていないのであれば、それは金融商品まがいのものであるとして、業者側の責任を認めた東京地裁の判決があると言い、ある事件を紹介してくれました。
事件の概要はこうです。
【 金融商品まがいのものの事例 】
ある業者がファンドの形態をとって高配当を謳い出資金を募っていた。しかし、実際は、ろくに運用されず、ただ単に出資金を取り崩して配当に回していただけだった
山口弁護士は、「この事例であれば、出資金の取り崩しなんてしている時点で、もはや金融商品としてのしくみはないと言える。そうであれば、真っ向から金融商品まがいの商品を販売した詐欺商法であると主張して戦うのが、私たち消費者被害専門の弁護士の感覚だ」と言います。
ほかにも、最近よく挙がっている相談例としては、太陽光発電に関する出資を募るというものがあるそう…。なんだか怪しそうな匂いがプンプンしますが、山口弁護士が実際に受けた相談は、こんな話だったそうです。
【 太陽光発電に関する事例 】
まず出資者が太陽光パネルを購入。それを業者が借り受けて、発電所的なところに設置する。そこで売電収益を得るので、パネルの賃料として出資者にお金を払うというもの。業者はこれを投資商品ではなく、あくまで賃貸借だと主張。でも、相談者に、どうやって勧誘されたのか? と確認すると、「年間30%などの高配当をくれると言われた」とのこと
山口弁護士、これは、たぶんあかんヤツですよね…?
「そうですね…。僕自身は、そもそも実態がない詐欺だと見ていますが、あくまで業者の言い分を前提とすると、相談者以外にも出資者はいるみたいなんです。このように見るとファンド(集団投資スキーム)ということになる。そうであれば、当然、金商法の規制が及びます。
それを無登録で単なる賃貸借として販売しているんだから、違法ですよね? という話をしていくつもりです」
実際、こういった投資詐欺のような事例では、裁判になっても業者から関係資料の提出がされず、運用の実態がない詐欺だったというのが露呈するケースが結構あるみたい…。
HYIPについても、もし裁判となれば、こうした事例と同じように、金商法の規制が及ぶものならその中で、それに該当しないのであれば先ほどの事例のように、金融商品もどきの詐欺であると主張して裁判を戦う可能性が考えられるそうです。
(「仮想通貨の売り方は法的規制の対象外!?年利30%のようなウマい儲け話はない!」へつづく)
(取材・文/ザイFX!編集部・向井友代 撮影/和田佳久)
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